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#MeToo前夜を描いた映画「SHE SAID」は、私の物語でもある

2023年に公開された映画「SHE SAID その名を暴け」をみた。心が乱される、震える、どんな表現が正しいかわからないが、とにかく心が動かされた作品に出会ったので書き記しておきたい。


SHE SAIDのあらすじ(ネタバレなし)

この映画のあらすじは、アメリカから日がついた #MeToo運動の火付役となったハリウッドの性加害事件の告発までの流れを描いた作品。

映画プロデューサーのハーベイ・ワインスタインによる性的暴行を告発した2人の女性記者による回顧録を基に映画化した社会派ドラマ。

ニューヨーク・タイムズ紙の記者ミーガン・トゥーイーとジョディ・カンターは、大物映画プロデューサーのワインスタインが数十年にわたって続けてきた性的暴行について取材を始めるが、ワインスタインがこれまで何度も記事をもみ消してきたことを知る。被害女性の多くは示談に応じており、証言すれば訴えられるという恐怖や当時のトラウマによって声を上げられずにいた。問題の本質が業界の隠蔽体質にあると気づいた記者たちは、取材対象から拒否され、ワインスタイン側からの妨害を受けながらも、真実を追い求めて奔走する。

「プロミシング・ヤング・ウーマン」のキャリー・マリガンと「ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ」のゾーイ・カザンが2人の主人公を演じる。「アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド」のマリア・シュラーダーが監督を務め、ブラッド・ピットが製作総指揮を手がけた。

Eiga.com

印象的だったのは、この告発記事を主導した二人がワーキングマザーであること。生まれたての幼児を抱えるミーガン(キャリー・マリガン)と二児の母であるジョディ(ゾーイ・カザン)は、夫や子供の協力を得ながら、時にはホームタウンを離れた出張をこなし、休日、深夜にかかってくる関係者との連絡を絶対に逃すまいと繋ぎ、時には深夜残業をこなす。

ワーキングマザーとしての苦悩、ハードワークとの現実、産後うつや「母親」と「記者」という二つのアイデンティティの間で揺れ動く二人の表現も見事であった。

(C)Universal Studios. All Rights Reserved.

ワーキングマザーとして、二人に感情移入せずに見ることはできなかった。それくらいに自分ごとに思えるような丁寧な描写もこの映画の特徴だろう。

「SHE SAID」は私の物語でもある

なぜこの映画にこんなに心が揺さぶられたのか、それは私の原体験によるところが大きい。

もう10年以上も前の話になるが、パワハラ・セクハラの当事者だった。

当時入社した新入社員として入社した会社のメンターがひどく偏った思考の持ち主であり、「自分の部下を愛弟子として育てたい」と強く思いすぎるがあまり、成長を期待しての強い叱責や、エスカレートしてセクハラへと発展していった。(その当時所属していた会社はすでに吸収・合併によりもう存在しません)

明け方3時まで、自宅近くのバス停で一方的に叱責される。
ミスをしたら、会議室に呼び出し一時間を超えての説教。
「お客さんの前で自分を褒めなかった」と理不尽な理由で泣くまで怒鳴る。
泣くと「女の武器を利用するな」と逆上。

そして、弟子を手に入れたいという気持ちが強くなったのか、タクシーなどの密室で体を触られたり、強制的な同意のもとで、真っ暗闇のバーに連れていかれて、体の関係を迫られたこともあった。

その期間は約1年続いた。毎日家で泣くほど怖かった。
一度心が壊れてしまい、夜通し涙が止まらなくなったこともあった。こんな日々があっても私は声をあげることができなった。

それは「新入社員の私が今、告発をしたら仕事を失うのではないか」という恐怖、そして他の事案を告発した結果、別の理由で解雇された女性社員を見たからだった。

実はこの辛い期間の間、一度男性の先輩に状況を相談したことがあった。その時に「この状況は仕方のないこと。耐えるしかない」といった趣旨の発言をされて、私の心の中で完全に「耐えるしかない」と決めつけてしまった。

そしてその彼は退職をした。その時に私は口止め料を渡され「訴えたら弁護士が徹底的にあなたを潰す」と脅された。(口止め料はお断りした)
心の大きな傷を背負い、その後一緒に働くことになった仲間に救われることになったのだが、頭に10円はげが二つできていた。


性加害の残酷な現実


この映画の中では、実際に映画プロデューサーの被害の実態を、涙ながらに語る女性の姿が描かれている。「なぜその時に声をあげなかったのか?」「すぐに警察に行かなかったあなたのせい」と非難された、というシーンで思わず涙が出た。

「どうして相談しなかったの?」これは残酷な言葉だ。なぜなら声をあげることへの恐怖、勇気はものすごいエネルギーが必要なのだ。それがわかっているがゆえに、被害者が非難される状況が、なんとも辛いものであった。

最近ではTBS元記者から性加害を受けた伊藤詩織さんのケースが頭に浮かぶだろう。 彼女の勇気のある告発は、私を含め、一度でも被害にあったことがある女性にとって背中を押されたのではないでしょうか。


2019年の犯罪白書によると「性被害にあったことがある」と答えた方はなんと14人に一人。日本の女性で約464万人の方が被害にあっていることがわかる。ただ、実際に警察に被害届が出されるケースは非常に少なく、その実態は掴むことができないだろう。

内閣府の調査によると、女性の14人に1人、男性の100人に1人が、「無理やり性交等を受けた経験がある」と回答しています。 つまり、日本の女性のおよそ464万人、男性のおよそ61万人が被害にあったことがあると推定できます。 一方、2019年の1年間に認知された強制性交等の被害例は1405件。

冤罪なども含まれる可能性があり、実際の被害総数を把握することはできないが、こうした被害にあうと、被害者は自責思考に陥りやすく、「家族にもパートナーに相談できなった」という声も多く聞く。実際、私も家族に相談することができなかった。心に閉じ込めてなんとか蓋をしようとしている人に非難の言葉をどうか浴びせないでほしい。

そして「SHE SAID」はあなたの物語でもある


あなたの身近な人が、実はそうした過去に苦しんでいるかもしれない。

それは女性だけではなく、男性だってありうる。
こうした被害者を少しでも救うために、性加害が行われている現実を知ってほしい。アライになってほしい。そして、「あなたが悪かったのではないか」と絶対に責めないでほしい。

https://www.asahi.com/sdgs/article/15006745 

声を上げられない理由なんていくつでもある。

は自分の経験を身近な人に話したことはあるが、こうして実体験としてせきららに書くのは初めて、だ。ここまで話すことができるまでに10年はかかった。

もしこのnoteをみてくださった方が、少しでもそんな社会を変えたいと願っている方がいれば、ぜひ「SHE SAID」を見てほしい。



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