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「北海道犬旅サバイバル」

 無銭旅行を満喫するということは、若者の特権だと勝手に思っていた。学生時代に山岳部に所属し、合宿がない時期にはバックパッカーになって東南アジアやアフリカの旅を満喫していた私も、サラリーマン生活がそろそろ30年になるという時期になると、そんな日々は遠い昔のことのように感じる。

 ところが、50歳を過ぎてそんな無銭旅行を完遂した人物がいる。サバイバル登山家、服部文祥。一匹の猟犬を連れて銃を持ち、宗谷岬から襟裳岬まで北海道南北分水嶺700キロを2か月かけて踏破した記録を「北海道犬旅サバイバル」(みすず書房)と題して出版した。

 服部さんは私より2つ年上。出身校は異なるが、大学山岳部の「先輩」にも当たる。同世代だからこそ「この歳になって無銭旅行ですか…」と驚いてしまったが、北海道内の山中で鹿を撃ち殺しながら食料を調達していくその手段は、学生時代の長閑な響きを持つ「無銭旅行」とは、かなり趣向の異なるものだ。

 綿密にこの旅を計画した服部さんは、銃という食料調達手段以外にも、デポジットも施している。この作品を読んで面白いところは、そこまでしても、食料調達は自己完結せず、先々で出遭う人々の善意にも頼っているところだ。

 私は勝手に、そういう「旅先での人々の善意」は、本当にお金を持っていない二十歳そこそこの若者にのみ、向けられるものだと思い込んでいたが、この本に登場する人々は、眼光が鋭く、いかにも獣臭が漂っていそうな五十絡みの中年に対して、とても優しいのだ。

 そうか。自分は何か大きな誤解をしていたようだ。服部さんのように「自力本願」志向が強いはずの登山家ですら、たった一人だけでは、どうにもならない時には「他力」が手をさしのべてくれるものなのだ。

 そう思うと、今すぐにでも山旅に出て、自由を謳歌したい気持ちになって来た。いや、今すぐでなくても良いではないか。旅という「命の洗濯」を楽しむのに、年齢制限など、あるはずがないのだから。

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