みんなの日本語2「介護編」第37課
授業の導入や会話練習の参考になれば幸いです。
・認知症周辺症状「物盗られ妄想」
・迷惑の受け身「盗られた」「叩かれた」「触られた」
1.物盗られ妄想(利用者様の使用場面)
【補足】認知症の周辺症状で「いつもあったものがない」と騒ぎ立てる迷惑な行為があります。「物盗られ妄想」と言われています。
勤務した中で一番多かったのはお金(財布・通帳も)です。居室にはお財布や現金を置かないところがほとんどです。必要なものはご家族からいただいておりますので、ご利用者様から金銭をいただいたりお買い物をしていただくことはありません。ご家族からお預かりしたプリンやゼリーなどのおやつは各階のケアステーションでお預かりし、おやつの時間にお出しします。
サービス付高齢者向け住宅では少額でしたら事務所の金庫でお預かりしていることもあります。外出の際にお買い物したり、館内の自動販売機を利用されることもありますので。
【実際の会話例】自分の洋服だから返してほしいと懇願する利用者さん。勝手に洋服が盗られたことになっている妄想。女性利用者様2名の会話です。
他の利用者様に対して嫉妬や気に入らなかったりすると、その人に暴言を吐いたり、つげぐちしたり、悪口を言うこともあります。不穏な時間帯は特に多いです。
物を盗られたと思ったら「とられた」でいいと思うのですが、相手を責めようとしたり職員に「あの人が!」と訴えようとする時には「〇〇さんが」「~した」というように名前のところに「が」がきて強調されます。
ケンカになってしまったお二人を引き離し、それぞれの介護士がケアをします。お話を聴いているうちに、ご本人は何で怒っているのか、直前で言ったことも忘れていたりします。話を聴いてもらえた、自分に向き合ってくれた、という安堵感もあり、しだいに落ち着いてきます。落ち着いてくると人を非難することを忘れ、「なにか盗られた」「物がなくなった」だけが残るので「~をとられた」という言い方に変わります。「ぬすまれた」もよく使われていました。
この変わった瞬間を初めて経験したとき、もう感動しすぎてメモしまくりました。必ず日本語教師に伝えねば、と改めて気をひきしめた瞬間でした。
日本語研修で扱った文がそのまま利用者様や介護士さん達から出ると、「本当に現場で話されてるんだ。よかった~」という安堵の気持ちと講師としての自信が蓄積されていきます。おかげさまで今なら堂々と介護の日本語を指導できるように思います。
2.被害報告(スタッフ間での使用場面)
【補足】この仕事は楽しいことばかりではありません。こちらが強く出られない状況下での暴言や暴力行為などを受けることも少なくありません。
上司に相談してもその場で報告して終わりになってしまうケースがほとんどです。ご利用者様は守られていても、私たちスタッフは誰が守ってくれるの?と・・・そんな話題が時々出ます。
認知症の諸症状なので脳が正常に動作していない上での言動・行動だということはわかるんですが、なかなか大変です。
杖を片手に暴れたり、杖で人を殴ろうとすることもあります。力加減はしてくれません。昔、新喜劇で間寛平さんがおじいちゃんを演じておられましたが、あのときに杖をもって人をつくような芸があり、まさにアレのリアル版のようでした。新喜劇は笑えますが、本気の利用者様の行動は怖すぎます。高級有料ホームで生活されるような方でも認知症というのは人を豹変させてしまうんです。
おむつ交換時にひっかかれたり叩かれたり、たとえ日中穏やかに過ごされていても、夕方になると不穏になる方がいらっしゃいます。おむつ交換時に暴れたり叩いてきたりする人がいたのは勤務経験上特養のほうでした。有料ホームでは手でご自身の洋服やベッドの手すりをつかんで離さないということはありましたが・・・。一概には言えませんね・・・。対応可能な職員数が多かったり、入居者数(デイだったら利用者数)が少なければもう少しゆとりある対応が日頃からでき、そんなに不穏にならないのかな・・・と思うこともありますが。職員の対応の仕方にもよるのかな、と思うこともあります。乱暴な職員さんも実際いますので・・・。
とにかく、利用者様に何かされたら上司に報告や相談をしたほうがいいです。対処してくださる場合もありますから。その際、日本語で伝えられるように練習しておいて損はないと思います。誰に何をされたのか、どちらが悪いのか・・・事実を伝えることは大切です。
ほかにも利用者様の妄想で「〇〇さんに悪口言われた」「どなられた」など色々ありますが、それに対する応対の表現を練習した方がいいのでここでは割愛します。
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