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ことしもありがとうございました。ぼくたちの素晴らしきコミックマーケット。

 きのう、第105回目のコミックマーケット(通称C105)が終わりました。

 ぼくも参加して同人誌『山本弘論』を頒布し(コミケでの物品の取り引きは販売ではなく頒布と呼ぶ)、そこそこの売り上げを記録したわけなのですが、コミケと打ち上げから一夜経ち、あらためて実感させられるのは、その奥深さと素晴らしさ。

 ぼくは数年ぶりのコミケ参戦だったのだけれど、ひさしぶりに体験するとやはりまた来てみようかな、という気持ちにさせられます。

 そう、コミケ、とくに頒布する側でのサークル参加には、何度くり返しても「またこんども」と思わせられるでたらめな魅力が存在するのです。

 しかし、サークルとして参加するためにはかなりの手間暇と金銭がかかるわけで、やったことがない人の目からは「何を好き好んでもの好きな」という風に見えるかもしれません。

 そこで、今回はコミケで本を売って楽しんだ熱気も冷めやらないうちにその底知れない魅力を書きとどめて紹介し、未体験の方に「あなたもいかがですか?」と誘いかけてみることとします。いや、ほんと、コミケ、ことにサークル参加はいちどやってみるとクセになるよ!

 C105はすでに幕をとじたけれど、やがてC106やC107が始まることはすでに決定していて、そのための準備も開始しています。以下には知らない方にも否オタク含有率0%(『らくえん』)といわれるその魔界的な空間の良さが伝わるよう縷々書き進めていくので、いくらか長くなりますが、どうか読んでみてください。

 そして、次はあなたもコミケの民になろう!


コミケに「ただのお客さん」はいない。

 コミケことコミックマーケットは日本各地で随時開催されている同人誌即売会イベントのなかで最大のものです。夏と冬の二回開かれ、それぞれ数十万人を動員するその熱気は、体験してみないとわからないもの。そしていちど体験してしまうと否応なくわからせられるものでもあります。

 ただ規模が大きいイベントなら他にもあるかもしれないけれど、コミケの特徴は「お客さんがいない」こと。

 いや、あきらかにお客さんたくさんいるじゃんと思われるかもしれませんが、その巨大な内実の「すべて」が参加するひとりひとりの良識に依存するコミケにいるのは「責任ある参加者」だけであり、「ただのお客さん」はいないのです。

 いわばコミケは日本中から人が集まる「日本最大の学園祭」のようなもの。そこではだれもがマナーとルールを守って秩序正しく行動することを求められ、ほとんどの人がじっさいにそう行動しています。

 一歩間違えれば致命的な人身事故につながりかねない濃密きわまりない人口密度であるにもかかわらず、100回を超える開催を通して一度もそのような事態になっていないのは、準備会の活躍もさることながら、参加者たちひとりひとりが「自分だけトクしてやろう」と考えず秩序を維持したその結果なのです。

 もちろん、一部に不心得者がいないわけではないけれど、コミケ参加者の大半は率先してコミケの運営に協力しているといって良いでしょう。

 だからこそあからさまに危険そうであるにもかかわらず現実には安全にこのような規格外のイベントが成り立つわけで、ただ自分の利益と欲求だけを満足させたい人はコミケには向かないのです(いや、ほんと、自分の欲望のためにルールを無視する厄介者はいなくならないこともほんとうなんだけれどね……)。

コミケは最高にリベラルな空間

 じゃあ、コミケの何がそこまでして参加したくなるほど面白いのか?

 ひとつには、その文字通り「何でもあり」の無節操なバラエティがあげられることでしょう。コミケは第一回の開催以来、ありとあらゆる物品の販売を貪欲に受け入れてきました。

 一般的には男性向けの「えっちなうすい本」やBL同人誌が売っているところというイメージかもしれず、またそれはその通りでもあるのですが、しかしコミケの多様性はセクシャルな側面だけでは語り尽くせません。

 コミケはほんとうに文字通りの意味で多様性の祭典です。そこではどのような変態的だったり倒錯的だったりする趣味や欲望も鎧袖一触の否認や否定を受けることはありません。

 そこで、コミケにはじつにさまざまな種類の本(やディスクやグッズなど)が集まってきます。たしかにいかにもこどもの教育に悪そうな性的な品が多数を占めていることは事実ではありますが、じっさいには「こんなどマイナーそうな趣味のどこに需要が?」と疑問に思われて来るような品も多々あり、それが「趣味のるつぼ」としてのコミケの多彩さに貢献しているのです。

 いやまあ、たしかにホモマンガやエロマンガがいちばん売れることは間違いないのですが、そこにばかり注目するとコミケの本質を見失うことになるでしょう。

 コミケはすべてを呑み込む絶対寛容の空間。そこではどんなレアな趣味の人でも同好の仲間を見つけることができます。

 わけのわからない格好をした人がそこらへんをあたりまえのように闊歩していてもだれも注目すらしないし、どんな異常な内容の本が売っていても非難を浴びることができない。コミケはまさに究極的な意味でリベラルな場所なのです。

コミケはひとつの巨大な「コミュニケーション・メディア」である!

 しかし、一方でコミケの楽しさはただそれに尽きるものではありません。コミケのひとつの魅力は「コミュニケーションを媒介してくれる」こと。

 先述した通り、コミケにはその道の達人から市井の仙人のような人まで、じつにいろいろなジャンルのオタクが集まるので、ふつうに考えたらとんでもない規模のトラブルが頻発しそうなものです。

 しかし、現実にはそうはなりません。むしろ、そこでは参加者たちは他の参加者の存在を容認しあい、尊重しあい、最も広い意味での「仲間」として振る舞っています。

 そこにはあるいはどうしようもないようなろくでもない趣味嗜好も混ざっているかもしれません。しかし、コミケにおいては、コミケにおいてだけは、それは道徳的な非難を受けることはない。そこで、コミケではだれもが安心して交流を楽しむことができます。

 コミケに参加しつづけていると、「コミケでだけ顔を合わせる人」が生まれたりします。商品の売り買いよりもむしろ人と逢うことのほうが面白いと感じる方もいらっしゃるに違いありません。

 ぼくも半分くらいはそう。今回もめったに顔を合わせない友人知人と会ったりして来ましたが、もしコミケがなければそれはむずかしかったことでしょう。

 コミケはいくつもの出逢いや再会を生み出す場でもあり、それゆえにドラマティックな展開や信じられないような偶然を生むこともあります。そして、そうやってしばしの歓談を味わった人たちは「また次のコミケで」と別れ、それぞれの日常に帰っていくのです。

 このようなイベントは他になく、ゆえに人々はコミケを堪能しつづけます。たとえ、新型コロナやインフルエンザが猛威を振るっても、それでもなお。

サークル参加は「お店屋さんごっこ」

 そのようなコミケの面白さを最大限に味わうための方法がサークル参加です。コミケでは同じ大きさの机が延々何千と並べられ、一種独特の風景を創り出しているのですが、その「サークルスペース」を借りて自分の本なり品を売ることをサークル参加と呼びます。

 で、これこそがまさにコミケの最高の楽しみ方といって良いのではないかと思うのです。ただほしいものを買い求める側としてしかコミケを味わっていない人は、コミケの魅力の半分以下しか知らないといえることでしょう。

 じっさい、サークル参加して自分で作ったいろいろな品を売ることはとんでもなく楽しい。そして、一度経験したらまさに忘れられなくなるような不思議な楽しさがあります。

 こればかりは自分でやってみないとわからない性質の楽しさなのですが、ようはひとつの「お店屋さんごっこ」であり、自分が生み出したもの、自分自身の一部とすらいえるようなものをだれかが目の前でお金を出して買って行ってくれることにはまさに他には代えがたい歓びがあるのです。

 はっきりいって、ネットで一万ヒットとか十万ヒットの記事を書いても、「ふーん?」くらいの感覚しかないものなのに、コミケで一冊本が売れるとたまらない感動があります。

 じっさいに顔と顔を合わせているからこその感動です。ぼくはいつもコミケに行くと「あ、ぼくの読者ってほんとにいたんだ」と思うのですね。そこには「ただの数字」ではない生身の人間がいて、だからこその歓びがある。これを味わってしまったら、もうコミケから離れられません。

あなたもコミケに来てみませんか?

 いろいろ書いてきましたが、しょうじき、じっさいに参加してみないとコミケの良さはわからないと思います。

 いや、自分の趣味に合致するえっちな本を大量に手に入れられることもたしかにひとつの良さなのだけれど、それはコミケのひとつの断面にしか過ぎない。

 現実には、コミケにはもっとたくさんの素晴らしさがあって、だから、二日で三十万人を超すというとほうもない数の人たちが毎年二回、凝りもせず集まってくるのです。

 今回は来なかった、来られなかった皆さんもぜひいつかそのうち参加してみることをお奨めします。できれば、なにか本を作ってサークル参加すると良いでしょう。

 同人誌の作成やサークルでの参加にはたしかにさまざまな苦労が付きまとうこともほんとうですが、しかしそれを帳消しにして余りあるものすごい楽しさもまたともないます。それはちょっと他の楽しさには代えたい性質のものです。

 あなたがオタクでも、そうでなくても、コミケに行けばそこで仲間を見つけることができる。そしてその仲間たちと触れ合うことができる。いや、ほんとうにコミケは素晴らしい。

 まあ、ぼくも主に体力的な問題から夏のコミケに参加しようとは思わないのだけれど(ほんとに健康を害する可能性がある)、でも、しばらくコミケに行かないでいるとどうしてもまた参加したくなります。

 コミケにはそういう麻薬的といいたいような楽しさがある。どうぞ、ぜひ、あなたもコミケへいらしてください。あなたがどんなめずらしい趣味や嗜好を持っているとしても、コミケは決してあなたを決して拒絶せず受け入れてくれます。

 その母なる海のようなおおらかさ。それが、つまりはコミケの最大の魅力であるのかもしれません。

 ぼくたちの素晴らしきコミックマーケットへ、ようこそ!

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