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【1-3】攻めと守りを同時に実現するネットワーク効果
ポッドキャストの学びを記録として残す。
ネットワーク効果とは、ユーザーが増えるほど、そのプラットフォームやサービスの価値が自動的に高まっていく性質のことである。特に、以下の2つのタイプが存在する。
・相互ネットワーク効果
・ネットワーク外部性
相互ネットワーク効果
例として挙げられるのがECサイトやオークションサイトなどで、売り手が集まるほど買い手にとって有益となり、買い手が集まるほど売り手の売上チャンスが増えるため、さらに売り手が増えるという好循環が生まれる。
一定の臨界点(利用者の数や種類の豊富さなど)を超えると、あらゆる商品やサービスがプラットフォーム上で手に入り、他に移るインセンティブが激減する。その結果、プラットフォーム運営者がきわめて強い立場を獲得することになる。
例としては、
・メルカリ(出品者と購入者の相互作用)
・ヤフオク(オークション形式で出品・入札双方が集まる)
・Amazon(多様な商品を置くことで売り手・買い手双方を囲い込む)
など。
ネットワーク外部性
「仲間外れになりたくない」「他人と同じツール・手段を使わないとやり取りができない」という心理・環境から、特定のプラットフォームやサービスを利用せざるを得なくなる性質である。
コミュニケーション手段の場合、自分の周囲があるサービスで連絡を取り合っていると、同じサービスを使わないと共同作業や情報交換に乗り遅れる。これが典型的なネットワーク外部性であり、利用者が増えるほど新たな利用者が引き寄せられる。
例としては、
・LINE(学校や職場のグループ連絡で外せない)
・マイクロソフトのOfficeソフト群(WordやExcelでファイルが送られる以上、同じソフトを使わざるを得ない)
・かつての電話会社(回線を独占した結果、競合が入りづらいどころか国から強制分割された)など。
相互ネットワーク効果の詳細
売り手→買い手→売り手というループ
売り手が多いほど買い手にとって魅力的となり、買い手が増えるほど売り手も集まるという自動増幅が起こる。
このループが一定レベルを超えると、「あそこに出品しないと売上を逃す」という状況に売り手が追い込まれ、それがさらに買い手を呼び込み、ますます強固なプラットフォームに成長する。
"売り場"に対する"売り手"の心理的ハードル
圧倒的に強い売り場(プラットフォーム)が1つ生まれると、売り手はその売り場に乗らざるを得なくなり売り場への依存が進む。
店舗や企業からすると、「そこに依存しすぎると、条件を押しつけられてしまうかもしれない」という緊張関係があるが、最終的にはユーザー(買い手)が多い側に合流しなければ売上機会を失うため、強い売り場に集約されがちである。
実店舗との違い
イオンモールなど物理空間にはスペースの限界があり、どれだけ大型でも置ける商品の種類に上限がある。一方、オンラインでは理論上、無限に商品を並べることが可能であり、ニッチな需要を拾える「ロングテール」戦略との相性が良い。
Amazonの例では、まずニッチな本などをカバーすることで「ここに行けば何でもある」と買い手を集め、それによって売り手(出版社や出品者)も集まるという循環が成立した。
ネットワーク外部性の詳細
仲間外れを嫌う心理
連絡手段として、周囲がLINEでグループ連絡をするようになると、使わない人は情報を受け取れず孤立してしまう。結果として、本人の好みとは無関係にLINEを入れざるを得なくなる。
ファイル形式などの標準
WordやExcel、PowerPointが世界中で標準的に使われているため、「相手も自分も同じソフトを使わなければ作業が成立しない」状態が作られている。
このファイル互換性の問題は、ユーザー全体に「同じ道具を使わないと業務が進まない」という強烈な圧力をかけるので、結果としてマイクロソフトの圧倒的独占力につながった。
かつてAT&Tがアメリカ国内で電話回線を独占し過ぎたため、国から分割命令が下されるという事態も生じている。これは「ネットワーク外部性があまりにも強力だと、競合市場が成立しづらい」という極端な例である。
なぜネットワーク効果は強力なのか
攻めと守りが同時に強化される
「売り手・買い手の相互作用」や「標準化による強制力」がぐるぐる回ることで、顧客・ユーザーが集まりやすくなる(攻め)。一方、参入を試みるライバルにとっては「すでにユーザーがまとまってしまった市場」に割り込むハードルが高騰する(守り)。
臨界点(ティッピングポイント)を超えると爆発的に伸びる
どちらのタイプも、最初のうちはユーザー数が限られ価値が薄い。しかし一度「一定の利用者数」や「一定のシェア」を獲得すると、そこからは好循環が加速し、周辺プレイヤーを巻き込んで圧倒的優位を築く。
例:ECサイトで在庫が少ないうちは誰も集まらないが、ある程度出品が増えると「ここへ行けば何でもある」という評判を得て、爆発的に利用者が増える。
事業にネットワーク効果をどう活かすか
プラットフォーム構築の発想
自ら売り手と買い手を繋ぐ(あるいはユーザー同士を繋ぐ)プラットフォームを構築し、両者が相互に価値を生む設計を作る。
例えば、メルカリが「ソールドアウト品の表示」をあえて残すことで、新規出品者に「こんなものでも売れる」という事例を見せたように、売り手が増える工夫を綿密に行うことが重要である。
標準化やプロトコルを握る戦略
マイクロソフトのOffice製品のように、一度ファイル形式や使用ツールを業界標準化できれば、切り替えコストの高さで競合を排除しやすくなる。
ビジネスの現場でメインのファイル形式として定着させることに成功すれば、「別のソフトを使うと作業効率が落ちる」という現実が障壁となり、ユーザーは離れづらくなる。
ユーザーコミュニケーションの設計
LINEやSNSに代表されるように、ユーザー同士がやり取りするインフラを押さえてしまうと、一度まとまったユーザー層が生まれた段階で爆発的な拡大が期待できる。
コミュニティ内で「このツールを使わないと不便で仕方ない」という状況を作りだす設計がポイントとなる。
まとめ
ネットワーク効果には、「相互ネットワーク効果」と「ネットワーク外部性」という2つの流派がある。いずれも利用者が増えるほど価値が増大し、結果的に強大なプラットフォームや標準規格を生み出す力がある。
相互ネットワーク効果:売り手と買い手の好循環が起こるマッチング型のプラットフォームに多い。一定数を超えた途端、ユーザーを抱え込むことで圧倒的優位を確立する。
ネットワーク外部性:「仲間外れになりたくない」「同じプロトコルを使わないと不便」という心理的あるいは技術的要因で、ユーザーがそのサービスを使い続けるようになる。ファイル形式の標準化やSNSの普及などが典型事例である。
いずれのタイプも、一度ユーザーが集まり始めると雪だるま式に成長し、参入障壁が高くなるため、ビジネスとしては「攻めと守りが同時に成立する」究極の強みを得られる。ただし、臨界点に達するまでは苦戦するケースも多く、強力すぎる独占状態が生まれると法的な問題(強制分割など)に発展することも歴史が示している。