歳上の友達のすすめ
高校生の頃のことである。
当時、僕は「KING」という雑誌にハマっていた。
20代中盤〜30代の男性がターゲットではあったけどインタビューなど内容が面白くて読んでいた。
とある回でオダギリジョーとリリーフランキーの対談が掲載されていた。
内容は「歳上の友達ってイイよね」だった。
当時の自分からすると歳上なのに「友達」ということにカルチャーショックを受けたのを覚えている。
時は流れ、社会人に成りたてのある日。
TBS系列で深夜やっていた「オトナの!」という番組で、MCのいとうせいこう(53)、ゲストでユースケサンタマリア(43)、星野源(33)、ハマオカモト(23)の10歳ずつ離れた人達がそれぞれの「オトナ像」を語る回があった。
そこで同世代と話が合わないけど上の世代には合うのが悩みと話すハマオカモトさんにいとうせいこうさんがこんなことを言っていた。
「ハマくん、それはね。プラスに考えた方がイイ。だって、歳上の友達が出来ることはその世代の話を先んじて知れるんだから。30歳ってこんなことで悩むんだとか、40歳になると周りの目はどうだとか。」
それを見て「歳上の友達」に更に憧れを抱いたのを覚えている。
そして僕は大阪であこがれた歳上の友達と出会い、その出会いが僕の人生に大きな影響を与えることになる。
スーパーマンな美容師さん
大阪に住んでいた頃、徒歩5分くらいのところに美容室があった。大阪を離れるまでその美容室にずっと通っていた。
そこの美容師さんがとても良くしてくれて今でも交流がある。
ただ、振り返るといつから仲良くなったかは覚えていない。気づいたら仕事の話を中心によく話すようになった。
美容師さんは元々大手のとあるメーカーにいた頭のキレる人だったし、運動神経も常人離れしているし、親分肌でよく飲みに誘っていただいて夜までガンガンに遊ぶ、かつイケメンとスーパーマンみたいな人だった。
僕が仕事でメンタルがやられることが多くなると、話をするまでもなくカットする前に「カイ、仕事しんどいやろ」とよく言われた。
白髪が徐々に増えていたそうで、カットに行く度によく心配されていた。
2019年に色々あった際、大阪に行くことがあり、報告もしてない状態でその時も会った瞬間に「なんかあったやろ?」と言われた時は「この人には敵わないなー」と思った。
その年、北海道の旅行にも誘っていただいてメンタル的に荒れてた自分としては楽しみなものがあるのはとても救いになった。
旅行中に美容師さんの彼女さんに、色々あったことを報告されてから旅行で会うまでずっと心配されていたと聞いた。
そこまで気をかけてくれたことがすごく嬉しかったし、5年・10年後こんな風に人に気をかける事のできる人になりたいという憧れはずっと変わらない。
愛すべき「兄さん方」
2015年、僕はでんぱ組.incというアイドルにハマっていた。Twitterを駆使して、ライブやオフ会に行って知り合いが増えた。
その中の1人に連れられて、地下アイドルがいるお店に行ってそこにいたとある地下アイドルにドハマリすることになる。
その後、その子のライブやお店に通っていたある日。歳の近い知り合いからスマホの画面を見せられた。
「ちゃんかいさん、これ見てくださいよ」
2chでハンドルネームを出されて、叩かれていたのである。
「ええ!やばい!どうしよう!!!」
騒ぐ僕に、
「お兄さん、おめでとう!2chで叩かれるオタクはな、僻まれるくらいの優良オタクということなんやで。叩くやつはしょうもないやつ。気にせんでええ。」
と、革のライダースジャケットを着たいかついお兄さんが話しかけてきた。そして、なぜかその人と乾杯した。
それをきっかけにいかついお兄さんと仲良くなり、他にも歳上の兄さん方と出会うことになる。
だんだん地下アイドル抜きにして兄さん方と飲みに行くようになった。
そんなとある日、
「彼女出来ないんですよね、一生1人かもしれないですわ笑」
と兄さん方と呑んでいる時にふと話した。すると、真面目な顔をして
「お前はきっと自分が思うような幸せに辿り着けるよ。彼女が出来て、結婚して…みたいな今思い描いていることは叶えられると思うよ。ただ、一つだけ忘れないでほしい。たとえその幸せが叶えられなかったり、挫折したりしても大丈夫。だって俺らみたいにいろいろあっても楽しんでいるやつらもいるんだし。なんかあったら俺らのこと思い出してよ。思い詰めちゃアカン」
兄さん方の中には離婚した人もいたし、同棲を何回かしたけどダメだった人もいた。仕事で悩んでいる人もいた。詳しいことは詮索しなかったけど、みんないろいろな事情を抱えていることだけは知っていた。
そんな兄さん方と何遍も飲みに行ったけど、このことは心に刻まれていた。
そんな兄さん方のおかげで辛いことがあっても、他の人のように生きられなかったとしてもこれも生き方や幸せの一つの形なんだと思うことが出来ている。
兄のような「師匠」
とある地下アイドルにドハマリしていた2016年のある日。
オタクの飲み会に行った際、普段見ない人がいた。なぜか知らないが、その人と話が盛り上がり、流れで朝まで飲んだ。
それ以来、その人は僕を気に入ったようでよく飲みに誘ってくれた。
とりあえず「師匠」とここでは言わせてもらう。
当時、師匠は東京在住ではあったものの、出張が多いのでたまに大阪に来てはいろんなところに連れて行ってくれた。
お姉さんがいる飲み屋での立ち振舞い、お金の使い方、見栄の張り方、人間関係など教えてくれた。
なんば・心斎橋で二人して酔いつぶれたり、いろんな人を連れて京都の祇園祭に行ったり、1人では行けないような恐ろしく高いオシャレなバーにも連れて行ってくれた。
地下アイドルの闇を知ってしまったり、117kgの女の子をおんぶさせられたりとハチャメチャなこともあった。
僕の東京異動もあり、飲む頻度はさらに増えた。本当になんでも相談出来る人であり、年齢もうちの兄と同じこともあり、兄のような感じな人である。
2019年のいろいろあった時期も相談にのってくれていたある日。
めちゃくちゃ怒られたのである。
理由は「僕が離婚してからずっと後ろ向きなことしか言わない」ということだった。
師匠からこんなことを言われた。
「お前な、自分の愛した女の幸せも願えない後ろ向きでグズグズした男がカッコいいと思うのか?そんな人生でいいんか?辛かった思いは十分わかったからここで歯を食いしばって前向けよ。」
言われた時はすごくイラッとしたし、そんなことわかっててもすぐには切り替えれんわと思ったけど、芯を食った話でぐうの音も出なかった。
後で知るのだけど、実は師匠も過去にいろいろあったそうだ。その時の師匠も腐っていて同じように歳上の知り合いに怒られた経験があって、僕とその姿が重なったと言っていた。
そこから本当に辛かったけど前を向こうと必死になって切り替えたことが今となっては良かったと思う。師匠は転勤してしまったので、もう東京にはいないけど本当に師匠には感謝している。
歳上の友達のすすめ
世の中の社会人がどれくらいの人とどれくらいのコミュニティの中で出会うかはわからないけど、僕はいろんなコミュニティの人達と出会ってきた。
いろんな人達と出会ってきたおかげで、世の中は自分が育ったような環境や学生の時仲良くしていた人達のような生き方・価値観を持った人ばかりではないことを改めて感じた。
一方で人を平気で裏切るようなひどい人間もいたが、心優しい人もいっぱいいた。
歳上の友達もそんないろんな出会い・経験をしていた。そして、それを僕に教えてくれた。
いとうせいこうさんが言っていた「歳上の友達が出来ることはその世代の話を先んじて知れるんだから」がまさにそこにあった。