Oh My Girlユア、ソロデビュー/少女たちだけに見える世界
Oh My Girlのメンバー、ユアのソロデビューが配信されはじめた。
ぼくが初めて彼女の事を意識したのは、2017年にKBSで製作された「アイドルドラマ工作団 花道だけ歩こう」だった。ユアをはじめ、MAMAMOOのムンビョル、Red Velvetのスルギ、Lovelyzのスジョン、SONAMOOのディエナ、I.O.Iのソミ、C.I.V.Aのソヒ(現、NATURE)といったKpopガールズグループのメンバー7人が一同に会し、ドラマを作るというリアリティ番組だ。
7人が、練習生時代からデビューまでの経験を話し合い、プロの脚本家が一本のドラマにまとめ、その後、ドラマの経験がほとんどない彼女等が演技指導を受けたり、主題歌を録音したり、あのおっかないペ・ユンジョン先生振付でダンス練習したりと、いわばkpopや韓流ドラマの裏舞台が見られるという趣向。特に、動画で見ただけの振付を、1~2時間でマスターする場面は、彼女等の基礎力を見せつけられ、kpopにはまるきっかけになった。
全四回のうち3回がドラマが完成するまでのリアリティ仕立てで、4回目はドラマ本編。ここでユアは、年上だが同期生で万能の優等生スルギと何かにつけて比較され、尊敬と嫉妬の入り交じった練習生を演じている。
↓の動画は、事務所の週末評価で、社長からさんざんに酷評されたユアが、落ち込んで帰宅しようとするが、気を取り直して稽古場に戻ると、さきほども社長から「スルギと同期生なのに恥ずかしくないのか」と引き合いに出されたそのスルギが、一人居残り稽古。ライバル心剥き出しに躍り続ける2人(Kpopヨジャアイドルを代表するダンサー2人のバトルが圧巻!)。やがて疲れて床に寝そべった2人。同期生の気安さからか、スルギは他人には言えない内心を打ち明ける。最近は、あんなに好きだった歌をうたうのが怖い。歌うことが嫌いになりそうだ、と。それに対してユア、「私の夢がなんだか、わかる?」。スルギは首をかしげて「さあ、デビュー?」。ユアは答える。「違う。私の夢はオンニだよ」。オンニは、女性が年上の女性に使う「姉さん」という意味。「いつか私、オンニみたいに褒められたい。いくら嫉妬しても、嫌いにはなれない。だから、歌が嫌いになりそう、なんて言っちゃだめ。オンニは私の夢なんだから」。
グループメンバーのミミを相手にこの場面を練習しながら、こんな恥ずかしい台詞言えないよー、とユアが2人で爆笑する場面も放映されていた。確かに一つ間違えれば大惨事になりそうな台本だけれど、台詞を言うユアも、それを受けるスルギの表情も、ドラマ初出演とは思えないほど見事だった。
ユアは、Oh My Girlでは、リードボーカル、メインダンサーというポジションにある。160センチと、Kpopアイドルとしては小柄だけれど、すらりとした細身に長い手足、小顔といったスタイルの良さを、指先まで繊細に活かしたダンスには定評がある。歌もうまいのだけれど(だから、ソロデビューを果たせた)、ただグループにはリーダーのヒョジョンと、スンヒというメインボーカルのツートップがいて、どうしてもクライマックスでは彼女等の掛け合いが場面をさらってしまう。そうした彼女の思いが、この場面に込められているのかもしれない。
↓ドラマのクライマックスで披露される、DEEP BLUE EYES。そうそうたるメンバーのなか、ユアのセンターでスタート。
以来、Oh My Girlをチェックするようになった。彼女等はコンセプト妖精と呼ばれているらしいけれど、確かにMVを見ると、わかりやすいドラマ仕立てではなく、少女の感受性や内面性が、言葉では説明しづらいけれど、そう描くしか表現しようがないよね的な、ファンタジックな絵として描いていることに気づく。おとな(とくにおっさん。誰とは言いませんが!)が少女という存在に仮託したい夢を描くのではなく、少女たちにはそのように見えているであろう世界を具現化しているように思える。Oh My Girlが、他のガールズグループからも支持されているのは、そのあたりにあるのかもしれない。
だが、彼女等の凄さは、むしろMVで表現された複雑なコンセプトを、ライブステージではより鮮明に表現しているという事だ。ぜひ、MVと見くらべていただきたい。
ぼくがより、彼女等の凄さを認識させられたのは、『不朽の名曲』というバラエティショーだ。毎回、大御所が登場し、その前でいま活躍中の歌手たちが、大御所の名曲をカバーするという趣向。MAMAMOOやGFRIEND、Iz*Oneといったアイドルグループも出演していて、Oh My Girlも幾度か出演しているのだけれど、特に、ペク・ナナという往年のスター歌手が1949年に発表した『 낭랑 18세(甘い18歳)』のカバーが圧巻だった。
70年前の古い曲を、ダンスミュージカル仕立てアレンジ。メインボーカルのヒョジョンとスンヒの掛け合い、飛び道具のように使われるミミのラップ、メガネ美少女ビニのビジュアルと、メンバーそれぞれの個性を活かした名ステージだった。ユアは、特に目立ったポジションは与えられていないけれど、ダイナミックなダンスの表現力は一枚飛び抜けていた。
昨年は、パク・ボム、MAMAMOO、 AOA、 Lovelyz、 (G)I-DLE、そしてOH MY GIRLが競い合う趣向の『QUEENDOM』に参加。ライバルLovelyzの曲Destinyを、韓国の伝統楽器を取り入れた東洋風コンセプトにアレンジしたカバーステージは圧巻だった。特に、3:02から4;12にかけて、このグループ最大の武器であるヒョジョンとスンヒの掛け合い、そして集団でのダンスブレイクに続く、ユアのソロパート。思わず涙が出そうになったのは、上に挙げたげた『アイドルドラマ工作団』の名場面を踏まえた、妄想と現実がごっちゃになったぼくの個人的感傷だけれど、バックステージで見ていたMAMAMOOのソラ姐御が「恋しちゃった!」と叫んだのも、、むべなるかな、だった。
そしていよいよ、満を持してのソロデビューとなったわけだけれど、こちらも生ステージ動画を載せておきます。大勢のバックダンサーを従えながらも、自分が目立つだけでなく、全員でコンセプトを表現しようとする姿勢が見えるのも、個性にあったソロパートがありつつ、息をあわせて一つの世界を構築していくKpopガールズグループのメンバーゆえのような気がする。
少女と妖精は、安易に結びつけられるイメージだ。だが、ユアが演じる妖精を主役としたMVやステージから見えるのは、(特に男たちが)少女や妖精に見出したい欲望ではなく、もし、妖精が実在するとすれば、その眼に見える世界はどのようなものだろうというイマジネーションを具現化した世界だ。物語世界を構築する上で、現在の世界が獲得しようと戦っている何かを、表現しようとしているのがKpopであり、それ故にグローバルな人気を勝ち得ているのだと思う。