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キリング・アンド・ダイングと休む

 最近、「パリ13区」という映画が公開された。このパリ13区という映画、実は、このエイドリアン・ト(ー)ミネの「アンバー・スウィート」「キリング・アンド・ダイング」「バカンスはハワイへ」が原作になっている。まだ、パリ13区の映画は視聴できていないのだが、このムーブメントに乗っかって海外漫画を喧伝したいと思い、本記事を書いている。

 まず、「アンバー・スウィート」「キリング・アンド・ダイング」は、本作、キリング・アンド・ダイングに収録されている。本作、キリング・アンド・ダイングは、これら2作品の他に「『ホーティースカルプチャー』として知られるアートの短い歴史」と「それゆけアウルズ」、「日本から戻ってみたけれど・・・」「侵入者たち」が収録されている短編集だ。

 ちなみに、このエイドリアン・ト(ー)ミネの初期作品は下記で紹介しているのでチェックして欲しい。

「『ホーティースカルプチャー』として知られるアートの短い歴史」は、前衛芸術を志す若くない芸術家と家族の物語だ。コマ運びが独特で、4コマの連続と、半ページのコマ割りで進んでいく。
下記のように4コマが連続する形で進んでいく。ちなみに、米国でも著作権法でアイデアは保護されないようだ。

4コマで進んでいく

「アンバー・スウィート」は、有名なポルノ女優とそっくりな地味な女性の話だ。
このストーリーがどのように「パリ13区」に反映されているか、映画を見て確かめてみたい。
本編とは関係ないが、作者の描くポップな暴力シーンが好きだ。あと、この作品の頃のト(ー)ミネの線が、日本のイラストレーターの長場さんの線に似ているように思えてきた(だから何というわけでもないが)。

なんか可愛らしい

「それゆけアウルズ」は、壮大なおとり捜査の話だ。
この話は、12個にコマを規則的に割っている。本作品では、各話ごとに色んなコマ割りがされているのがとても興味深い。

「日本から戻ってみたけれど・・・」は、母からの手紙が独白される背景に、日本での情景が描写されていく。まるで映画のオープニングのようなストーリーと描画だ。絵も色彩も美しい小品。

「キリング・アンド・ダイング」は、家族の物語だ。この話においては、さらにコマが細かく割れている。そして、人物以外の背景をあえて(コマが小さいというのもあるのか)描ききらず、人物がぼわっと浮き出てくるような描き方がされており、これがとても良い。おそらく全て背景を含めて色をいれて描き切ってしまうと情報量過多で少し読みづらさが出てしまうのではないかと思う。そこをとてもうまく表現している。
 また、この話では母(妻)が病気で入院してしまうのだが、少しずつ時間の経過とともに頭髪の量(またはそれを隠すべく身につけられたバンダナ)で、その病状が悪化している過程が表現されている。これが、病気であるという点や、病気の内容が語られていると少し説明しすぎであるが、あくまでコマの推移と頭髪の状況で説明を「省略」している点が、本作品の稀有な特徴ではないかと思う。

色使いもすごくよい

以上みてきたように、本作品は漫画としても素晴らしい。本作品の巻末に掲載された、ジミー・コーリガンの作者クリス・ウェアの言葉でいえば「純文学的なフィクション漫画」としては傑作ではないだろうか。

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