2月のお気に入り詩
ときとして私たちはみつめないだろうか
かつて鹿であったように 野原を
魚であったように 海の色を そして
小鳥であったように 空のはるけさを
そんなとき私たちは知るのだ 私たちの心に
あてもなく希望が さだめられた相手もなく別離が
なにものにもまじえずに ただそれだけが始めから住みついていたのだと
伊藤海彦「ときとして私たちは」
2月にかぎらず、折にふれ心に唱え続ける最もだいすきな詩の一節です。
自分自身がかつて木であったときのことを思い出す。
風が私のもとを訪れ、ときにはそこにとどまり、またふいに去ってゆくときのこと。
そして私は、いま隣で横たわる恋人も、いつか私のもとを去ってゆくかもしれないことを思い出す それが明日かもしれないことを。
それは手を伸ばせば引き留めうることではなく
かなしいことでもなく
風がそよぎ、去っていった、ただそれだけのことであり
そこに風があったことのよろこびが私を遠くまで照らしていく
日本の詩は自然情景がうつくしく、
生きた土地の気候によって生まれる感情も言葉も変わるだろうなあと思わされます。
伊藤海彦(1925-1995)は詩人かつ放送作家で、また、数々の合唱曲の詞も制作されています。東京出身、東京勤務の人生だったようですが、山や川や海に人間がすいこまれていくような詩が魅力的な詩人です。
今回紹介した詩はこちらに収録されています↓
カイバシラアリサ
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