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伊豆市長選挙で投票事務のバイトをしていたら、候補者に会いたくなったので会いに行ってきた【伊豆市長選挙2024】

選挙では、候補者が街頭で演説を繰り広げ、スタッフやボランティアはビラを配り、有権者はそうした選挙活動を見るなどして投票先を決める。
選挙漫遊ではそんな選挙の表舞台である街頭を走り回るのが主だが、今回足を運んだ伊豆市長選挙では、選挙を裏側から観察する選挙事務のアルバイトに初挑戦してみた。

選挙事務のバイトに挑戦

選挙事務のバイトを知る前は、投票所で仕事をしている人たちは全員役所の職員の方々だと思っていた。だが、実際は役所や求人サイトでアルバイト募集がされており、20歳以上なら基本的にはだれでも従事できるようだった。
私は求人サイトで申し込みをし、期日前投票所で3日間勤務することになった。勤務日前に1時間ほどの講習会に出席し、投票所で使用するパソコンの操作などを教わって、当日を迎えた。


私が投票事務を行ったのは修善寺駅の期日前投票ブース。
駅構内に作られた特設会場なので、屋内にある会場とは違い仕切りの壁があるだけで、完全に間仕切りされておらず、頭上を見上げると駅の木造の天井にツバメの巣作りの跡が見える。そしてツバメも時折飛んでくる。
風通しもよいため、気温があまり上がらない日の夜は吹く風が冷たく、なにか羽織っていないと結構寒い。
だが、他の期日前投票会場では聞くことができない伊豆のFMラジオ(駅構内で流れている)で音楽も流れたりするので、有権者が訪れないときは、それをきいて時間を潰せる。

そんな修善寺駅の期日前投票会場、駅ということもあって仕事帰りや買い物のついでに立ち寄りやすい場所になっている。だが、有権者の方が全く来ない時間帯もあったので、そこまでの激務ではなかった。
ぼーっと考え事をしたり、同じ事務従事者の方と話したり、マニュアルを読んで公選法に思いを馳せたりする時間もたっぷりある。

職務については、どんなことをやるのかと言うと大きく分けて4つ。

投票所での仕事内容

まず、ブース外で有権者の方が入場券裏の宣誓書に記入しているか確認。
記入漏れがあれば、外に置かれている台で書いてもらう。

宣誓書とは氏名や生年月日、住所などの個人情報を書き、当日投票ができない事由があることを宣誓するもの。仕事や学業がある、失病や障害などがある等の事由などが書かれており、以前は、どの事由に該当するか〇をつける必要があった。だが、令和4年の公選法改正(一票の較差是正のために小選挙区を10増10減し、区割りを改定することが主な内容。当時この法案を所管する総務大臣であった寺田稔議員に政治資金規正法違反疑惑が出て、法案の審議過程でも疑惑の追及が行われた。)に伴い出された政令により、該当する事由に〇をつける必要がなくなった。

次に、入場券に付番をする。
この番号と、投票用紙の発行数を突合して二重交付がないことを確認する。
(もし入場券の番号が100なのに、発行数が101になっていたら、誰かが2人分投票した可能性が出てきて一人一票という平等選挙の原則が脅かされてしまう。二重交付が起きた場合、原因究明や確認作業のため開票所で早朝まで票の数えなおしがされたり、投票所のどこかに投票用紙が紛れ込んでいないか探したりといったことが行われるようだ。)

付番をした後、入場券に印刷されているバーコードを読み取る。すると、有権者の個人情報がパソコンに表示されるので、その表示された情報と券に書かれている情報に違いがないか、目の前にいる人が当該有権者か確認。本人である確認ができたら、パソコンのシステム上で登録をする。

最後に、投票用紙の発行。
選挙人に鉛筆と投票用紙1枚を渡す。また、上述した入場券の付番と投票用紙の発行数にズレがないか確認をする。

大まかな流れは、こんなかんじだった。

投票事務は、選挙という民主主義において主権者が意思を示す大事なプロセスを支えるもの。

二重投票や二重交付を防ぐため、開票前から個人情報の確認、投票用紙の交付にミスがないかの確認などがされる。
投票用紙も、機械で100枚数えられ束になっているものを、再度人の手で数える。その後、ムサシ(選挙機材でトップシェアを誇る株式会社)の投票用紙自動交付機に用紙をセットし、ボタンを押すと機械が1枚ずつ用紙を発行、発行数が記録されディスプレイに表示されるようになっている。

一見すると座っているだけだが、間違いがないように一つ一つチェックしていく仕事は緊張感があった。でも、普段目にすることはない選挙機器や、管理システムを使い事務をするのは、なかなか楽しかった。

候補者氏名が目に入る。選挙漫遊にいきたくなる。

投票事務をしていると目線の向こうに投票用紙記入所があり、そこに貼られている候補者氏名表が見える。
そこに書かれている候補者名を見ていると、無性に選挙漫遊をしたくなってくる。
期日前投票所の近くを通ったらしい選挙カーからウグイス嬢や候補者の声が聞こえてきたときなんかは特に。
「おい、お前は何を座っているんだ!選挙カーが近くを通っている!立て、そして走れ!候補者に会いに行くんだ!」という声が聞こえてきて、体がウズウズする。(文面を見ると、ヤバいやつにしか思えない。)
でも、いきなり仕事を投げ出して走り出すわけにはいかない。

ならば、投票事務が終わってから会いにいけばいいんだ。

ということで、投票事務を3日間終えた翌日、候補者に会いにいった。

そして候補者に会いに行ってしまった。

選挙漫遊は収入がなく支出がただただ積もっていくだけ。だから、投票事務のバイトでその分を少しでも埋めよう、今年は衆議院選挙もあるだろうし、静岡県知事選も5月に予定されているのだから今回はバイトだけで漫遊はナシにしよう。

そう、誓っていたのに。


でも3日間も、名前を見るだけ、通りかかる選挙カーからの声をきくだけ、ポスターを見るだけ、選挙公報を読むだけ。
そんなことしてたら、「やっぱり、これは会いに行かなければならない」と思うようになる。
それに、議会議員選挙とは違って、市長選挙は定数が1で、候補者も2名だったから、そこまで費用をかけず選挙漫遊ができる。
ということで、候補者2人に会ってきた。

森よしお候補 新人・無所属


選挙管理委員会から事務所の場所を聞き、まず向かったのは森候補の事務所。
事務所があると地図に示されている場所は住宅街で「ここらへんかな」とキョロキョロしながら歩いていると、選挙カーが目に入ってきた。選挙カーが停めてある場所の横の路地に家があり、「森よしろう」と書かれた看板が立っている。
チャイムを押すと森候補本人が出てきた。
「一人でやっているから疲れて」休憩のため自宅で休んでいたという。少し待ってくれたら、選挙カーのところでインタビューに応じてくれるとのこと。

元市議会議員をやっていたということから、そのときの選挙スタッフが何人もいると私は思っていたのだが、まさか一人で活動しているとは。首長選挙で、もっと大勢のスタッフがいると考えていたので驚いた。

選挙カーの近くで10数分待つと、森候補が事務所から出てきたのでインタビューを始めた。

インタビュー

対立候補であり現伊豆市長である菊地候補が、観光協会、商工会、建設業者の強者ファーストであるのに対して、自分は市民ファースト。スタッフはおらず一人でやっているから、しがらみはないと話した。昨日は、応援してくれる人に選挙カーの運転手をしてもらったが、今日は一人なので運転も自分でやるという。

政策としては、伊豆市の電算コンピュータ業務を、同業務を行っている三島市へ移設、市役所内のDX化などの改革・改善をしていき節約をしていく、また節約したお金を教育に回していくことなどを挙げた。

森候補は、メモが書き込まれた菊地候補の市政レポートを手に、旧天城支所庁舎を民間企業に減額譲渡したこと、人口減少している伊豆市で新中学校(伊豆市にある3校の中学校を統合した新中学校)建設をはじめたこと、人口の社会動態(転入、転出数)を、実態とは違う数字で報告していること(令和6年3月に発行された市政レポートには、令和4年度までの社会動態の増減数が書かれている。令和4年度には社会動態がプラスに転じたが、令和5年度の数字を森候補が伊豆市に問い合わせたところ、増減数はマイナスになっており、そのことを実態とは違うと話していた。)などを挙げ批判していった。

余談

余談なのだが、森候補が話していた人口の社会動態について、私は最初、森候補が「令和4年にも社会動態はマイナスになっている」と主張していると勘違いをした。インタビュー後、伊豆市統計書などを調べて、森候補の話と菊地候補の市政レポートとを見比べていたが、やはり令和4年度はプラスになっているので、どういうことかと森候補に選挙後に尋ねた。
そこで、令和4年度ではなく、令和5年度の転入が1131で転出が1211、増減はマイナス80人だと市に問い合わせて聞いたということを教えてくださった。

「そういうことか」と、そこでいったん合点したのだが、資料を見比べているうちに、なぜか菊地候補の市政レポートに書かれていた社会動態の増減数が、令和元年度と令和3年度だけ伊豆市統計書の数字と違っていることを発見した。伊豆市統計書以外の統計調査で出た数字なのかもしれないが、よくわからないので、現在、菊地候補と伊豆市に問い合わせて回答を待っている。

令和元年 転入者1020 転出者 1270 増減 -250
令和2年 転入者 1004 転出者 1112  増減 -108
令和3年 転入者 956 転出者1056 増減 -100
令和4年 転入者 1124 転出者 1115 増減 +9

令和3年度版伊豆市統計書  令和4年度版伊豆市統計書  8ページ

令和元年度 増減-247
令和2年度 増減-108
令和3年度 増減-70
令和4年度 増減+9

令和6年3月発行 伊豆市市長 菊地ゆたか 市政レポート

【追記】先日、上述した社会動態の数値について市から回答があり、それによると伊豆市統計書の数値が誤っていたらしい。市政レポートと統計書の社会動態は同じ出典からそれぞれ数字を出したが、統計書の数値は積算方法の誤認により誤った値が掲載されたとのことだった。統計書については正しい数値に差し替えるとのことだった。

「お前が出たから、2000万円かかる」

森候補は自身のブログで発信をしているが、「お前(森候補を指す)が出たから(選挙を行うことになり、その費用として)2000万円かかる」など嫌がらせコメントが毎回40ぐらいあるという。
SNS上だけでなく、選挙活動中にも、選挙カーを走らせていると対向車から「バカヤロー」と言われたり、選挙前にゴミ拾いをしているときに暴言を言われたりするのだそう。

「選挙活動を一人でしていて、そんなふうに言われたら、嫌になりませんか?」と問うと
「80年生きて、いろいろ経験してるから」と笑顔。
「伊豆市の改革、改善をしていきたい」「たとえ負けても市民が知るべきだと思うことを伝えていきたい」と語った。
「年金受給者には出費が痛いけど」と、これまた笑顔で言う森候補。
そんなふうに一人で苦境にあっても笑って活動できるって、すごい。
インタビューが終わったあと、そんなことを思って余韻に浸りながら森候補の事務所をあとにした。

帰宅後、森候補のブログをチェックしてみたら、ほとんどの投稿には、削除されたのかコメントは0〜数件だったが、直近の投稿には17件のコメントがあり、
「しがらみがない=仲間が一人もいない。選挙協力に一人も来ない市長候補なんて恥」
「こちらとしてもこの期間が終わると活動しなくなりあなたを見なくて済むんだと思うと選挙日が待ち遠しくて仕方がありません」
などと書かれていた。
 

立候補して選挙活動をするのは大変なこと。
今回は市長選だから、候補者は供託金として100万円を収める必要がある。これは一定の得票数がないと返ってこない。スタッフを雇うのにもお金がかかる。
お金だけではなく、各所にポスターを貼りに行ったり、演説のため市内を回ったりする体力も必要だ。
公に顔と名前を出すというリスクも背負っている。

今回の伊豆市長選挙では、現職の菊地候補と森候補の2人しか立候補者がいない。もし、一人も対立候補がいなければ、無投票当選になってしまう。
主権者である市民が、それぞれの民意を示す機会である選挙が行われなくなってしまうと、民主主義というシステムが機能しなくなる恐れがある。
だから、立候補した候補者には敬意を持つことが大切だと思う。
 
 

菊地豊候補 現職・無所属



森候補にインタビューした後、菊地候補の事務所に電話をした。「街頭演説を見たい」と伝えると、「ありがとうございます!場所は-」とスタッフの方から翌日の演説予定を丁寧に教えてもらった。
 
一夜明けて、投票日前の選挙活動最終日。
向かったのは修善寺駅近くのスーパー。演説開始時刻の前から、10数人、スタッフと支持者らしい人たちが待機していた。
スタッフと思しき方に話しかけると、「演説はこちらを向いてやるので」と教えてもらった。
インタビューの時間があるか聞くと、最終日ということでスケジュールもタイトでインタビューはできないと思うとのことだった。
忙しいのなら仕方ない。演説を撮って帰ることにしようと思いながら待っていると、菊地候補を乗せた選挙カーが到着。
 
県議や、熱海市長の応援演説から始まり、買い物帰りと思われる人たちが数人、演説を聞くため足を止めていた。
菊地候補の演説では、駅周辺の開発などの都市整備を進め、観光を基盤として経済、産業を発展させること、災害に強いまちをつくっていくことを訴えていた。

演説が終わり、聴衆のほうを回っていく菊地候補。私のところに来たとき、1枚写真撮影をお願いした勢いで、自己紹介をしてインタビューの時間があるか聞くと、この後の演説場所に行って、その後なら応じられるという。

「やったー!ダメもとでも聞いてみてよかったー!」

ということで、次の演説場所であるドラッグストア前に行ってみると、既に聴衆が20人ほどいて演説に耳を傾けていた。
動画撮影はもういいかと思ってメモだけ取っていたら、応援演説をしている県議が対立候補のことを話している。
(野田はるひさ県議)「県議選にも出て、市長選にも出ている。秋の市議選のための売名行為なんですよ。」
 
すぐにカメラを回し始める。

売名行為


(野田県議)「公費を使って選挙をやって売名行為をやっている」
 
売名行為。選挙で当選するつもりがなく、自分の名前の認知度を上げるためだけに出馬すること。
でも、そのためだけに100万円、県議選だったら60万円もの供託金を納めるものだろうか。
それに、私が森候補に話を聞いたときには、今の市政が行っている政策の批判点を一つ一つ話し、それを変える必要があると訴えていた。その様子からは、ただ売名行為で立候補しているとは思えなかった。
 
ここは演説終了後、県議のところに行って
「演説で菊地候補の対立候補が売名行為で出馬しているという旨の発言がありましたが、どういった根拠でそう仰ったんですか?」と質問を当てなければいけなかったのだ。
やってしまった。私は野田県議の応援演説が終わると、菊地候補の演説を聞いてインタビューのことに頭が持っていかれていた。
もっと臨機応変に動けるようにならなくては。
 

インタビュー


ともあれ、演説が終わり、インタビューができるとテクテク歩いていったら、菊地候補を乗せた車が発進して会場を後にしようとしている。
「ど、どうしよう」
と思っていると菊地候補が私に気づき、車を止めるよう指示すると、近くにいた市議の方に「(私に)事務所の場所教えてあげて」と一言。どうやら、事務所でインタビューを受けてくれるらしい。
市議の方から住所を聞き、事務所へ向かった。
 
事務所に着くと、奥の壁一面に、国会議員や、地方議員らの為書きが貼られている。
中には長机があり、菊地候補はそこでスタッフの方と昼食の弁当をガツガツと食べていた。
中に入るよう促され、「食べながら聞くから」と言われ質問項目を伝える。それから撮影の準備をすると、すぐにインタビューに応じてくれテキパキ答えていく。
印象的だったのは、投票率に関しての考え。前回選挙は投票率が59.09%だった。この数字について「低い」「伊豆市民が主権者」ということを強く話していた。
私は、これまで漫遊してきた選挙の投票率に比べると、伊豆市長選挙の投票率は高めだなと思っていた。だから、菊地候補がはっきり59%は「低い」投票率であり、市民が主権者意識を持つように言うのをきいて、ハッとさせられる思いがした。
「いい感じに使ってください。若い人のために」
インタビューが終わるとそう言って菊地候補は昼食に戻っていく。
時刻は14時過ぎ。15時からは参議院議員との演説を駅で行う予定になっているはずだから、忙しそうだった。
 


伊豆市長選挙 開票結果

菊地豊 候補 8425票【当選】
森良雄 候補 1668票(落選)

投票率:43.63%

現職の菊地候補が5回目の当選を果たした今回の選挙。
投票率はというと、前回から-16.38ポイント下回った。
今回の伊豆市長選挙で、伊豆市は「親子で期日前投票に行こうキャンペーン」と称して期日前投票所に来た選挙権を持たない未成年の子供にわさびの消しゴムをプレゼントする企画を行っていたり(伊豆市の名産に本わさびがあり、それにちなんでいるようだ。)、投票推進動画を作ったりして若者の政治参加意識や投票率向上のためのキャンペーンを行っていた。
だが、有権者の半数以上が投票をしなかった。

選挙が終わり、森候補に今回の投票率についてきくと、「街頭演説で訴えたが、残念です」と落胆しているようだった。だが、「10月の選挙で議員になって、伊豆市のために働くことも考えている」と明るい声で語り、10月に予定されている伊豆市議会議員選挙出馬への意欲を聞かせてくれた。


どんなに無関心な人がいても、一方では、その勢いにのまれず政治を動かしていこうと志す人たちがいる。そんな人たちと会い、声に耳を傾ける、私たち有権者がそうした姿勢を保ち続けることが民主主義を支えるのかもしれない。

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