見出し画像

ドラマ感想文『地面師たち』

「人がゴロゴロ死ぬくらいの大きな山でないとおもしろくありません」
不気味な薄笑いを浮かべながらハリソン山中は、そう呟いた。


数年前、新聞の広告で見かけて読んだこの作品がNetflixで配信されたので観た。

物語が回りはじめて感じたのは、こんなにハードな内容だったっけ?

ドラマの後、再度原作を読んでの感想を書く。



✨️✨️✨️✨️✨️

絶妙のキャスティング

地面師リーダーのハリソン山中に豊川悦司。映画キングダムで将軍麃公 を演じその老獪な演技が記憶に新しいが、今回は更に狡猾且つ残虐極まりないこの人物を見事に具現化してくれた。
冒頭に挙げたシーンが象徴するようにこの作品のドラマ化にあたって、一番の軸がハリソンの極悪非道さ
なのだと思う。

そして主人公、辻本拓海には綾野剛。「ハゲタカ」や「ドクターデスの遺産」で視せたやり手だが脆さを抱える人物の苦悩や葛藤はこの作品にも生かされていてその表情ひとつひとつが胸をつく。

司法書士崩れの後藤にはピエール瀧。灰汁あくの強い関西弁を放つ姿に「よ、お帰り」と叫びたくなった(笑)

情報屋の竹下には北村一樹。粘着性を帯びた悪役には欠かせないキャスティング。

成りすましを手配する麗子に小池栄子。尼僧姿の美しいこと!
そのまま、寂聴さんの役でもやってほしいくらいだ(爆)

残念だったのは偽造を手掛ける長井の人物像が変更されていたこと。
原作での長井は拓海のただひとりの友といえる人物だったが、恐らく映像化にあたっては時間的に描く余裕がなかったのだろう。染谷将太が演じていたが、「空海」や「聖☆お兄さん」の彼独特の味がいまいち生かしきれていなかった。

嵌められる側の青柳にはお人好しのゲイから将軍趙荘まで今やカメレオン俳優の王道をいく山本耕史。孤高の企業戦士の孤独な戦いと追い詰められて行く憐憫さは目が離せない。

更にもう一人の主人公とも言える老刑事にリリー·フランキー。
ハリソン山中の逮捕に刑事人生をかけていたが、志し半ばで定年を迎えることに。
原作ではむしろこの老刑事と拓海との感情の交錯が物語の軸になっていたように思う。が、ドラマではハリソンの無情さが軸となっているので、辰の生きざまの描きかたはドラマのほうが悲惨だ。
現役を退いた後も燻り続けるハリソン逮捕への執着が、悲しい末路へと導く。


原作にはないもう一人のキーパーソンは池田イライザ演じる、新米刑事倉持。
辰の無念を晴らすべくこのキャラクターが作られたのは間違いない。終盤で、拓海の過去とハリソンの関係を暴く役割を担う。
拓海に近づく倉持が全身黒尽くめでバイクを走らす姿はカッコイイ!

✨️✨️✨️✨️✨️✨️✨️

積水ハウスの実在事件がベース


ドラマ化されるまでその事実を知らなかった。
調べてみると、7年前の2017年6月の出来事。
原作が発表されたのは、2019年1月から「小説すばる」にて連載開始。
事件からわずか一年半後のことである。

作者の新庄耕氏は集英社の「青春読書」のインタビューでその緻密な取材の一部始終を明かしている。

事件が話題になった当時、編集者から「これを小説にしてみないか」と誘われたのだそう。事件の真相を調べて行くうちに犯人たちの周到な準備とその人物像に強い興味を持ったという。
まるで、映画を作るようにシナリオを作り役柄を当てはめて行く。
そして小道具にもICチップやモノグラムまで再現する。
それを監督のように指示するボスがいる。
ボスを設定するに当たって、新庄氏はある実在の犯人をモデルにしたという。

ITの進んだ現代に、犯人側のアナログな手口にまんまと騙されてしまった大手企業。その裏には企業内政治の内情と派閥に右往左往する幹部役員たちの取引などが絡み合い、通常ならなんでもない不審点を見逃してしまう。

そんな人間だからこその哀愁と抜かりない地面師たちの手口の鮮やかさを小説にしたかったと新庄氏。


騙す側、騙される側双方がそれぞれの思惑の中で取り引きが進み、時にはもう、終わりかと思わせる臨場感に最後までイッキに観終わってしまった😵💧


『事実は小説より奇なり』
実際に起きた事件の裏には小説よりも切実な理由が隠されているのかもしれない。

そう思いながら、事件がベースの映画をなん本か観て観ることにした。

その感想はまたの機会に。



いいなと思ったら応援しよう!