みんなの日本語1「介護編」第17課
・__ないで ください。
・__なくても いいです。
場面1 談話室、廊下、食堂などで支払うお金を心配する
【補足】 実際に施設内で利用者様から直接食事代を支払っていただくことはありません。みんなで食事をしたり体操をしたりする時間や職員が多い時間帯はわりと落ち着いていたりしておられますが、人が少なくなったり自分がどこにいたらいいのか分からなくなったり不安になったりしたときにふと食事代の心配をなさることがあります。食事前の準備でスタッフがバタバタしているときもよくあります。「__ないでください」は注意や禁止というより「心配」「遠慮」「気にする」「無理する」「我慢する」などと一緒に使われることも多いです。
「お金がない」と心配する方はお話を聞くとたいてい「今日の食事が食べられるのか、泊っていいのか」という心配です。「お父さん/ご主人 からもらっていますよ。準備もすんでるし、食べていってください。」「お部屋もあるし、お布団も準備していますよ」などと伝えると安心してくれます。
1時間もたたないうちに同じやりとりが繰り返されることがほとんどですが・・・。
場面2 排泄介助で
【補足】ほかに「気になさらないでくださいね。」「気にしないでね」「気にしなくていいんですよ」などよく使われます。
先輩方の話を参考に、
「謝らないでくださいね。お仕事ですから。」
「謝らなくていいんですよ。お仕事ですから。」
「ごめんね、よりありがとうと言ってもらえると嬉しいです」
「こういうお世話をするのが好きなんです」
「排泄のお手伝いやお風呂のときしかゆっくり話せないので、大事にしたい時間なんです」
「お互い様ですよ~」
「もちつもたれつですよ」
「お互いにできることを協力しあいましょう。」
「昔のこととか色々教えてくださって勉強になります。ありがとうございます。」というと喜んでくださいました。
ただ、スタッフの人数によっては時間内での担当人数ぶんの排泄介助を終えるのがきついこともあり、会話(利用者様の状態によっては一方的な話しかけになることも)もほとんどなく次の居室へと行くことも少なくありません。
場面3 なにかを求めているけど言い出せない
【補足】お茶がもう少し欲しいとき、トイレに行きたいとき、など申し訳なさそうなお顔をなさることがあります。
水分量の制限がなければお出ししますが、とろみ量など確認の上対応します。トイレは積極的に行ってもらったほうが介助側も助かります。直接トイレで排泄していただけると衣類の上げ下げや移動・移乗介助のみで済みます。
パットからリハパンやオムツ、そして衣類にまで漏れてしまうとそれだけ介助の時間を要してしまい、他の利用者様への対応ができなくなってしまいます。
積極的にお声を出していただいたらお礼を伝えます。なんとなく嬉しい感情は残りますので、次回も尿意・便意を感じたら伝えてくださったりします。
明らかに漏便のにおいがする利用者さんにトイレのお声がけをした際、「トイレに行かない」と言った場合は「我慢しないでくださいね」と言ってみますが、「まだ行きたくない」と言われてしまうこともしばしば。。。
ご本人も多少違和感は感じているかもしれないのですが・・・。
場面4 スピーチロック
【補足】本来行動を注意したり禁止したりして言葉でも拘束をおこなってはなりません。しかしながらその場の職員数や時間帯によってはやむを得ず声掛けがスピーチロックとなってしまうこともあるかもしれません。
見守り対象の利用者様を談話室や食堂に集め、介護職員が1名で見守ります。その日の職員数や時間帯に応じて余裕があれば数名つくこともあります。
利用者様の中には寂しくなったり不安になったりすると目的なく歩きまわることもあります。みまもり外の領域へ移動されてしまうと、転倒事故など防止できないため「__ないでください」「__ちゃだめ」と行動を制限する言葉をはなってしまうことも実際にはなきにしもあらずです。なので日本語研修では「__ないでください、というのはもしかしたら聞くかもしれません。」とした上で、現場の指示や状況に理解を示すように伝えてあげたり、スピーチロックがダメだとされる原因を理解させたり、言い換えを練習したり、という程度でいいのかもしれません。
ただ言えることは、介護現場の職員は常にその場の状況を判断して、安全面を優先して行動や言動をおこなっています。
介護士がその場を動けるようでしたら、介護士が見えないところへ行こうとした利用者様のおそばへ行き、「あちらでテレビでもみませんか」「見てほしいものがあるんです」といって話しかけながら安全な(見守り可能な)場所へ誘導します。
ちなみにスピーチロックがあると、コミュニケーション力やADLが低下していくこともあります。
とはいえ利用者様の異食(近くのものを口に入れる、たとえばティッシュなど)を目にするととっさに「食べちゃだめ」「口に入れないで!」ということもあります。
この手の話はこれぐらいで控えたいと思います。
場面5 利用者様の意思を尊重
__なくてもいいですよ。
【補足】利用者様は頑張ろうとする場合と甘えで言う場合、ただ話したいから言ってみるだけ、など理由は様々ですが、いずれにせよ無理強いはせず状況に応じて意思を尊重することもあります。
利:どうしても体操しなきゃだめ?
介:腕、痛いですか?無理しなくてもいいですよ。今日は体操やすみましょうね
介:無理して全部食べなくてもいいですよ
見守り時に居室へ戻ろうとされる利用者様にはやんわりと。
介:まだお部屋へ戻らなくてもいいですよ。