黒いボールのあいさつ
私は引っ越し準備の真っ只中だった。
確か引っ越しする日の、前日だったと思う。
片付けも終わり、この部屋での出来事を振り返りながら掃除に勤しんでいた。
部屋はワンルームで、玄関から入ると
すぐに台所がある。
台所の真後ろはお風呂だった。
台所とお風呂の間に通路があり、その通路で掃除していた時だった。
「ドンッ!」と音を立てて
お風呂のすりガラス越しに、黒いソフトボールくらいの球体がぶつかってきた。
見た瞬間、驚いて固まった。
飼っている猫かな?と思ったが、猫にしては形がおかしい。
あたりを見渡すと、猫は音に驚き
部屋の真ん中で固まっている。
物が落ちたのかもしれないと思ったが、
お風呂の道具は、全部片付けたはずだった。
怖すぎるので猫を抱えて、
「失礼します!」とクソデカボイスと、状況を理解していないキョトン顔の猫を小脇に抱えて
勢いよく扉を開けた。
そこには、ガランとした真っ白いお風呂場があるだけだった。
落下しているものも何もなかった。
最後に、何かが挨拶に来てくれたのかなーなんて呑気に思った。