レトロデザインと宮﨑あおいのFM3A
昨日発表されたNikon Zfc
2000年代の呪縛から逃れられなかったまま今に至り、ノスタルジアと後悔の渦のなかを生きる夢遊病患者である僕にとって、あのペンタ部のデザインは特別な意味をもちます。
あれはFM2。
00年台のカメラ女子とそこにコバンザメのように連なるサブカル男達のスタンダードであったFM2そのものだったんです。
見た瞬間20年前の思い出がフラッシュバックし、いま広告の中でそのカメラを構える20歳くらいのモデルさんがまだ生まれたか生まれていないかの時代に一人の女性が世界を変えたことを思い出したのです。
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2000年以前の日本では基本的にはカメラなんてものは気持ち悪いオタクかお父さんのアイテムだったんですよ。
普通は写るんですかコンパクトカメラですからね。
ガーリーフォトと呼ばれるスタイルの始祖はHIROMIXだとされています。
当時彼女が写るんですを使っていたというデマを信じた人達によって、今写るんですが流行っていて、半ば伝説化しているということを、なんと当の彼女も知っているらしいというのがおもしろいんですけど、彼女も実際はコニカ ビッグミニというコンパクトカメラだったかな。
だから、絵文字に出てくるような三角頭の一眼レフはアイドルの追っかけの変態か鉄道マニアか盗撮犯が持つ小道具だったんです。
とにかくヤバイ人の道具。街中でぶら下げて歩くとか有り得ない。こぎれいにしていれば写真家志望?ちょっとでもダサいと犯罪者。
今、他人に「私(僕)おたくなんですよ」と言うのと似てますね。
03年位はもうだいぶましだったけど、電車男が03年だから見てもらえるとだいたい想像つきますかね。オタクという言葉のニュアンス。あれはドラマだからけっこうオーバーに描かれてますけどまああんな感じ。
一眼レフカメラってああいう人たちのアイテムとされていたんです。
そこに颯爽とあらわれたのが宮崎あおい氏。
カメラ女子の始祖とされています。
およそ18~19の女子が持つものじゃないニコン。
シルバーのFM3Aに45mmF2.8Pフジツボフード。
そして手編みの麻紐のストラップ。
プロストラップとか市販のレザーとかじゃない。
自分で作った自分だけのストラップ。
それによってFM3Aは誰がどう見ても、彼女だけの為に存在するアイテムに変身していました。
男も女も全員やられました。
05年以降の女子カメラ誌(05~15年に出版社が変更、17年頃にジェニックに名前を変更)とか、当時の女性の読んでいたファッション雑誌をみるとだいたい宮崎氏はカメラ界で神のようにあがめられてましたね。
まず最初に話を聞くみたいな。
03年に撮影でメキシコに行くことになって、その前日にFM3Aを入手した話をいくつかのメディアに語っていた事を覚えています。
特に、Nikonのオフィシャルページで有名人が自分のニコンを語るtalk talk talkというコーナー。
現在は消されていますが00年代前半に掲載されていたのが一番有名だったと思います。
その後は黒川芽衣さんが05年に宮崎氏がシルバーだから自分はブラックを入手したとか枚挙に暇が無いですが何人もの女優さんやモデルさんが彼女の影響ではじめたとハッキリ公言していました。
そしてもちろん本人もまた、やはりご自身で撮影した写真をいくつかのメディアに発表してみたりお兄さんと一緒に旅をされた際の写真集を出したりして、さらに07年からはオリンパスのイメージキャラクタに抜擢されてカメラ界に女王として君臨しました。
トレードマークの例の麻紐もまるで彼女自身であるかのようにE-410に繋がれて登場していましたね。
その後は神様のカルテでOM-3Tiを、ただ君を愛してるではCanon AE-1を、ラストレシピではバルナック型のライカを、
銀幕の中でもそのイメージは崩れることはなかったですね。
あのFM3Aは今も使われているのでしょうか。日常やお子さんを撮影されたりしているのでしょうか。
表舞台から姿を消した宮崎氏が、今日も笑顔でファインダを覗いていてほしいと願うファンです。
彼女が居なかったら、今でもカメラはもう少し日陰の趣味だったことは間違いありません。
今町中を撮り歩いたりしている女子の皆さんは、知らないかもしれませんがみんな彼女の末裔なんですよ。
もうその時代を知っている人たちも親になったりしてる時代ですけどね。
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僕はその時代を愛しているから、FM3Aを一台持っています。
これは聖杯であり僕がどんな人間だったかの証でもあるんです。
宮崎氏にあこがれた人たちはみなFM3Aを求めました。
初めからFM2が好きだった人はもちろん、金がなかったりデザインが似ているという理由で妥協した人はFM2を買いました。
電子機ならとFE2に行った人も、写真学生のスタンダードといううたい文句に誘われた人も
もっと金がなくてFM初代に行った人もいました。
昨夜はみなさぞ懐かしい気持ちになったことでしょう。
そんな人たちが同じように沢山いるだろうことを想像しながら
僕らが生きた時代もそんなに悪くなかったかもなと美化された思い出に浸るのでした。
願わくば、あのカメラがたくさん売れて20年前の僕らと同じように今の若い人々が、特に女性が、ケータイよりももっときれいな写真をたくさん撮って楽しく幸せに生きて行ってくれたらなと思います。
斜めに掛けたロングストラップの先に、古い縦ロゴで書かれたなつかしいNikon。
彼女のリズムで揺れる。
おしまい。