どんどんなくなっていく楽しかったモノ。
子供の頃から車が好きだった。
だから大人になったら、好きな車を大切にしながら
それと一緒に少しずつ老いていくのだと思っていた。
でも、そうはならなかった。
特に50〜70年代のアメリカの自動車文化が好きだったので
すこし前に観た映画カーズの描いた世界とハドソンホーネットの感じる悲哀は見ている子供よりも強く心に刺さった。あそこは大人向けだ。
その後の70〜80年代の日本では次々と新しい技術と車が生まれ
それらが日常に溶け込んでいった事を僕は知っている。
映画やドラマの中だけでなく、実際にその車達と青春を過ごした話を
仕事で、旅先で、身の回りで、出会ったたくさんの人たちから聞いて僕は育った。
そして90年代の日本の雑誌や映像を見ると、貧乏学生やフリーターですらおんぼろのシルビアやハチロクを乗り回していて、広告には100万円台からの中古車がずらりと並ぶ。
今では有名人になったレーサーたちがまだ半分アマチュアで
「壊れたら針金や結束バンドでバンパーを留めてしまえばいい」とか
「別の車種の燃料ポンプが安いから流用しよう」などといっている。
リッター100円の時代。消費税はまだ3%。
それから随分たって、そんな車達は入手も維持も少しづつ困難になり
街中で見かけることも少なくなった。
最終的にはきっとクラシックカーのような扱いになる。
映画で有名になってしまった日本車たちは海を渡り
きっともう二度とこの国の土を踏むことは無い。
そして道路は背の高い前輪駆動でいっぱいになった。
安全と効率の為、ボタン操作で自動的にエンジンはかかり
自動的にギアは変わる。コンピュータの次は目がついて
これからブレーキとステアリングも奪われる予定だ。
自動車(automobile)が
「自ら動力を発する車」ではなく
「自ら動く車」になることを
僕が自然に死ぬ前に見届けるのはほぼ確実のようだ。
その時になにかすべきことといえば
きっと座席に腰を下ろすことくらいだろう。
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2020年、店頭で買える写真用のフィルムは
もう数えるほどしか残っていない。
クリーニング店やスーパーなどどこでも現像を依頼できて
3本パックのコダックがサービスで配られていた時代は
いつの間にか終わっていた。
かつて写真学生の最初の1台などと言われ、定番の入門機だった
Nikon FM2は00年代初頭の倍くらいの値段で取引されている。
70年代に新品で販売されていた頃から、90年代以降の中古市場まで
ずっと安価で初心者の為にあったOM-1も高値がつき始め、
いつでも買えると思っていたらいつの間にか躊躇する値段になってきた。この先どうなるかも目に見えている。
法外な値段がつけられた調整済み美品とどうしようもないジャンクの二極化が進む。
車検のような制度がなく、整備に資格も要らないこの業界は無法地帯の一歩手前だ。
ネット上では安く仕入れて高く売る、高効率な副業として
カメラ転売が紹介され、特別な知識を持たない人を経由して繰り返される
不幸な取引がさらに値段を吊り上げていく。
今まで良心と信頼だけで成り立っていた暗黙の約束事たちが、簡単に犯されていく。
スペインに侵略された南米のように、
悪貨に駆逐されていく良貨。
馴染みのお店が、以前の値段では転売屋の仕入れにしかならないからと
その値段を上げたとして、果たして誰がそれを責められよう。
僕は幾つかの価値の有るモデルを手元に残し
この世界から身を引いた。
フィルムを亡きものにしたデジタルカメラ達も今度は自分たちが狩られる番となり、日常の記録という役割を携帯電話に明け渡した。
もはや僕らがやるべき唯一のことは、画面の丸をタップするだけで
特別な知識も技能も一切要らない。
人間の視界よりも広い広角レンズは構図すら決める必要もなく
もしかすると本当は感情すら要らなかったのかもしれない。
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道具は人類の能力を拡張する為にある。
「私の想念は電光の如く流れ走つてゐるのに、私の書く文字はたど/\しく遅い」(坂口安吾)
そのためにこそ、高速で筆記できるタイプライタは生まれ、進化した。
もちろんほかのものたちもそうだ。
いつでも誰でも早く遠くへ移動する為。
いつでも誰でも物事を記録する為。
正しい。
返すことばもない。
得られる結果ではなく手段のほうに固執する人。
道具そのものに執着する人。
そっちのほうがよほど異端だ。
僕は、道具を道具としてではなくおもちゃとして
遊んでいるだけだとわかった。
どんなもっともらしい理由をつけても、
手段より目的だ。正しい。間違っているのは僕の心のほうだ。
ただ、それを愛した自分の人生が間違っていたと思いたくないから
心を痛めているのだと思う。
役に立たないものを愛でても、なんの役にも立たない。
だから、そろそろ前を見なければ。
ところで、あなたは本当に、誰かの役に立って居ますか?