メメントラブドールは「面倒、トラブルめ」と言えなくもない。
これまでのあらすじ。
「KindleでBL売れるよ」というXのポストを見た私はじゃあ書いて売ろう、と思った。しかしその前に少し勉強が必要かな、と思い、先日、冒頭試し読みした「メメントラブドール」という小説がそんな内容(男性の同性愛)だったと思い出し、読んでみたのであった。
変化球みたいな比喩や言い回しに疲れたので直球のように言いますが作者名が変。市街地ギャオ氏。市街地に突如現れた怪獣のように、平和ボケしたお前らの脳味噌を俺の小説で破壊しつくしてやる、という強い意気込みを感じます。どうかやっつけられないでね、正義に。
題名「メメントラブドール」。メメントと言えばメメントモリ。マルマルモリモリという歌も流行りましたが、メメントモリはラテン語で、意味は「死を想え」。みんないつか死ぬのだから、忘れずにね。なので何となく、メメントラブドールは自我を持ったラブドールが死について考える、または自分には訪れない死に憧れる、老若男女に襲いかかり「死ぬってどんな感じ?」と聞いてから殺す、そんな話かな、と思ってましたが、調べたところ「メメント」の意味は「想え」の方のようです。「モリ」が「死」。マルマルモリモリみんな食べるよ。
つまり「メメントラブドール」は「死のラブドール」ではなく「想うラブドール」という意味になり、ラブドールが何かを想ったら、ラブドールが主体的に思考してしまったら。激しく嫌悪されるであろう10割の購入者の絶望を想うとやるせない気持ちになります。
しかし小説内にラブドールは出てきません。おかしいですね。部屋を間違えたのかしら。
ちなみにさっきから連呼している「ラブドール」ですが、これは主に男性が自慰行為の際に用いる女体を模した人形です。もちろん女性器のようなものもあり、挿入時に男性器が奥まで届くと押しボタンが「カチッ」と押され、何かが作動する仕組みになっています。奥まで届かなかった場合や、届いたとしても室内にWi-Fiがない場合は何も作動しません。もし作動させてしまったとしても、それによって引き起こされる厄災の8割は使用者とは無関係の場所で起こるようなので、さほど気にしなくても良いでしょう。
小説の内容について語るのは野暮なのでしょうね。みんながそれぞれに読み、それぞれに想い、でもその傍らには常に死があることを忘れずにいてくれれば、それで充分なように思えますが、メメントラブドールというタイトルに「死(=モリ)」は含まれていないことを考えると、この思いも間違っているような気がしてきます。私はいつだってそう。物事の本質を捉えられず、表層に浮かぶ、手に取りやすそうな、私でも扱いきれそうなものにばかり時間を費やし、人生を間違い続けるのです。本当は表層のそれだって満足には扱いきれず、ただ自分の出来る範囲で、自分の都合の良いようにいじり回して、忘れて、また次の手頃な題材を探して、そうして年を重ねて、何も積み上げられないまま老いて、空っぽの両手に唯一染み着いて離れない、死。
小説の内容について書きなさい。
やる気のない若い男は、IT企業で働き、夜は副業で女装するバーで働き、趣味でマッチングアプリで出会った異性愛者の男の性器を咥える動画をSNSに投稿しています。「趣味で~」から「投稿しています」までを10文字くらいで表す言葉があるとステキだと思いませんか?
男の思考や感情が、様々な言い回しでたくさん書いてあるのが「純文学!」という印象を与えます。「」と!には挟まれた単語に小指2本分の冷笑を差し込む効果があります。そんなことないですけどね。まったくないとは言えませんけど。
男は、妙にアグレッシブな年下男と出会ったり、テンプレート的な意地悪上司役を授かって生まれた意地悪上司に怒られたり、育ちの悪い星の下に生まれた育ちの悪い女に怒られたり、なにかの動画が流出したりします。難儀です。でも在宅勤務だからいいなぁと思います。私は普段より30分早く起きて、車や出入り口の雪かきをしてから会社に行って、帰る前にまた車の雪を下ろして、家の出入り口の雪かきをしてからようやく帰宅しているのに、男はずっと暖房の効いた部屋の中でお金を稼いでいるのですから、少しくらい怒られたっていいじゃないかと思います。私だってよく怒られるし。朝から除雪をした上で怒られる私よりぜんぜん平和だと思います。
男はアグレッシブ年下男に向かって湿度の高い、行儀の悪い言葉を発し、すぐに失言であったと気づき、さりとて一度口に出した言葉と精子は取り返しがつかず、そして状況もどうにもならないまま物語は終わります。今の文章の中からいらない言葉を探し、二重線で消しなさい(全文でも可)。
つまり(結論)タイトル「メメントラブドール」とは、「ラブドールのようにただ性を搾取していたはずのアグレッシブ年下男に翻弄されそうな私の想い」か、「ラブドールのようにただ性を搾取される私の想い」のどちらかのような気がします。違うかもしれません。正解は作者か、読んだ貴方の心の中にあるのかもしれませんし、本当は正解なんてないのかもしれませんし、正解のない世界なら間違いだってないのかもしれませんが、間違いはどう考えても間違いです。フォローの仕様がありません。