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吾輩は歯科助手である

歯科医院に歯科助手として勤めて約10年になる。
10年前に友達の紹介で働き始めたのだが、「シフトの融通が効く」という条件がなければ、医療になんてノミの鼻毛ほどの興味もなかったし、人生で一度も働くことはなかっただろう。

それまでの私の歯医者に対するイメージといえば、もちろん虫歯を治しに行くところ。歯が痛い人が行くところ。まあ、おじいちゃんおばあちゃんにもなれば入れ歯とかもこさえてもらうのかしら?
そんな感じだった。

…そんなもんだったから、実際に働いてみてビックリしたのだ、虫歯の治療でくる人の少なさに。
いや、正確に言うと虫歯の治療ではあるのだが、虫歯が進行して、根っこの治療をしている人や、銀歯を作る人の多さにビックリしたのだった。私の想像していた「虫歯の治療」は、ちょっと削って、レジンを詰めてもらって、照射してもらって、なんか削るやつで詰め物の高さ揃えてもらって、完。

ええ〜!?神経まで虫歯が進行しちゃうと、こんなに何回も何回も通い続けなきゃいけないのォ!?

逆に(?)新たな扉が開けた瞬間だった。
新しい知識を得ることが好きだった私は、間近で見られる歯科医療(自分が治療するわけじゃないけど)がどんどん楽しくなっていった。

入れ歯って部分用があるんだァ〜、、親知らずって本当に根っこが深いんだなァ〜、、歯のことだけじゃなくて、アゴとか歯茎が痛くても歯科なのねェ…先生によって使う器具こんなに違うんかァ〜…もしアフタゾロン(口内炎の薬)とペリオドン(歯の神経を殺す薬)間違えたらどうしよう(急に真顔)…

歯医者で働き出してから、めくるめく日々だった(大袈裟)。

初めて見る根っこの治療のアシストについて、貧血になって倒れたこともいい思い出だ。
歯の中にネジのようなものを入れ、根っこの中をゴリゴリとお掃除していくのだが(もちろんこの時患者さんは麻酔が効いているか、すでに神経がないため痛みは無い)、自分自身は根っこの治療の経験が無かったから、それが分からなくて気を失ったのだった。
煌々と照らされている初めて見る他人の口腔内、剥き出しの歯茎、ポッカリと穴が空いている、歯。そこにゴリゴリとねじ込まれていくネジ。
一瞬スプラッタ映画を見ているかのような気分になってしまい、血の気が引いて倒れた迷惑すぎる女であった。
まあその数ヶ月後には、抜歯した後の血だらけの歯茎をガンガンバキュームで吸っているのだが。

…そして10年間人の口腔内の治療に携わって出た、結論という名の持論がある。

永久歯、生えてくるの早すぎヤロ!?!?

人生100年時代と言われている現代…
せ、せめて20歳くらいで萌えてきてくれませんか!?もしくはサメみたいに何度も萌え変わってくれませんかね!?
↑※歯がはえることを歯医者さんでは「萌出(ほうしゅつ)する」というので、「歯がはえる」は「歯が萌える」と書くよ!(豆知識)

元も子もないこと言うけど、早すぎやねん永久歯って萌えるのが…まだ自分で管理することが難しい年頃ヤロ…

まあこんな身も蓋もない話は置いておいて、歯を守るためのライフハックをお教えしよう!

ドゥルルルルル…(ドラムロール)

ジャンッ!!!!

定期的に歯医者さんに行ってクリーニングしてもらうことだ〜!!!!!

そんなこと知ってるって!?
けどさ…?「知ってるけどできない・やりたくないことランキング」10位以内くらいには入るんじゃないのこれ?冷蔵庫の霜取りとかテレビの裏の掃除くらいめんどいよねえ?
こんなこと偉そうに言っているけれど、私もかなり怠惰な人間だ。痛くならない限り歯医者になんぞ行きたくない。なんなら痛くなったって行きたくない。
歯科で働き始めて、「疲れてると歯が痛むことが稀にある」と言う知識を得てしまった私は、ちょっと歯に違和感を感じると、「私ってば疲れてるのかな…?ヘヘヘ」と痛みを誤魔化してしまうこともあるくらい行きたく無い。まあそのあとちゃんと行くけどね。

けど真面目な話、クリーニングを3ヶ月に1回しておけば、虫歯にかかるリスクも減るし、虫歯があったとしても初期段階で済む。
痛くなってからだと、もしかしたら最悪大切な歯を無くしてしまうかもしれない。もしかしたら入れ歯を作ることになって、もしかしたら入れ歯が合わなくて、もしかしたら3ヶ月に1回どころか3日に1回歯医者さんに通わないとご飯が美味しく食べられなくなってしまうかもしれない……

そんなのって嫌じゃん?

おじいちゃんおばあちゃんになってもフランスパン前歯で齧って食べたいじゃんか〜繊維質なもの臼歯ですりつぶしたいじゃんか〜?

だからみんな、歯医者に行こう!


歯医者で働いていると、患者さんの一本一本の歯が愛おしく思えてきたりする。
「○○さんの右上6番ついにマバツ(神経をとること)になったのねェ…ずっと痛がっていたものね…これでよかったのだわ…」とか、「○○くんついにBの乳歯抜けたんだ!!もう永久歯萌えてきちゃってたもんね!!!!」
などなど、日々変化する患者さんの口腔内のことを知っては、自分のことのように一喜一憂するのだ。

「患者さんなんていっぱいいるし、一人一人の口の中のことなんて忘れてるっしょ」と思うかもしれないけど、患者さんが自分で思う以上に、我々は患者さんの一本ずつの歯を覚えているし、愛着がある。
信じられないかもしれないが、「○○さんの○番の歯がさあ〜」などと先生に言われた時に「あーあの歯ね」とパッと頭に浮かんだりする。
だから、そんな我々が手に塩かけて管理した歯なんだからさ、おじいちゃんになってもおばあちゃんになっても、最期のその日まで28本分の思い出と共に人生歩もうぜ。親知らずがある人は34本分ね。

あ、ちなみに「この歯は50年前激痛じゃったノォ…」なんていう深い思い出は、絶対ない方がいいんだけどね。

おしまい。

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