彼女がスイスで尊厳死するまで(6)
ロイクラトン
タイには秋になるとロイクラトンと呼ばれるお祭りがあります。
恵みに感謝したり、イヤな事を流したりするために河岸に集まって灯篭を流します。
満月の日に行われるから、日本で言うところのお月見みたいなものか???と思ったら、ロイクラトンは11月なので中秋の名月とは時期が違います。タイ政府観光庁に詳しく説明があります。
川面に灯篭を浮かべる雰囲気は精霊流しみたいだけど、亡くなった方を偲ぶとかではない。
チャオプラヤー(地理の時間ではメナム川と習った)まで知人に連れてきてもらった二人はもちろん初体験。騒々しいなかを川に向かって歩いていく道には灯篭売りなどの出店が連なっていて、まさにお祭りムード。ホントにタイ人ってお祭りが好きです。あっ、日本人も同じですね。
彼女が車椅子でどうして良いのか戸惑っていると、タイ人から「お願い事をするのもOKですよ」と教えられた。川に感謝するだけでなく、イヤな事を水に流したり、お願いまで出来るらしい。なんとなくタイっぽいなと彼は思った。
「来年も来れるかな」と彼女。「大丈夫だよ。来れるよ。」と彼。ゆっくりと流されていくクラトンを二人はずっと見ていました。
誕生日
12月は彼女の誕生日だ。彼は数日前から準備に忙しそうだった。ホームヘルパーさんに相談して当日までパーティについては彼女には内緒にしていおいた。わざわざ日本から来てくれた友人もいた。みんな口には出さないけど今年が最後かも知れないと感じているのだ。
部屋から近いところにあるステーキハウスは彼が予約した。ちょうど彼女の実姉もバンコクに遊びに来ているところだったので結構な人数になった。
そんなに期待をしていたレストランではないけれど、テーブル前で料理をサーブしてくれたりサービスの良いお店だった。お腹にはちょっと物足りないなと思ってたところ、お友達がお店と一緒にバースデーケーキを用意していて楽しい宴になった。彼女はこの年に50歳になった。
チャアム
バンコク近郊のリゾートとして有名なホアヒンの近くにチャアムと言う漁村があって、いまでは開発がそこそこ進んでホアヒンから続くリゾート地になっている。それでも、二人とも派手派手なパタヤよりも落ち着いているホアヒン界隈が好きだった。
お正月を部屋で過ごした二人は閑で仕方がない。とは言え、遠出するのは億劫なのだけど、タイの12~1月は涼しい乾季なので旅行するには最高の季節なのだ。初めてタイで迎えた新年は日本と違い、タイは1月2日から通常運転になっている。一方、日本はまだ正月休みなので変なギャップが生まれてしまうのだ。
と言うワケでチャアムに出かける事にした。二人が暇なのと同じようにホテルも暇だったようで、どこのホテルもディスカウントされている。予約した小さなリゾートホテルは、規模の割には広いビーチが目の前の拡がっていて居心地は最高だった。二人は少し寒い海に入ったり日光浴をしたり、のんびりと過ごした。
手を繋ぐと彼女はビーチを歩く事もできるし、彼の背中につかまって海に入る事もできる。もしかしてタイに来て病気の進行が遅くなっているのではないかな?と彼は思った。
治してくれとは言わない、せめて一緒に暮らせる時間が少しでも長くなればと願っていた。
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