南夕子とは何者だったのか(1)水原勇気という補助線/『ウルトラマンA』覚え書き(29)

『ウルトラマンA』を、南夕子という唯一ウルトラマンに変身する女性を切り口に、28話まで詳しく追ってきた。そして、男女の合体変身というアイデアが、メイン脚本家の市川森一の宗教的な思い入れ(思い込み)から出たものであり、しかし、ではそういう南夕子をどういう女性として描こうとしたかは、彼女を演じる女優が放映直前で交代するというアクシデントもあり、結局消化不良のまま、視聴率回復のテコ入れという大人の事情によって退場を余儀なくされた事が掴めた。

その代わりに描かれたのは、父親と息子であったり、兄と弟であったり、上司と部下であったりと、男たちの疑似家族的関係性だった。TAC自身が、竜隊長という家父長の下に統率された疑似家族であり、北斗星司はやんちゃな末っ子という役割を与えられ、時に暴走しつつ、時に山中隊員ら兄貴に反抗しつつ、一人前の隊員として成長していった。同じ女性隊員でも美川のり子は、竜隊長の信頼する右腕であり、いわばTACの母親、長女としてきちんと位置付けられた(時に、彼女が見せるフェミニンな姿は、そうした位置づけを裏切るものではなく、むしろ人間としての膨らみとして作用した)。

そんな構造のなかで、恐らく南夕子に求められたのは、北斗星司の妹であり、TACの末娘としての役割だったはずだ。最初にキャスティングされていた関かおりのキャラクターや、第28話のサブタイトルが「さようなら夕子よ、月の妹よ」だったことから傍証される。だが、急遽抜擢された星光子のキャラクターもあり、当初の予定は大幅に狂うことになった。

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