見出し画像

「原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち」

9月にポレポレ東中野で公開予定のドキュメンタリー映画「原発をとめた裁判長」(監督・脚本 小原浩靖)を先日の試写会で観てきました。

https://saibancho-movie.com/

 2014年5月21日、当時、福井地裁の裁判長だった樋口英明氏は、関西電力大飯原発3・4号機の運転差し止めを命じる判決を下した。そして定年退官を機に日本のすべての原発に共通する危険性を社会に説く活動を始めた。「原発は日本で頻発する地震に耐えられない」と指摘する「樋口理論」を打ち立て、定年退官を機に、原発に警鐘を鳴らす啓発活動を始める。

 本作は、原発差止訴訟の先頭に立つ河合弘之弁護士とともにこの闘いを続ける樋口氏を追うと同時に、被災地で原発に代わる太陽光発電による農業復活へと果敢に挑む農業従事者たちを追った力作だ。

 92分間の映像を観ながら、私も被災地へとしゃしゃり出て取材した11年前の日々を思い出していた。ゴーストタウンと化した避難区域、その周辺の農家、そして誠意を感じられない東電の対応…。あまりの事態の大きさに打ちのめされ、一記者としてこれほどの無力感を感じたことはなかった。それでも確信は持てた。原発依存のエネルギー政策を続けることは、正気の沙汰ではない。今でもそう思っている。

 この映画を観て救いに感じるのは「血の通った裁判官(長)」が、この国にも存在するということだ。「裁判官は文系。(原発について)どの式で算定すべきかと言うことは分からない」という自覚する姿勢には驕りがない。その上で樋口氏は断言するのだ。「環境問題を原子力発電所の運転継続の根拠とすることは甚だしい筋違いである」と。

 監督の小原さんは「日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人」などの傑作も創りだしているドキュメンタリスト。今回の力作は自主宣伝、自主配給で映画館一件一件に電話をかけていると聞いて驚いた。

 3・11から11年。あの大惨事を世の中が忘れ始めている今、一人でも多くの人がこの映画を観て、感じて、考えることは、間違いなく有意義なはずだ。

いいなと思ったら応援しよう!