UM790Proを1ヵ月使ってみた感想&気になった点|買いorナシ?【前編】
10月17日公開の記事で、MINISFORUM Venus UM790Proを買ったことを報告したが、時がたつのは早いもので、購入からあっという間に1ヵ月が経過した。
そもそも実用マシンというよりは、好奇心で買った側面が大きく、ありとあらゆる用途を試しながら、可能な限りハード・ソフト両面でいじくりまわした。
今回は、ITプロフェッショナルがUM790Proを1ヵ月間使い込んだ末の感想・気になった点を徹底解剖していきながら、UM790Proは「買い」なのか否かを、前編・後編に分けて総評する。
巷のネット情報の補足や、他では絶対に触れられないであろう超きめ細かいポイントについても根掘り葉掘り紹介するので、UM790Proの購入を検討している人の参考になれば幸いだ。
UM790Proを1ヵ月間使った感想は?
この記事は、10月17日に公開した以下の記事の続編である。
筆者がどのような目的で、どのような点に注目してこのパソコンを選んだのかをとらまえたうえで、ここからの内容を読んでいただきたい。
動作は残念なほど正常で, CPU性能も遺憾なく発揮できている
まず大前提として、家に届いた直後の初回起動時からこの記事を書いている現在に至るまで、UM790Proは何の異常やエラーも起こすことなく正常に動作している (常軌を逸した操作を行ったことが原因で出た異常やエラーは除外)。
一般的なデスクトップパソコンやノートパソコンとは一線を画す、「ザ・イロモノPC」という製品だから、何かとトラブルや変わった操作性・整備性故の苦戦を予想し、それを楽しんだりnoteのネタにしたりしようと考えていただけに、何事も起きずにパソコンとしてのごく基本的な役割を日々愚直に果たすUM790Proには、少々の残念さを感じる(笑)
購入に際しての事前の情報収集では、「高負荷作業時に突然電源が落ちる」なんていう不穏当な声も聞かれたが、3時間ベンチマーク耐久や複雑な仮想マシンのシステム構築でも全く問題は起きず、Ryzen 9 7940HSが持つ高いCPU・GPU性能を遺憾なく発揮した。
この理由は、後ほど考察することとする。
メーカーが謳っている [うたっている]さまざまな宣伝ポイントについても、自分で検証可能な範囲では、全て事実そのものでカタログスペック通りだった。
一連の熱対策措置も功を奏して、APUとしては限界性能が引き出せていると評価できる。
自分はITの世界におけるMade in Chinaの実力を過小評価していないことは、10月17日公開の以前の記事の方でも述べたが、UM790Proの実力は、「自分の中における、いわゆる“良い中華“の製品の評価をまたワンステップ押し上げた」と感じる。
詳細は後述するが、メーカーのサポート対応も、メール上においては特に問題はなかったし、同梱品の品質やマニュアル類の日本語の成熟度など、いわゆる“悪い中華“では質の低さが露呈しがちな部分についても、欠点は見つからなかった。
オタクの探求心はくすぐられるが, 一般人にはおすすめしたくない
ただそうは言っても、既製品パソコンとしては有名ブランドとは程遠く、廃熱やパーツ配置で何かとハンデの多いミニパソコン。
動作上の異常こそないが、使い込んでいくうちに独特な使い心地や特徴が垣間見える場面はやはり多く、いわゆる「クセの強い」パソコンであることは否定できない事実だ。
筆者のようなオタクの探求心をくすぐるには申し分ない興味深いパソコンだが、「難解なトラブルに巻き込まれることなく、フツーに事務用途や娯楽用途で安定して使えて欲しい」と考える一般人にはおすすめしたくないのが本音だ。
というのも、Windowsパソコンは、購入後半永久的に正常に使える代物ではない。
WindowsというOSは、多機能で互換性が高いことの裏返しに、いささか不安定でご機嫌次第なことで知られる。
アプリのインストール・アンインストールのような作業も特にせず、ただ普通に使っていただけだとしても、ある日突然正常に起動できなくなったり、素人には意味不明なエラー表示が出たりすることがあるのは、OS由来の宿命。
こうなると、トラブル解決のためにOSのリセットや再インストールを余儀なくされるケースがあるが、“UM790Proが持つ独特のクセが、こういった復旧作業の妨げになるのではないか”という懸念を強く感じた。
要は、何事もなくパソコンが使えているうちは最高のパソコンだが、ひとたび重大トラブルが起きて復旧しようとすると、一筋縄ではいかない仕様に直面しかねないのだ。
また、初回セットアップ作業の時点ですでに、日本語のキー配列が使えないという問題があり、マニュアルで事前に案内こそしているものの、その案内内容はなんと、“通常の標準的な初回セットアップ作業では当たり前である、Microsoftアカウントでサインインするオンラインセットアップを避け、ローカルアカウントとしてオフラインセットアップを実行して欲しい”というもの。
買って初っ端 [しょっぱな]からこういうイレギュラーなことをさせられると、素人ユーザーには敷居が高い気がしてならない。
いずれも詳細は後述するが、これが、このパソコンを1ヵ月間使った感想のまとめである。
UM790Proを1ヵ月間使って気になった点
いよいよここからは、具体的なUM790Proのクセの部分にフォーカスを当て、玄人でしか分からない、オタクでしか気付けないポイントを中心に、UM790Proの真の実力と価値を見ていく。
よって、巷のネット情報やYouTubeで手に入るような普遍的な特徴についてはほとんど触れないので、「購入を検討しているが、まだ下調べ自体が不十分」だと認識している人は、そうしたソースで事前勉強をしたうえで、この記事を読み進めることをおすすめする。
自分で所有するパソコンは、自作パソコンとオンボロノートパソコンが中心の僕にとって、UM790Proは使い込めば使い込むほど、本当に興味深いパソコンで、「基本的には」正常に動くのに、細部を見ていくと気になる点がさまざま見つかって、まさにオタクのオモチャとしてはこれ以上ないほど完璧である(笑)
ここでは、UM790Proを1ヵ月間使って気になった点を、長所と短所とに分けて紹介しよう。
読んだ人の大半に、「いや、こまけーよ(笑)」とツッコまれてしまうかもしれないが、ごくわずかでも参考になる人がいればいいなと考えている。
UM790Proの気になった点: 7つの長所
UM790Proは、MINISFORUMが謳う特徴や性能が、実際の製品上できちんと機能しており、これは特筆すべき点だ。
消費者側にとって、カタログスペックを額面通り期待して買うことができることの安心感は大きく、メーカーへの確かな信頼につながる。
そのため、長所の紹介も基本的には、MINISFORUMが公式サイトでPRしている長所をそのまま事実として紹介する形になるが、それ以外でも個人的に長所と感じる点がいくつかあったので、7つの長所としてまとめて紹介していく。
UM790Proの長所1. 搭載メモリについて
今回自分は, あえてスタートアップキットを選んだ
僕が今回買ったのは、32GBメモリ+512GBストレージが最初から搭載され、OSもプリインストールされているモデル。
実はUM790Proでは、メモリもストレージもOSも付いていないモデルも、「ベアボーンキット」の名称で売られている。
だが、メモリを別に用意するにしても、LPDDR5規格のSO-DIMMメモリなんて、自分が現在所有しているパソコンのラインナップでは、まず必要性がなく、自分のパソコンライフからすると、今後もしばらくは必要になる可能性は極めて低いだけに、わざわざUM790Proのためだけに買うのは少々気が進まなかった。
また、既製品パソコンの世界では、メーカー側が標準搭載のメモリ・ストレージとしてどのような製品をチョイスしているのかについても、そのパソコンのトータルパフォーマンスや設計の成熟度を判断するうえでの重要要素であると考え、あえてベアボーンキットではないスターターキットを選んだ経緯もある。
自分が購入した時点では, Crucial製メモリを標準搭載していた
自分がUM790Proを注文したのは9月30日で、家に届いたのは10月5日なのだが、この製造・出荷タイミングで搭載されているメモリは、Crucial製のLPDDR5-5600規格のメモリ (型番はCT16G56C46S5.M8G1)で、1枚16GB×2枚挿しのデュアルチャンネル動作だった。
このメモリはおそらくOEM品と思われるが、リテール供給されているベースモデルは一般に市販されていて、以下のメーカー公式ウェブサイトで詳細な仕様も公表されている。
記事制作時点では、LPDDR5規格のSO-DIMMメモリは、ラインナップ自体がまだ少ない故に選択肢がそれほど多くない。
故に、モバイルパソコンのメモリ事情に疎い自分でもさすがに知っていたくらい、ノートパソコンに積める高クロックDDR5メモリとしては、安定性に定評がある最もポピュラーなメモリだ。
実は、UM790Proのスターターキットでは、発売当初はこのメモリではなく、Apacer製のLPDDR5-5600規格のメモリが搭載されていたことが、複数のソースから確認できた。
なお、詳細な型番については、OEM品だとコストの問題で、出荷時期によってグレードが微妙に変わる可能性が排除できないことから、自分で初期ロット品を所有していない以上、他人の情報を鵜吞み [うのみ]にした紹介は控える。
信頼できる情報筋によると、このApacerのメモリが相性問題を引き起こしており、定格クロック未満でも突然のシャットダウン、ブルースクリーン、画面表示の乱れを発生させる主原因になっていたようだ。
一部のユーザーは、UEFIファームウェアのアップデートによって状況が改善したとのことだが、改善のレベルは人によってまちまちであり、物理的にメモリが変わらない限り、不安定を根本的には解消できないような印象を受けた。
いつ頃の出荷分からCrucialのメモリに切り替わったのかは不明だが、少なくとも、MINISFORUMが製品PRのためにメディアやYouTuberに商品提供を積極的に行っていた5~8月の間の出荷分は、Apacerのメモリだった可能性が極めて高い。
安定性を問題視するレビューは, 初期ロット品のみと考えてOK
UM790Proを購入するにあたって情報収集をしている人は、「UM790Pro」で検索すると、サブキーワードに「不具合」や「再起動」などの不穏当なワードが出てくるため、不安を感じて購入を躊躇 [ちゅうちょ]してしまうかもしれない。
しかし、何度も言うように、自分は検証可能なあらゆる用途で使っても、突然のシャットダウンやブルースクリーンは一度たりとも起こらなかったし、9月以降に購入した人が投稿している新しめのレビューでは、安定性を問題視するそれまでのレビューを一蹴するように高い評価が並んでいる。
そのため、安定性を問題視する内容のレビューの対象になっているのは、Apacerのメモリを搭載していた時期の個体だと判断して良いだろう。
つまり、この記事を見てから注文するのであれば、“メモリ由来の問題は安心”ということ。
そうは言っても、こういったパーツの相性問題は、メーカーの経験不足が影響していることが否めない。
工業製品、特にパソコンのような精密機械は、ある程度長期間製造に携わることによって初めて得られる知見やノウハウがあり、それがこうした問題の発生率低減に寄与する。
きっと、購入者から多数の保証要求やクレームが挙がったことで、メモリの変更を行ったのだろう…
未熟さを認めて真摯に対策を講じる誠実さは評価するものの、素人ユーザーに遍く [あまねく]普及させるには、とにかく優れた技術者を集めて一気呵成 [いっきかせい]に市場参入すれば良いわけではないことが再認識させられる。
“良い中華“の新興メーカーの現在地が垣間見える一件だろう。
UM790Proの長所2. GPU性能について
バリバリゲームしないならdGPUはいらない時代が来た
UM790Proに搭載されているRyzen 9 7940HSは、何と言っても特筆すべきは、iGPUであるRadeon 780Mの性能。
これは、10月17日公開の以前の記事の方で解説しているので詳しくは触れないが、AMDは過去に、自社製品の性能を大本営発表した前科があるだけに、果たして本当にメーカーの言う通りの性能が出るのか半信半疑なところが正直あった。
しかし、実際にベンチマークテスト、ゲーム、動画編集で使ってみたところ、この疑いは一瞬で晴れた。
各テストの詳細な結果は、ネット上にたくさん転がっているので、知りたい方はそれを確認してみて欲しいのだが、省電力・低発熱設計のはずのAPU搭載パソコンで、本来dGPUなしでは不可能なのが当たり前の用途がバリバリこなせる非現実感は、このUM790Proを買わずして味わえない。
自分はそもそもパソコンでゲームはあまりしない。
だから、高いグラフィック性能が必要なシーンとなると、動画編集がやはりメインとなる。
それから、仮想環境を構築してアプリやプログラムをテストする仕事もあり、これも時には普通のiGPUでは性能不足でクラッシュしてしまうことがある。
動画編集や仮想環境においては、純粋なGPU性能はもちろんのこと、複雑な映像処理を実行したり、継続的に負荷を掛けたりしてもトラブルを起こさない安定性も不可欠。
780Mは、性能はもちろんのこと、この安定性についても非常に満足のいくレベルに達している。
“ゲームはしないが、それ以外の用途でdGPUが必要”というニーズは、僕の場合だけに限らず一定数あるだろうから、今後こういった超高性能iGPUを採用するCPUが増えれば、消費電力が多いdGPU搭載のパソコンをわざわざ選ぶメリットはない。
具体的な性能評価は後述するが、780Mは実は、3Dゲームすらも60FPSプラスアルファでプレイできてしまうポテンシャルがある。
昨今の銃ぶっ放し系ゲーム界は、100FPSを超えてないと撃ち負けるなどと言われているそうだが、何が何でも負けられないガチプレイヤーならともかく、世間の話題に置いてけぼりになってオッサン化しないよう、どんなゲームなのかだけでも軽くプレイして知っておきたい自分みたいな人にとって、普段使いのパソコンでそのまま動かせるのはありがたい限り。
「バリバリゲームしないならdGPUはいらない」、まさにそう胸を張って言える時代の到来を感じた。
GPU性能はNVIDIA GTX 1650 Mobileと同等
最初に注意しておきたいのだが、デスクトップパソコンに「ビデオカード」の形態で搭載されるGPUチップと、ノートパソコンなどのモバイル機器に単体で搭載されるGPUチップとは、同じモデル名でも仕様が異なる。
モバイル機器は、低電力・低発熱で動作しなければいけない制約があることがその理由で、モバイル仕様のGPUチップは、デスクトップ仕様と比較して20%前後も性能差がある。
このため、dGPUと比較してiGPU性能を相対的に評価する場合は、必ずモバイル仕様のGPUチップと比較しなければいけない。
780MのGPU性能に関するネット情報の中には、デスクトップ仕様とモバイル仕様とを混同し、デスクトップ仕様のフルパフォーマンス版のdGPUと比較した不適切な検証結果が散見されるため、注意して欲しい。
自分で行ったベンチマークテストやゲームでの実プレイテストのほか、自分ではどうしても検証できなかった性能評価要素について、信頼できるネット上のソースも参考にしながら総合すると、GPU性能はNVIDIA社のdGPUである「GTX 1650 Mobile」と同等という結論に至った。
7940HSの発売前の噂では、現在におけるエントリーマシンのスタンダードである「RTX 3050 Mobile」に肉薄するか!みたいな話も挙がっていただけに、期待していた人 (遠目に自分)からすると、ちょっと期待外れ感は否めないが、それでもiGPUとしては、常識を覆す驚異的な性能であることに変わりはない。
GTX 1650 Mobileは、ちょっと前までエントリーマシンのスタンダードとして幅広く採用されていたdGPUであり、まだまだクリエイティブ用途やゲーミング用途でバリバリ現役で使われている。
そのdGPUと同等の性能をiGPUごときが叩き出している事実には、正直驚きを隠せない。
比較的重いゲームとされている「サイバーパンク2077」などのヘビータイトルでも、画質設定を中程度まで落とせば、フルHDの解像度でも50~60FPSは発揮できた。
従来のiGPUでは起動すらできなかったヘビータイトルが、画質を落とせばプレイできてしまうのは末恐ろしい…
GPU性能の高さだけで、UM790Proを買う価値が見出せると感じた。
ベンチマークベースの巷の評価には惑わされるな
巷ではGPUの性能評価において、ベンチマークテストによる計測値だけに依存した評価が蔓延しており、結果的に実使用上のパフォーマンスと乖離した過大・過小評価が行われているケースがある。
特に、UM790Proの780Mの性能を推し量るうえで参考にするのは危険だ。
というのも、計測値比較で評価してしまうと、「GTX 1050 Ti Mobile」程度となってしまうからだ。
これでもiGPUとしては十分すごいのだが、Pascal (パスカル)時代のdGPUの名前を出されてしまうと、さすがにイニシエ感が出てしまう。
この話を槍玉 [やりだま]に挙げて、「時代遅れのdGPUを引き合いに出してやっと追い付いたと宣伝してもダサいだけ、やっぱりiGPUじゃまだまだダメ」という論調がネット上でも見られる。
しかしながら、実際にゲームをプレイしたり、動画編集をしたりした時の本当のパフォーマンスは、システムリソースの純粋なパフォーマンスを調べる単純なベンチマークテストでは評価し切れない部分がどうしてもある。
事実、「FINAL FANTASY XV」(通称「FF15ベンチ」)や「Forza Horizon 5」のベンチマーク機能のような、実際のゲームのプレイ画面をベースにした、より実際の使用シーンに近い検証が可能なベンチマークテストでは、押し並べてGTX 1650 Mobileと同等の数値が出ている。
自分が検証した限りでも、ゲーム上におけるフレームレートは、GTX 1650 Mobileと同等レベルだった。
もちろん、比較対象がNVIDIAのdGPUである以上、使われているドライバーも処理エンジンもハードウェア設計も全く別であり、GPUチップそのものの正確な性能対象にはなり得ない。
実際、GTX 1650 Mobileの方がフレームレートが若干伸びたゲームもあれば、逆に若干劣ったゲームもあった。
それに、iGPUはdGPUとは異なり、メインメモリをCPUと共有して使うシステムだから、メモリの性能や容量がGPU性能にモロに影響を及ぼす。
UM790ProはLPDDR5-5600規格のメモリを搭載しており、信頼できるSO-DIMMメモリとしては、記事制作時点では最高クラスのスペックだし、ノートパソコンでは実現が困難なレベルの冷却性能も持ち合わせている (詳細は後述)。
それに、UM790Proは、潤沢なメモリ搭載量と独自のファームウェア設計により、GPUメモリを最大6GBも割り当てられる。
だから、理論的に考えても、他のパソコンのシステム環境上で780Mが出せる性能より、UM790Proで出せる性能は高いし、実際にその結果が、“GTX 1650 Mobileと同等”という評価につながっている。
Radeonのドライバーの進化に驚愕
Radeon 780Mは、純粋な性能もさることながら、個人的にはそれ以上に、安定性の面での進化に驚愕した。
前述したように、GPU性能としてはGTX 1650 Mobileと同等だが、プレイ画面でリアルタイムにフレームレートをモニタリングすると、フレームレートの急激な増減がGTX 1650 Mobileよりも少ないことに気付く。
FPSゲームにおいては、フレームレートの天井が高いことよりも、重たいシーンでもフレームレートが平均的に安定していることが重要とされており、ここら辺がAMDのドライバーの成熟度を如実に示している。
そもそもPlayStationやXboxなどのコンシューマーゲーム機の多くは、長らくAMDのGPUチップを採用していたし、Macも自社チップ採用前は、AMDのGPUチップを採用していたのも、この安定感を見ればうなずける。
Intel Arcもそうだが、GPUの世界はハードウェア的にいくら性能が高くても、ドライバーが成熟していなければ性能を十分に引き出せない。
Intel Arcは、ハードウェアの数値スペックこそNVIDIA GeForceの対抗馬より優れていたが、ドライバーの最適化が十分に進まず、GeForceと比べると精彩を欠いているのが現状。
AMDとは対照的だ。
話が逸れたが、安定性の高さは、仮想環境を構築する用途においても遺憾なく発揮された。
Androidエミュレーターの利用などにおいても、GPUドライバーが原因のクラッシュは一切発生していない。
動画編集時においてもクラッシュはなかった。
さすがに3Dモデリングや凝ったアニメーション制作のような作業はスペック的に無理だが、AMDドライバーの安定性への不安を理由にUM790Proを買わないのはナシだ。
UM790Proの長所3. 冷却性能について
ベンチマークテスト中でも余裕のある温度範囲
UM790ProはCPU冷却に、熱伝導率に優れた液体金属グリスを用いているほか、メモリ冷却のための専用設計のヒートシンクの搭載や、ストレージ冷却のための放熱シートの採用といった、発熱量が特に大きいパーツの冷却性能の向上に余念がない。
CPUUM790Proでは、液体金属グリスを封入した、CPU冷却を専門に担うファン付き冷却ユニットである「Cold Wave 2.0」と、Cold Wave 2.0から排出される熱を含む、ケース内部の熱をまとめて外部環境に排熱するケースファンとを、この小さな筐体に見事に収めている。
実際、実使用上あり得ないレベルの高負荷を長時間掛け続けるベンチマークテストの実行中ですら、CPU、メモリ、ストレージはいずれも、サーマルスロットリングの発動によるパフォーマンスの大幅な低下は見られなかった。
実際の発熱量についても、モニタリングソフトを使った各パーツの温度計測の結果を見る限り、パーツの許容温度の上限まで十分に余裕がある範囲の温度で見事に収まっていた。
CPUの全コアに最大の負荷を掛けた状態では、7940HSの定格クロックである4GHzよりも高い、4.4GHzプラスアルファで安定動作していた。
コンパクトな筐体 [きょうたい]で、8コアフル稼働で定格の10%増しなら、誰の目から見ても立派。
全検証におけるCPUの最高温度は70℃だった。
検証を行ったのは10月初旬だが、この週は温暖化時代特有の季節外れの残暑に見舞われており、自分のボロ家の室温は、エアコンなしで24℃程度だった。
十分な温度マージンがあることを考慮すると、真夏であっても、人間がまともに生活できる室温環境では、サーマルスロットリングの心配をする必要はないと断言できる。
ビデオカードを搭載しているデスクトップパソコンなんかだと、もはや暖房にできるレベルのアチアチエアーが部屋に吐き出され、真夏はエアコンを強運転に切り替えざるを得ないなんてこともあるある…
その点、UM790Proはケースファンが小型なだけに、超高負荷を掛けている状態でもそもそも排熱量が少ない。
もともとパソコン自体が省電力なうえに、夏場のエアコンのパワーも抑えられるとなれば、電気代への影響はもちろん、自称意識高い系の人が壊れたレコードのように唱えるSDGsとやらを振りかざされてもへっちゃらだ(笑)
ノートパソコンをはじめとするコンパクトサイズのパソコンは、消費電力と発熱量の制限がある以上、特にCPUやGPUは何らかのタガを掛けられての動作を強いられるのが当たり前。
だからこそ、こんな風に何の制限もなく、思いっきり限界性能を引き出せる設計の魅力は大きい。
名の知れた有名ブランドのパソコンであっても比較的おざなりになりがちな冷却性能にきちんと気を配っている点は、MINISFORUMというメーカーの信頼性を裏付けている。
UM790Proを使ったからこそ、現代のモバイル用CPUの潜在能力の真価を知ることができたのは間違いない。
ケースファンの駆動音の静粛性には違和感すら覚えるほど
そして何よりすごいのは、ケースファンの駆動音の静粛性。
そこそこ性能の高いミニパソコン=掃除機並みの爆音ファンというイメージが拭えない時代遅れなソレガシにとっては目から鱗。
まず、フォアグラウンド・バックグラウンドともに最低限の処理しか行われていない、いわば起動してから1分程度経過後のようなアイドリング状態では、ファンは完全停止する。
こうなってしまえば、もう完全無欠の無音。
中身がノートパソコンだと考えれば、ある意味当然だが、小さくても一応四角形の筐体を持つパソコンでここまで音を何ひとつ発しないのは、違和感すら覚えるほどだ。
しかもすごいのは、軽めのアプリなら1、2個開いて作業してもファン停止状態が維持されること。
少ない電力で効率的に最適なパフォーマンスを出せているからこそ、発熱量も極めて少なくできている証左だ。
もちろん、さすがにそこそこの処理が発生すれば、ファンは回り始める。
だが、回転量は非常に少なく、ある程度回して冷えれば再び停止することも多い。
ファン回転数の制御はファームウェアのさじ加減で決まるもので、静粛性重視の制御と冷却力重視の制御とがあり、ゲーミング用に最適化された高機能型のマザーボードでは、ユーザーが制御モードを変更できる場合もある。
UM790Proのファームウェアは、制御モードの変更は不可能な仕様で、静粛性重視の制御となっている模様。
パーツの性能や寿命に影響を及ぼさない範囲で、ファン回転は最低限に抑えるよう制御している印象を受ける。
ファン駆動音のタイプは高音、且つ機械の奥深くで回っているような感覚を覚えさせるこもった音で、「ファー…」という感じ。
「ブオーン」という低音や、“風車が回ってるなー”という感じの明瞭なタイプの駆動音だと、たとえ音量自体は小さくても人間の聴覚では非常に耳障りに感じることが多い。
UM790Proは、音質のタイプそのものが穏やかだから、高負荷の処理でファンの回転速度が上がっても不快に感じづらい。
回転量が最小限な上に、音質タイプも穏やかとあって、ネットサーフィン程度の作業なら、同じ室内で家族が寝ていても安心なレベル。
家にあるHP製のノートパソコンよりはるかに静かだ。
ちなみに、自分はこのパソコンを、モニターの裏に隠れる位置に置いているので、電源ランプが点灯しているかどうかを確認することが難しく、当初はファンの駆動音で電源のオン・オフを判断しようした。
ゲームで継続的に高負荷を掛けていた直後だったため、“しばらくは多少なりともファンは回るはず、だからファンの音がしてないということはシャットダウンしたのだろう”と思い込んでコンセントを抜こうとしてしまい、すんでのところで電源ランプがまだ点灯していることに気付いたケースもある。
静粛性の高さを物語るエピソードと言えるだろう。
UM790Proの長所4. 筐体サイズについて
言うまでもないことだが、UM790Proの筐体サイズのコンパクトさは魅力。
お世辞にも大きいとは言えない僕のパソコンデスクでも、隅のちょっとしたスペースに置けてしまう。
当たり前のようにフルサイズのATXケースと付き合ってきた自分からすると、オモチャみたいな錯覚すら覚える。
もっとも、筐体は底面以外は金属製なので質感は高く、決して安っぽさは感じない。
手に乗るくらいコンパクトなのに、それでいて性能は前述の通りだから、本当に時代の流れを感じずにはいられない。
ディスプレイのある環境へ気軽に持ち込んで、どこでも即座にデスクトップ環境を構築できる利点は、ビジネスの世界でも活き [いき]そうだ。
我が家ではリビングのテレビが古く、ストリーミングサービスの類には一切非対応なので、“このパソコンを持ち込んでつないで見る”といった具合で活用している。
なお、UM790ProはVESAマウントによる取り付けにも対応しており、金具も付属されている。
デュアルモニターアームと組み合わせて、片方のアームにモニター、もう片方のアームにUM790Proを取り付ければ、マウスとキーボード以外は全てモニターアーム上だけでデスクトップ環境が構築できてしまう。
ただし、USB Type-C給電には非対応なので、「ケーブルの一本化も…」とはさすがにいかない。
この点については、UM790Proの短所として後ほど取り上げる。
UM790Proの長所5. オーディオ音質について
UM790Proは、特に期待していなかった部分でも意外な長所を見せた。
それが、3.5mmステレオミニプラグジャック接続時のオーディオ音質だ。
自分はオーディオも多少こだわっている人間なので、音楽を再生した時に思わず「おっ!」と声が出た。
高級マザーボードに付いているようなDACチップや単体製品のDACと比較したらさすがに粗削り感は否めないが、持ち運べるサイズのパソコン全般と比較するとワンランク上の音質を実感した。
解像感はまずまずだが、レンジが広く、低音が強調され過ぎていないので、長時間聞いていても自然に耳に馴染む味付け。
普通のPCオーディオではほとんど聞き取れないレイヤーの楽器の音色が、しっかりと耳に入り込んでくる。
“ガチのオーディオオタクではないが、音楽はマシな音で聞きたい”という人は十分に満足できるレベルだ。
なお、搭載されているDACチップは、ハードウェアIDから推察するとRealtek製のALC269と思われる。
自腹で買ったパソコンなだけに、メインボードを外して実際に確認するほどの大手術に踏み切る勇気がさすがに出なかったことは察して欲しい(笑)
ALC269は、RealtekのDACチップとしてはローグレード且つ旧世代のもので、比較的低価格なパソコンでも幅広く採用されている。
ALC269を搭載していることが事実だとすると、同じくALC269を搭載しているパソコンは何台か触っており、音楽も何度か聞いたことがあるが、特段印象に残った記憶がない。
確かにオーディオの世界では、たとえ同じDACチップを使っていても、回路や筐体の設計次第で音質はガラッと変わることがあるとされているが、グレード的にもっと上のDACチップを搭載したパソコンと比較しても遜色ない [そんしょくない]レベルに感じられた。
ということは、音質を上げるために回路の設計にまで配慮しているということなのか、はたまた偶然なのか…
ただ、サウンドデバイス周りについては、短所の紹介の方でも触れておきたい部分があるので、どうか最後まで読んで欲しい。
UM790Proの長所6. サポート体制について
中華製品の最大の懸念材料はサポート体制だろう。
いくら品質が良くても、修理や保証の依頼をする窓口がきちんとしていないと、賭けで買うようなことになってしまい、一般人は手が出せない。
少し前の中国メーカーは、サポート体制はお世辞にも良いとは言えず、“売るだけ売ってあとは知らんぷり”とか、出稼ぎ労働者がサポート担当者で中国語しか通じないとか、そんなのがスタンダードで、これで中国製品を忌避していた人も多いはず。
だが、MINISFORUMは中国メーカーながら、日本国内では2021年から、「リンクスインターナショナル」という日本企業が正規の代理店になっており、「代理店?何ソレ美味しいの?」状態の完全なローカルチャイニーズからの脱却を果たしている。
これだけでも大きな安心材料だ。
自分はUM790Proについては、特にこれといって取り立ててメーカーに聞きたいことはなかったのだが、サポート体制の質を見定めるために、購入前と購入後それぞれで意図的にメールで質問を送った。
返信はいずれも24時間以内に来ており、丁寧に回答してくれた。
試しに高度の技術的な内容も聞いてみて、さすがに抽象的な回答にはなったものの、「できる限り納得のいく答えを伝えたい」という気持ちは十分伝わったし、そもそもメーカーサポートごときでは、難しい技術的な話はできないことは前から知っているから、不満はなし。
これを以って [もって]全ての中国メーカーが合格レベルになったと評価するのは尚早だが、能力と志のある中国メーカーは、従来の中国メーカーのサポート体制のイメージを払しょくしつつあるのは事実のようだ。
UM790Proの長所7. プリインストールアプリについて
既製品パソコンでありがちなのが、メーカー指定のプリインストールアプリがてんこ盛り問題。
ファームウェア・デバイスドライバーのアップデートやメーカーサポートの窓口を提供するユーティリティー関連のアプリならまだしも、コアなユーザーしか使わないようなニーズ不明のアプリや、パソコンを危険にさらしかねない試用版クソセキュリティーアプリが最初から入れられてしまっているパソコンを目の前にすると、腸 [はらわた]が煮えくり返る。
その点、UM790Proは、Windows 11のデフォルトのプリインストールアプリを除き、MINISFORUM側でプリインストールアプリは一切入れていなかった。
つまり、“システム的にきれいまっさらな状態でユーザーに渡してくれている”ということであり、この上なくうれしいポイント。
「有料版を買え」系の迷惑広告に悩まされたり、正体不明のアプリの扱いに一喜一憂したりするストレスとは無縁だ。
コスいことせずに、純粋にパソコンそのものから利益を出していく企業姿勢を評価したい。
UM790Proの短所は?[後編に続く]
ここまで、あらゆる面でべた褒めしてきたUM790Proだが、使い込んでいく中で、当然のことながら短所も見えてきた。
普段の使用に大きく支障を来すような致命的な短所はさすがになかったが、トラブル発生時に自力での対処を求められるシーンや、分解整備が必要なシーンで、確実に疑問やイライラを抱くことが推察される部分があった。
感じたことを赤裸々に書いていたらこんなにも記事が長くなってしまったので、短所の紹介は以下の後編としたい。
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