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【1-4】ネットワーク効果の立ち上げ方
ポッドキャストの学びを記録として残す。
ネットワーク効果の立ち上げが難しい理由
一度ネットワーク効果が回り始めると強固になる。しかし、最初の段階(ユーザーが少ないうち)は「売り手がいないから買い手が来ない」「買い手がいないから売り手が来ない」という負のスパイラルや、「仲間がいないからツールを使う理由がない」というジレンマに陥りやすい。
ネットワーク効果を立ち上げるまでのハードルを超えることを、しばしば「ティッピングポイントを越える」と呼ぶ。例えば、水が100度で沸騰して一気に水蒸気になるように、ある閾値を超えるまでは価値が発揮されにくいが、超えた途端に急加速する。この「超える前」が非常に難関となる。
立ち上げ方法1:アトミックネットワークを狙う
ネットワーク効果を立ち上げるには、最初から大きく狙わず、まずは「小さな集団の中でネットワーク効果を成立させる」戦略が有効とされる。これを「アトミックネットワーク」と呼ぶ。
Facebookの例
当初はハーバード大学内の限られた学生コミュニティに焦点を当て、「仲間外れになりたくない」という心理を小さな範囲で発動させた。そこで人気を確立したうえで、次に他大学の一部コミュニティに拡大し、それを段階的に全米・全世界へ広げていった。
SNSや学生向けアプリの一般事例
若者のコミュニティ(大学・パーティーなど)をターゲットにし、そこで「このアプリを使わないと仲間になれない」「イベント情報を逃す」状態を作る。小さい集団でも100人中30人が使えばかなりの利用率となり、周囲も引き込まれやすい。
クラウドワークスの例
企業(発注側)とエンジニア・デザイナー(受注側)のマッチングサイト。「優秀なWebエンジニアを探すのは難しい」という課題を切り口にし、エンジニア勉強会に社長自らピザを持ち込み、イベント協賛で直接登録を呼びかけるなど、泥臭いアプローチでまず核心ユーザーを確保した。小規模でも「希少人材が集まる場」としてのアトミックネットワークを成立させることで、後から企業も自然に集まってくる好循環を生んだ。
立ち上げ方法2:資本力で一気に突破する
一方、大企業や資金力のあるスタートアップが取る戦略として、「大量の投資・広告費を投入して、一気に売り手と買い手を呼び込む」やり方がある。テレビCMや大幅なキャッシュバックを用い、初期から大量のユーザーを短時間で集めることで、ピンポイント(閾値)を速攻で越えようとするアプローチである。
メルカリの例
女性ファッション分野などからスタートしながらも、大量のテレビCMで一気にユーザーを獲得し、売り手も買い手もほぼ同時に参入させた。先行していた競合フリマサービスとの局地戦を上回る勢いでプラットフォームを拡大し、結果的に国内フリマアプリの代名詞的地位を確立した。
PayPayなどのキャッシュレス決済の例
数十億円規模のキャンペーンを連打し、加盟店(売り手)と利用者(買い手)を一気に呼び込む。「ここで使うと得だ」という理由で買い手が増え、買い手がいるから加盟店も入る、という正のループを短時間で作った。
戦略選択と注意点
泥臭いアプローチ vs. 資金力頼み
起業家が予算を潤沢に持っているケースは稀なため、最初は「アトミックネットワークを丁寧に作る」戦略が現実的である。一方、大手が後から資金力を使って一気に参入してくる可能性もあり、その場合どう差別化し守るかが鍵となる。
ハードサイドを先に集める
売り手・買い手がいるプラットフォームでは、「どちらが集めにくいか」を見極め、まずそこを押さえるという手法が有効。クラウドワークスのように希少価値の高い人材を集めれば、自然と発注側(企業)が集まる。
ネットワーク効果には気づかれにくい形で育てる
大手との競争を回避しつつ、小さな市場でネットワーク効果を完成させ、「気づいたらそこに強力なコミュニティができていた」という状況を作るのも一つのセオリーである。
まとめ
ネットワーク効果は確かに強力で、一度回り始めれば競合の参入を阻みやすい「最強の戦略」とも言える。ただし、立ち上げのハードルは高く、最初のユーザーやコミュニティをどう獲得するかが最大の難関になる。
この乗り越え方としては、大きく2つある。
・アトミックネットワーク:まず小さな集団で完結する仕組みをつくり、一部で強固な結びつきを作る。
・大規模投資:潤沢な資金や広告で一気に閾値を超える。
いずれの方法も一長一短があり、サービスの性質や時代のタイミング、競合の状況によって取るべきアプローチは異なる。起業家が資金をあまり持っていない場合でも、Facebookが大学コミュニティから着実に広げたように、またクラウドワークスが現場の勉強会で個別にエンジニア登録を促したように、泥臭い取り組みで小さなネットワークを築き、そこから段階的に拡張していく道がある。
ネットワーク効果を理解し、最初の核づくりに専念することが、強い事業を生む鍵となる。