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新聞9紙 読み比べ -れいわ・山本議員が入管法採決時「暴力の疑い」

 今国会での注目法案の一つ、入管法改定案が8日参議院法務委員会で可決された。可決の際、れいわ新選組代表の山本太郎議員が「暴力行為」をした疑惑が上がり、懲罰動議が提出された。今回はその出来事を中心に各紙の「入管法改定案」の報じ方を読み比べてみる。

 読み比べをしたのは、2023年6月9日の朝日新聞、産経新聞、静岡新聞、東京新聞、日経新聞、毎日新聞、読売新聞、スポーツニッポン、日刊スポーツの計9紙。

着目点は…

 今回、私が着目した比較ポイントは
・山本議員の行為を報じているか
・山本議員の事案を受けて懲罰動議が提出される見通しだが、その動議を提出する主語を誰(どの党)としているか
・当事案に対する山本議員のコメントを載せているか

・何面に入管法の記事を載せているか、またどのくらい紙幅を割いているか
・可決の際の騒動の様子を報じたか

9紙読み比べ

日経新聞
 日経は4面で「入管法案、きょう成立へ「準難民」受け入れ創設」という見出し。可決に対し「立憲民主党や共産党が反対した」と書いたものの、議場で騒動があったことは報じなかった。山本議員に関する記述もなかった。

毎日新聞
 毎日は5面で「れいわ山本氏の懲罰動議提出へ 入管法案採決時「暴力」」という見出し。けがをしたのは「近くにいた自民議員ら」で、山本議員に対し「立憲民主党などと共に懲罰動議を提出する調整をしている。」と報じた。参議院法務委員会筆頭理事の福岡資麿議員の批判コメント・山本議員の街頭演説でのコメントも併せて載せた。
 入管法に関しての記事は前述した5面の他に、21面にも載せられていた。
 21面では「改正入管法 きょう成立「審議続行すべきだ」紛糾 参院法務委可決」の見出しで「採決を行う際には、立憲の議員らが―中略―抗議し、委員会室は怒号が飛び交った」という様子を伝えた。また、国会前に集まった人々の声や、「保管的保護」に関する制度を取り上げて報じていた。


産経新聞
 産経は2面で「改正入管法、きょう成立 参院委可決」の見出し。採決の際、「立憲民主党、共産党は反対し-中略-杉久武委員長(公明党)に詰め寄るなど強く抗議した」ことを伝えた。
 5面には関連記事として「入管法案採決時 2議員にけが れいわ山本氏 懲罰動議へ」と見出しを打った。「自民や立憲民主党などは-中略-懲罰動議を9日にも提出する方向」であること、福岡議員の批判コメントを報じた。「負傷したのは自民党の若林洋平、永井学両参院議員」だと9紙の中で唯一、2名の名前を出していた。

読売新聞
 読売は4面で「与党、防衛財源法案に全力 国会最終盤 立民、徹底抗戦の構え」という見出しで、入管・LGBT・防衛財源の3案を中心とした国会での与野党の対立・攻防を報じていた。
 その中で、「入管難民法改正案の採決で立民議員らが杉久武委員長(公明党)を取り囲」んだこと、山本議員が自民党議員にけがをさせた疑いがあることを書いた。懲罰動議の提出に関しては、主語を「自民党などは」とし、立憲民主党などの野党も共同で提出することは伝えなかった。
 読売は同日、夕刊3面で「入管法改正案 成立へ 難民申請3回 送還可能に」との見出しで、入管法の採決、野党の問責決議で(採決の)日程が「ずれ込んだ」ことを報じた。

朝日新聞
 朝日は1面で「入管法改正案 成立へ」という見出しで「採決の際、委員長席に詰め寄った野党議員が与党議員ともみ合いになるなど、一時騒然とした。」と採決の混乱は伝えたが山本議員の名前は出さず、懲罰動議が提出される見込みがあることも報じなかった。
 朝日は3面でも「怒号の中 不安置き去り 入管法改正案 難民認定は 運用は」という見出しで、改正案の問題点、参与員や入管職員の疑義を列挙し、名古屋入管で亡くなったウィシュマさんの遺族や、難民認定を求める人の声も伝えていた。

東京新聞
 東京新聞は1面「改正入管法 きょう成立 参院委可決 反対派集まり騒然」の見出しで「立憲民主党、共産党は反対し「強行採決だ」と批判-中略-杉久武委員長(公明党)に詰め寄るなど、強く抗議した。」と委員会での混乱を報じた。
 その後、3面でも「疑惑応えず 強制送還強化」と大きく報じ、入管庁側が不公平な配分で参与員に審査を割り振っていたこと、酒に酔った状態で外国人収容者を診察していた医師がいたことを、2021年に名古屋入管で死亡したウィシュマさんの遺族や、難民申請を続けるも不認定になっているクルド人男性の声と共に伝えた。
 さらに21面の「こちら特報部」というコンテンツでも「本音のコラム 「死のビザ」の国」という見出しで入管法を取り上げていた。
 9紙の中でも、入管法に多く紙面を割いていた東京新聞だが、山本議員の行為には触れなかった。

静岡新聞
 静岡新聞は2面で「改正入管法 きょう成立 参院委可決、立共抗議」の見出しで「「強行採決だ」と批判-中略-杉久武委員長(公明党)に詰め寄るなど強く抗議した」と報じた。法案の概要を書いた後、「山本太郎氏「暴力」自民が懲罰提出へ 入管法採決時」という小見出しで「自民議員らがけがをしたと訴えた」ことや「立憲民主党などと共に懲罰動議を提出する方向」であること、福岡議員の批判コメントなどを載せた。

スポーツニッポン
 スポニチは17面で「れいわ山本代表 国会で暴力行為 自民議員が訴え」という見出しで法務委での出来事を報じた。(自民党は)「立憲民主党などと共に懲罰動議を提出する方向で」と続け、山本議員に対する福岡議員の批判コメント、山本代表が千葉県での街頭演説で当事案に対し「申し訳ないという気持ちはある」と話したことを載せた。

日刊スポーツ
 日スポは17面で「山本太郎氏に今日にも懲罰動議」という見出し。「自民党の若林洋平参院議員ら複数人に、けがを負わせた」とけがを訴えた議員の名前を出し報じた。山本議員と同じれいわ新選組の議員である櫛渕万里衆院議員が(5月18日の本会議でプラカードを掲げ議事の進行を妨げたとして、)懲罰処分になったことにも合わせて触れ、可決の際「立憲民主党や共産党などは-中略-採決に反発し」て議場が騒然となったことを伝えて締めた。

読み比べ まとめ

まとめると、こんなかんじになる。

9紙 読み比べ

 日経は入管法可決のニュース自体に関心が薄いのか、山本議員の行為を伝えたかどうかということ以前に、採決の際の混乱にもふれていなかった。また、朝日・東京新聞は、紙面の多くを入管法に割いていたが、山本議員の行為については触れなかった。(東京新聞ウェブでは「れいわ山本代表の懲罰動議提出へ 入管難民法採決時に「暴力」」という共同通信の記事が載せられていた。)
 懲罰動議は自民、公明、立憲民主、日本維新の会、国民民主の5党により提出されたが、ほとんどの紙は、「自民党と立民など」という主語で動議の提出を報じていた。与野党の対立を強く打ち出していた読売は「自民など」という主語を使い「立民」を動議提出の主語に置かなかった。
 当該行為に対する与野党議員の批判のコメントは各紙で見られたが、山本議員本人のコメントを載せていたのは毎日とスポニチのみだった。また、けがを訴えた議員二人の名前を明示していたのは産経の1紙のみだった。

「強行採決」

 今回、横山法務委委員長の職権で委員会が開かれ採決が行われたことから、この採決を「強行採決」と報じるメディアもあった。
 「強行採決」といえば、すぐ頭に思い浮かぶのは2015年の安保関連法案。同年5月15日に衆議院に提出され、9月19日に可決した法案だ。
 あの時の映像を見返してみると、野党の議員らがプラカードを手に「反対!反対!」とシュプレヒコールが起こり、採決のときは多くの議員が議長席に詰めかけ、もみ合いになっていた。
「委員長の席の付近ではとっつかみ合いが始まり、ガラスの割れる音もしました」というレポート(怒号と乱闘・・・安保関連法案、ついに委員会で可決(15/09/17) もあったように、今回の法務委員会での騒ぎよりも混乱は大きかった。
 だが、国会議事録で「懲罰委員会」と絞り込み検索をしてみて出てきたのは、2015年2月17日の委員会だけ。(その会の案件は理事の互選だった。) 
 朝日新聞クロスサーチや、日経テレコンといった記事検索サービスで「懲罰」と検索しても、2015年に国会議員が懲罰委員会に付された、懲罰を受けたという記事はなかった。
 

そもそも、入管法改定案は…

 今回提出された入管法は、そもそもの立法根拠が揺らいでいること、国連から注意勧告を受けたにも関わらず、それに相反し2021年に廃案になった法案をほとんどそのまま再提出したものだということなど様々な問題を孕んでいる。
 法案が成立すれば、入管施設に収容されている人々への「制圧」が合法化されるなど、ますます人権が軽んじられ、命を落とす人々が更に出てきてしまう危険があることは識者、一部メディアやジャーナリストらにより伝えられている。

 だからこそ、採決のときに野党議員らが委員長に詰め寄るなどして騒動になった。
 山本議員の行為は、そうした中でなされたものだったと考えられる。

暴力の「疑い」

 山本議員の委員会での挙動は、「暴力の疑い」として(9日の新聞では)報じられていた。
 暴力の「疑い」ということは、一見して暴力だと断定できないため「疑い」と報じられたと考えられる。
 では、山本議員の行為は「暴力」だったのだろうか。

 そもそも「暴力」とは何を指すのか、辞書で引いてみる。

暴力-「乱暴な力。無法な腕力」
と書かれている。「乱暴」というのをさらに引いてみると
「あらあらしくふるまうこと。あばれること。」(新選国語辞典第9版)
とある。

さらに、別の辞書をみると、

暴力-「乱暴な力。無法な力。なぐる・けるなど、相手の身体に害をおよぼすような不当な力や行為。」
「乱暴」は
「①荒々しい振舞をすること。無法な振舞。②粗雑であるさま。」(広辞苑第7版)

暴力-「相手の身体に危害や苦痛を与える乱暴な力。また、その力を使う無法な行為。」
「乱暴」は
「①他人に対して荒々しく振る舞うこと。またその行為。②丁寧さや細やかな心配りを欠いた言動をすること。荒っぽく雑であること。」(明鏡国語辞典第二版)

暴力-「たいした理由も無いのに人を殴ったり、反対意見をおおぜいのちからで抑圧したりするような乱暴な行為。」
「乱暴な」は
「①物の扱いなどに心配りが見られず、粗雑(力任せ)に何かをする様子だ。②どんな結果になるか(他人がそれをどう思うか)などを考えもしないで思うままの言動をする様子だ。」(新明解国語辞典第七版)

と定義されていた。

 山本議員の映像を見ると、「あらあらしくふるま」っている印象を私は受けたから、新選国語辞典によると山本議員の行為は暴力だ。
 「自民党の国会議員2人が打撲のけがをするなどし」たという続報も出ていた(【速報】れいわ・山本太郎代表の懲罰動議提出 入管法改正案採決時などで議員らにけがさせる|TBS NEWS DIG)から、相手の身体に害を与えており、やはり暴力だということになる。

 だが、新明解国語辞典は「大した理由も無いのに」という条件付きで「殴ること」を暴力と定義している。
 9日の記者団の取材で山本議員は、(入管法改定案は)「打撲どころではすまない命を失うという危険性がある立法なんです。体を張ってでも止めなきゃいけない」と話していた。つまり山本議員には、その行為に及ぶ「大した理由」があった。
 また、行為に及んだのは山本議員一人で「おおぜい」ではなかったから、新明解国語辞典(を私が解釈したところ)によると、山本議員の行為は暴力ではないことにもなる。

政治によって壊されたものは、政治によって取り戻す

 山本議員は2022年7月8日、安倍晋三(元)首相銃撃事件が起こった日の取材で「政治への不満を言論ではなくて暴力で解決しようとおもっている方がいるかもしれない。そういった方々に声をかけるとしたら、どんな言葉をかけるか」という記者の質問に対しこう答えていた。

「希望は捨てないでほしい。政治によって壊された様々なものは政治によって取り戻すしかない。」「時間かかりますね」
「ちょっとずつ、ましな状態にしていく作業に入っていかなきゃならない。そこを待てない人たちもたくさんいる。だけど、その人たちの力がないと変えていけない。私たちがその人たちの希望になりたい。」

(安倍晋三元首相銃撃事件の報をうけて/れいわ新選組 山本太郎代表 囲み取材)

 山本議員は1年前の自分の発言を見返したら、「体を張ってでも」という発言を翻すだろうか。それとも、再度同じような発言をするだろうか。


 山本議員への懲罰動議の動向には引き続き注目していくと同時に、入管法のニュースにもしっかり目を配っていきたい。新聞各社には、法案が成立したところで報道をやめるのではなく、問題があるのならば変わらず継続的に私たちに伝え続けることをお願いしたい。

 この記事を読んで実際の記事を読みたいと思った方は、近所の図書館などに行くと各紙の記事が読めると思います。ウェブ版の記事も各社出しているので、それらを読み比べて自分なりに考察してみるのはいかがでしょうか。


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