タンパク質

~畑の肉と言われる所以~ 大豆の貯蔵タンパク質の種類について

前回のブログでは、大豆のタンパク質は「貯蔵タンパク質」と「非貯蔵タンパク質」に分けられると解説し、大豆のタンパク質の大まかな分類について解説した。
ずばり、豆腐の構造の骨格を形成する主成分であり、我々が豆腐を食べたときに栄養分として吸収されるタンパク質成分こそ、「貯蔵タンパク質」である。今日は、自分自身の記憶の定着も兼ねて、大豆の「貯蔵タンパク質」について少し詳細を書いていこうと思う。
文字が多くなってしまうこと、ご容赦いただきたい。

大豆の「貯蔵タンパク質

図1

1970年代の研究で、大豆の貯蔵タンパク質は分子の集合体のサイズに応じて、大まかに、2S、7S、11S、15Sのグロブリンに分類された(Smith, A.K. and Circle, S. J., 大豆タンパク質, 1974)。
まず注意しないといけないのが、この4分類の分け方は厳密には分子の名前を示しているわけではなく、あくまでも分子の集合体のサイズをもとに分類しているだけ(Sというのは、超遠心分析にかけたときの沈降係数)という点である。特に7Sグロブリンの中には何種類かのタンパク質分子が含まれている。

ただ研究者の中では、2Sグロブリンといえばほぼこの分子、11グロブリンといえばほぼこの分子、という共通認識が存在する。おおむね、下記の通りの成分が各グロブリンに含まれていることが報告されている(渡辺篤仁ら,大豆とその加工,1987)。

▼各グロブリンの構成分子(=の右側は免疫学的組成を指す)
2Sグロブリン=α-コングリシニン
7Sグロブリン=β-コングリシニン(現代ではほぼこの意味合い)
11Sグロブリン=グリシニン
15Sグロブリン=固有の成分ではない

大豆タンパク質の呼び方は、基礎研究分野では免疫学的分類による呼び方(β-コングリシニンとかグリシニンとか)、応用分野では、超遠心分析法による呼び方(7Sグロブリンとか11Sグロブリンとか)が主となっているよう。豆腐の研究はやっぱり応用側になるので、7Sグロブリンとか11Sグロブリンとかがよく言われているのだと思う。

大豆のタンパク質はどうやって分離するのか

大豆の貯蔵タンパク質の大まかな4つのグロブリンのうち、主要なグロブリンは「7S」と「11S」である。大豆の種子成分分析や豆腐の製造は、この7S、11Sのグロブリンの構成比を把握していくことが重要になる。

もちろん、大豆のタンパク質はこれらグロブリンがごちゃ混ぜに含まれているので、成分分析をするときはこれら成分を分離することが必要となる。詳細を書くと、難しい名前の化学成分が登場したりするのだが、7Sと11Sを大まかに分離する手法がいくつか存在する。

▼11Sグロブリン(グリシニン)の性質
・超遠心分析から計算された分子量は約35万
・濃厚な溶液として5℃に置いておくと、沈殿する
⇒冷沈現象(Wolf, W. J. et al., Arch. Biochem. Biophys., 1962)
・低イオン強度配下だと、pH6.5で沈殿する
⇒同時分画法(Thanh and Shibasaki, 1976)

▼7Sグロブリン(β-コングリシニン)の性質
・超遠心分析から計算された分子量は約18万
・低イオン強度配下だと、pH4.5で沈殿する
⇒同時分画法(Thanh and Shibasaki, 1976)

このように、7Sグロブリン、11Sグロブリンの間でも沈殿する条件に違いがあるので、比較的に簡単に分類することが可能となった。
この分離法が確立されたのが50年前で、こういった技術がなければ今の大豆育種もなかったと思うし、7Sや11Sの比率が豆腐製造に与える影響の研究などもなかったのだと思う。

まとめ

濃い豆乳を冷蔵庫で3日間くらい置いておくと豆乳が固まることがある。これは、悪くなったとかではなく、純粋に11Sタンパク質の沈殿性質だったようである。
過去の研究で明らかになったことが現代まで繋がっているのが科学の面白さだなあと、改めて思う。
(30週目終わり)

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