【写真/旅】記憶の中の昭和、もしくはそれ以前。栃尾地域への旅
場所:新潟県長岡市 旧栃尾市地域
午前中は晴れていたのに、午後からの空の色は空きチャンネルに合わせたTVの色だった。
この地域を構成する、いかにも日本的な彩度の少ない建物達はその演出性の低い光のお陰でますます淡くなり、陳腐な表現だが、さながら昭和後期の写真の世界だった。実際にその頃の建物が多く残っているように見える。
調べてみると人口のピークは1950年代とある。そこからニ三十年程度と見積もってみれば、さほど見当違いというわけでもなさそうだ。
古い町並みを歩く時、その建物達がここに腰を下ろした時代を想像する。
50年代、80年代、最近。壁の木、ガラスの平面性、歪み、金属の錆。
時代ごとの気配をすこしだけ保持しながらそこに佇む建物はその町の持つ思い出が物質化したものでもある。
セメントに塗りつぶされた古い石段を見る。
変化の軌跡。過去の形跡。
実のところ、この雰囲気は新潟県内ではさほど珍しくも無く、というより日本中あちこちにごろごろ残っていることを僕は前職の経験から知ってしまっているのだけど、それを楽しむために構築され維持されている観光地と違い、それらがTVやネットの世界で取り扱われることは殆どないのであまり目立たない。
街中がどんなに昭和的懐かしさに包まれていたとしても車道ではプリウスとノートがモータの音を響かせながら走っていき、夕方のスーパーマーケットチェーンは食材を求める人々で溢れ、銀行と郵便局には次々と人が出入りする。
通りを一本奥に入れば、どこにでもあるような普通の家があり、21世紀を生きている普通の町であることを思い出させてくれる。
ここはただの町である。
僕やあなたが住んでいる町と、何も変わらない。
これまでも、これからも。
ここは栃尾。
上杉謙信ゆかりの地で、かつては繊維で栄えた町。
現在は長岡市に編入され、油揚げが特産品である。
おしまい。