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木星のジュピ

月がでない夜。
新月っていうんだとこの間、父さんに教わったっけ。
真っ暗なのに、真っ暗だから、小さくてちらちらと光る星々がにぎやかな空。

宇宙は空気がないんだ。星は苦しくならないんだろうか?
星から星まで、とんでもなく遠いんだって。
…さみしくならないかな?

そんなことが頭に浮かぶのは、今夜は父さんも母さんも出かけていて、
帰りが遅くなるからだ。
つまり、ぼくは今、この家の中で一人で留守番。一人きりなんだ。

さっきまでテレビを見ていたけれど、ひとりで見るテレビは家族で見るよりつまらない。あーでもない、こーでもない、と父さんと言いながら見るほうが、それを見て母さんがくすくす笑ってる横で見るテレビの方が、100倍面白いことに気が付いた。

だからといって、テレビを消すと部屋の中はしーんとして、しずかになりすぎる。冷ぞう庫のぶーんという音が気になってしかたなかった。

それで、同じしずかならこっちのほうがいい、そう思って、パジャマの上に赤いパーカーを着て、ぼうえんきょうをかかえてベランダにでてきたんだ。

何もないって、どんな感じだろう?
真っ白な画用紙の上、
からっぽの箱、
だれもいない家、
どれもちょっぴりさみしい気がする。
画用紙は絵を描けばいいけれど、空っぽの箱は開けたときがっかりする。だれもいない家は、今のぼく。さみしい。

ぼうえんきょうから顔をはなして、空に向かって、
「宇宙って、どんなとこ?」と声に出してみた。
答えは返ってくるはずもない、と思っていたのに、

『なんでもできるところ』

男でも、女でもない、子どもでも、大人でもない、ふしぎな声が頭の中に聞こえてきた。周りにはだれもいない。ベランダの下にも、もちろん、ベランダにも、窓から部屋の中をのぞいても、やっぱり誰もいない。

『宇宙ではね、どんなことでも思い通りさ』
また、声がした。
「きみは誰?どこにいるの?」
『ぼくは木星に住んでる、ジュピだよ』
「ジュピ?はじめまして、ジュピ。ぼくはあすか」
『あすか、よろしくね』
「ねえ、木星ってどんなところ?」
『とても大きい。きれいな星だよ。地球は?』
「地球も大きいさ。そしてきれいなんだよ」
『そうか。地球も大きくてきれいなのか。地球に行ってみたいな』

ぼくとジュピは、そんなふうにかわりばんこに住んでいる星について、質問しあった。ジュピの声は、とてもふしぎだった。

「ねえ、ジュピ。なんでぼくたち、話ができるんだろう?ことばはちがうよね?」
『同じ宇宙に浮かぶ星、同じ宇宙に住む生き物だもの』
「同じ…そうか、ぼくも宇宙人なんだ!」
『そうだよ、ぼくも、あすかも、宇宙人。真ん中にあるものは同じなのさ。体がちがっても、住んでる場所がちがっても、ことばがちがっても』
「すごいね、ほんとにすごい!ぼく、こんなふうに宇宙人と話せるなんて思ってなかったよ!」
『だから、あすかも宇宙人なんだってば』
「あ、そうだった」

ベランダの真下、ガレージに車が入ってくるのが見えた。

「あ、父さんたちが帰って来た」
『よかったね、もうさみしくない』
「うん、でも、ジュピと話してるうちにさみしさはどっかいっちゃってたよ」
『じゃあ、またね、あすか』
「またね、ジュピ。おやすみ」
『おやすみ』

ジュピの声が、頭の中からなくなった。
下の階でがちゃがちゃと、玄関のかぎを開ける音がする。

「あすかー、ただいまー」

父さんの声だ。ジュピのこと、父さんと母さんに言おうか?でも、木星に住むジュピと話しをしただなんて信じないかもしれない。どうしてか、大人は他の生き物と話しをするというのを信じないんだ。もうちょっと信じればいいのに。

ジュピの言っていた、宇宙ではすべて思い通りってどんなだろう?宇宙ってことは地球もそうなんだよね?これから、ぼくにもわかるだろうか?

そういえば、息が苦しくないか聞き忘れちゃったな。次に話すとき聞いてみよう。そうしよう。

そうして、「父さん、母さん、おかえりー」といいながら、ぼくは階段を駆け下りた。

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