きらきらの朝
雨つづきのあとの、晴れの朝。
すべてがきらきらとかがやいてみえる。
透きとおった青空がきらきら。
ゆったりと流れる川の水がきらきら。
朝を告げる鳥たちの声がきらきら。
足元の草花、葉や花につくしずくがきらきら。
ひと呼吸、ひと呼吸、吸い込む空気さえきらきらとしている。
自転車に乗って、すいすいと進んでいくと、太陽がこっちだよーと呼んでいるかのように、正面から私の顔を照らしてとっても眩しい。何も見えないくらい、世界が真っ白になるくらいに。
ほら、また、真っ白になった。そう思った次に私の目に飛び込んできたのは、見たこともない、不思議な光景だった。
すべてがカラフルでぴかぴか、
甘い香り、チョコレートか、キャンディーかな?
そして、ちいさな小人たちと大きな一人のおじいさん。
小人たちの様子を見ていたおじいさんが、突然後ろを振り返り、何が何やらわからず立ち尽くす私と目が合った。
「おや?新入りさんかな?こっちへおいで」
そういわれるがままにおじいさんに近寄ると、ふんわり甘いバニラのような、そしてちょっとスパイシーな香りがした。
「今日はこの気球を仕上げる日なんだ。ほら、この子に教えてあげて、さあはじめよう。大丈夫、すぐになれるよ」
おじいさんはそんなふうに小人たちと私に声をかけ、とことことどこかへ行ってしまう。つんつんと服を引っ張られて下を見ると、小人がいた。
「まず着替えよう、こっちへきて」
用意されたものをみると、上も下も緑、とんがり帽子も靴も緑。
なんだか自分まで小人になった気分だ。
着替えてから小人に連れられていくと、大きな部屋に着いた。
中に入ると、きこきこ、うぃーん、がたんがたん、チョキチョキ、いろんな音でいっぱいだった。おじいさんが言っていた通り、気球を作っているようだ。けれど、それは本物ではなく、とてもちいさい、手のひらからはみ出るくらいで、上からつるせるようになっている。
「こっちこっち」と手をひかれ、私も気球づくりに参加する。
となりの小人にいろいろと丁寧に教えてもらって、作るのに慣れてくると、小人も安心したのかおしゃべりをはじめた。小人が言うには、あのおじいさんはサンタさんで、彼はなんと100代目。その前は彼のお父さんだったらしい。やっぱり、サンタさんだったんだ、と聞きながら納得した私は、思い切って気になっていたことを質問してみた。
「ここはどこなの?」
「え?サンタの国に決まっているじゃないか」
あっさりそういわれてしまった。思い切りよくて、なんだか納得してしまった。けれど、私は家に帰らないといけないし、第一学校に行かなきゃいけない。
「ねえ、私、家に帰らないといけないの」
「どうして?ここはとてもいいところだよ、どうして?」
確かにすてきな場所だ。
甘いお菓子とおもちゃがいっぱい。
サンタさんも小人たちもとても親切。
みんなとっても楽しそうだ。
けれど、ここに居たら、家族や友達に会えない。それはさみしい。せっかく出会ったサンタさんや小人たちに会えなくなるのもさみしいけれど…
「やりたいことがあるところにいればいいんじゃない?」
ひとりの小人が私に言った。
「やりたいこと?」
「そう。だって、出会った人は忘れない。忘れたと思っても、記憶は絶対に残る。それをたどれば、必ずまた会えるもの。一度交差した心と心は、まだ出会ってないものたちより結びつきが強いんだから」
「じゃあ、私はまたここに来れる?」
「もちろんさ。君がそう願えばね、願いはすべて、ひとつ残らず叶うんだ」
「すべて叶う」
「そう。だから気をつけなくちゃいけない。信じることすべてが現実になるから。会えないと君が信じてしまったら、会えない。二度と」
「え?」
小人は私の手を握る。
「大丈夫。会いたいって思うんでしょ?」
「うん」
「それだけ、心に思い描いて。楽しい想像して。そしたら大丈夫」
「うん、わかった」
小人と手を握りあって、また気球作りを始めた。
もくもくと作る。
もくもくと手を動かして、さみしい気持ちを抱きしめる想像をしてみる。
ぎゅーっとして、あたたかくなるまで、ぎゅーっとする。
そうしていると、心がしだいにぽかぽかとしてきた。
そこにサンタさんがやってきて、こういった。
「今日はありがとうね。君のおかげでとってもはかどった。さあ、着替えておいで」
私は朝と同じ部屋で着替えをすませて、サンタさんの元に戻ると、そこには小人たちも勢ぞろいしていた。
みんなと、ぎゅーっとハグをして、「さみしい」を次会うときの「わくわく」に変える。
そうして、サンタさんが教えてくれた道を歩いていくと、いつもの通学路に出た。
すべてがきらきらしている朝だった。
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