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【考察】己等乃麻知比売命(ことのまちひめのみこと)の謎を解く・その2の3父・玉主命九頭竜考察

静岡県掛川市にある事任(ことのまま)八幡宮。
地元のパワースポットとして大人気の事任八幡宮(ことのままはちまんぐう)。
「言葉のまま願いが叶う」として、県外からも多くの人が訪れ、大変人気の神社です。
しかし、その御祭神である己等乃麻知比売命(ことのまちひめのみこと)
(以下、ことのまち姫)は、古事記や日本書紀、その他文献にも登場しないという、かなーり謎の女神様なのです。

というわけで、このことのまち姫の謎を解くシリーズ。
姫の父親、玉主命(たまぬしのみこと)、まだつづきます。

その1 ことのまち姫「まずは基本情報から」https://note.com/kagurakanae/n/n19f1557c05fd

その2の1 父・玉主命。
https://note.com/kagurakanae/n/nc6b35f436c79

その2の2  父・玉主命から九頭竜へ
https://note.com/kagurakanae/n/n402f72897fc4


九頭竜考察

ことのまち姫の父、玉主命は別名が多くあるのですが、前回、その一つ「天石門別安国玉命(あめのいわとわけやすくにたまのみこと)(長いっすね^^;)」から、また新たな名前が出てきました。

大伴氏の系譜「古屋家家譜」より

『天石門別安国玉命は、大国栖玉命(九頭大明神)

「国栖 (クズ)」、「九頭竜」が出てきました。 

九頭竜は 「戸隠神社」にも「九頭竜社」があります。
もともと玉主命は「天手力雄命(タヂカラオ)」でもあると言われているので、やはり関係はありそうです。

九頭竜は戸隠に住んでいたとか、そのほか、加賀の白山にも九頭の龍が現れたとの話があったりするのですが、修験道として有名な山々に謂れがあるのが興味深いですね。

(修験道もちょっと注目しているところです)

九頭竜は、その名の通り九頭の頭を持ちますが、蛇神がベース。
龍蛇信仰にもつながります。

和歌山の九頭竜社が「名草戸畔(なくさとべ)」が住んでいた名草山にあるのも気になります。名草戸畔は女性が首領の一族で、日本書紀に一瞬だけ現れます。なんらかの関係性がありそうですね。(今回は深掘りませんけど。)

「九頭竜」のキーワードから、ふと、箱根の九頭竜神社が頭に浮かんだので調べてみたのですが、 箱根神社での扱いは「毒龍」とされており、箱根大神に調伏されたとあるので、あまりいい立場ではなかったのでしょうか。
でも九頭竜の大きな存在感は箱根でも伺えますね。

磐排別神(いわおしわくのかみ)


視点を紀伊半島へ戻して。
紀ノ川流域の九頭神系の神社で多く祀られる、「磐排別神(いわおしわくのかみ)」に注目してみたいと思います。

この「磐排別神」は大和国吉野の山中で岩を押し開き、現れたとされる神様で、国樔(くず、国栖)の祖であると言われ、吉野首(吉野連)の祖でもあると言います。

岩を動かせる神!
といえば、やはり、天岩戸でアマテラスを岩屋から引っ張り出した天手力男(タヂカラオ)が思い浮かびます。

「磐排別神」が古事記でも出てくるクズの祖であるということは、やはりことまち姫の父は、大和国吉野で「国栖(くず)」として大きな勢力を持っていた人物の可能性が出てきます。

クズ=九頭=葛神=国津
これらの名前が出てくるのは九州北部から東国まで渡り、福井市には九頭竜川があったり、また戸隠にも九頭龍伝説があったり。
「岩」のキーワードと別に、水神の権化として崇敬されているようです。
さらに、時に雷神としても描かれるクズの神。
中世以前に戸隠山の主である「九頭竜」は、たちまち豪雨を呼ぶ力を持つ。

雷は稲を実らせると信じられてきた古代。
(しめ縄は雲と雨、雷を表しているとも言われるからね)
畏れと共に、実りをもたらす存在として崇められていたのですかね。
まあそこまでいくと、現実感のある人物からは遠ざかりますが。

九頭竜、土蜘蛛、国巣、
蛇、水神、高オカミ尊、
磐排別神、手力雄
岩を動かす力、水神

キーワードが増えていきます。

星神天背男=アメノカカセオ説

この「玉主命」さん、調べていくとさらに追い打ちをかけるように、まだキーワードが増えていきます。
今度はこちら。
調べていたら、『安房国忌部家系』にことのまち姫の名前がありました。
(他の方のブログを読むと彼女について触れている方は少ないのですが……)
そこから遡ってみると、父の名前がまた違います。

天背男命(あめのせおのみこと)別名、「天岩戸別命」またいわく「明日名門命」「后神八倉姫命」

ことのまちの命……天児屋命(アメノコヤネ)の母なり

『安房国忌部家系』国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2538213/1/55

天背男命(あめのせおのみこと)!!
また新たな名前です。でも「天岩戸別命」(アメノイワトワク)の別名があるとも書かれているので、やはり同一人物でしょう。

また、この家系図でのことまち姫の兄弟がすごい。

  • 天日鷲翔矢命(阿波忌部氏の祖)

  • 天比理乃咩命(天太玉の奥さん)

  • 天津羽々命(あまつはは・天御梶比女命、八重事代主の奥さん)

  • 天萬栲幡千幡姫 (たくはたちぢ姫・天児屋命の后)(日本書紀ではオシホミミと結婚し、天火明命と瓊瓊杵尊を産んだとする)

  • 櫛明玉命(くしあかるたま・玉作部の祖)

要は、Big Nameが揃っているというわです。
天津羽々命は、前回も書いた粟ケ岳の阿波姫につながりますが、それはまた別項で。

前回はこちら⬇︎
https://note.com/kagurakanae/n/n402f72897fc4

まあとにかく、ことまち姫の父、玉主命の別名が「天背男」である、というのが今回のキーポイント。

天背男から「天香香背男」=星神へ

さて、その天背男がどんな方か見ていきましょう。

『先代舊事本紀』天神本紀より
「饒速日 (ニギハヤヒ)の天下りに随伴した32人の防衛(ふせぎまもり)の一人。尾張中嶋海部直等の祖。(愛知県稲沢市久多神社に祀られている)」

こちらでは饒速日に従って天下りしているんですね。やはり「ザ・守りの神!」というイメージです。強い男のイメージは健在ですね。

そしてまた別の名前が出てきちゃうのですが、「天香香背男(あめのかがせお)」と同一神だと言われています。
香香(かが)は輝くの意味とされ……ほら、「天◯背男」この◯のところに「輝く」の尊称が入ったってことですね。(詳細書くと長くなるので省きますが、いくつかの系図で判断し「天背男」「天香香背男」は同じと考察しています)

この「香香背男」は日本書紀に出てくると、半端ではない強さを感じる記載があるんですよね。

一説によれば「二神(タケミカヅチとフツヌシ)は、ついに邪神や草木・石の類を誅伐し、皆すでに平定した。唯一従わぬ者は、星の神・カガセオのみとなった。 そこで倭文神 ・タケハヅチを派遣し、服従させた。そして、二神は天に登っていかれた。倭文神、これをシトリガミと読む。」

wikipedia『日本書紀』巻第二 神代下 第九段本文

ある書によれば、天津神はフツヌシとタケミカヅチを派遣し、葦原中国を平定させようとした。 その時、二神は「天に悪い神がいます。名をアマツミカボシ、またの名をアメノカガセオといいます。どうか、まずこの神を誅伐し、その後に降って葦原中国を治めさせていただきたい。」と言った。

wikipedia『日本書紀』巻第二 神代下 第九段一書(2)


武甕槌(たけみかづち)と経津主神(ふつぬし)といえば、鹿島神宮・香取神宮の御祭神。剣の達人でめっさ強い武神です。
この二人が唯一従わせられなかったのが星の神カガセオだというんですね。

屈強の武神二人が唯一従わせられなかったというのは、半端な男ではありません。

そしてこの中に、また別名「天津甕星(あまつみかぼし)」が出てきましたよ。名前が増えますねえ。

この「天香香背男」「天津甕星」は茨城や栃木で多く祀られています。

その香香背男の伝承で有名なのは、茨城県日立市大甕神社の縁起

「倭文神大甕山にて悪神香香背男の変じたる大石を蹴倒しけるに、石四方に裂けて飛び散れり。その一は海中に入り、残りの石のとどまりし所、石神、石塚、石井と称ふ。」

この香香背男が変じたという石が、大甕神社にて「宿魂石」として今も祀られていて、別名「魔王石」とも呼ばれているのだそう。

また「大きな石」が出てきました。それも「魔王石」って^^;

そして、このカガセオ、天津甕星から新たなキーワードが出てきます。(まだ増える)

カガセオ=星の神=妙見信仰

さて、カガセオからまた新たに現れた名前「天津甕星(あまつみかぼし)」。
wikipediaで、「天津甕星」を調べるとこんな一説が出てきます。

全国の星神社や星宮神社では、天御中主神、磐裂神、根裂神、経津主神を祀っているが、愛知県名古屋市の星神社、星宮社など一部は天津甕星を祭神としている。

中略

葦原中国平定に最後まで抵抗した神ということで建御名方神と同一神とされることもあり、また、神仏習合の発想では北極星を神格化した妙見菩薩の化身とされることもある。

wikipedia


ツッコミどころ満載ですが。
・天御中主神→この世の根源とされる神。
・磐裂神、根裂神→これはもう、「岩を裂く」はタヂカラオに通じます
・天津甕星→この神様は上の項目の通り。
・タケミナカタについては、ちょっと今は疑問符です。

そして「北極星を神格化した妙見菩薩の化身」とされると……。

妙見信仰は、北極星や北斗七星を神格化している信仰です。

で、この一説に出てくる名古屋市西区上小田井にある星神社に関して調べていたところ、
こちらのブログで気になったのが神紋でした。
https://fuhgetsu.hatenablog.com/entry/2023/08/08/001416

主祭神は大己貴命。そこに、「天香香背男、牽牛、織女」が祀られているのだそう。この星神社の御神紋がななつ星の「七曜紋」。

七曜紋

こちらの宮司さんのお話では

神紋が七曜紋で、三つ星紋はこの星祭を現している。
表向きの七夕の絵には牽牛星織女星の二人が描かれてるだけだけど、本当はこの真ん中にもう一人カミさまがいて、それが天香香男神だと。

https://hoshijinjya.com/

妙見信仰の神紋は月や星を表すモチーフを使うみたいですね。

「北極星が信仰の対象」といえば、北極星を頼りに海を渡っていた海の一族が思い浮かびます。この辺りはまた別で検証したいところ。

で、これが後の後の後くらいで平将門につながってきます。(なんでここで平将門?と思われるでしょうが、私はこの話をここまで持っていきたいのです笑)

えー、次の回で、一度ことまち姫の父についてまとめます。
(でもまたさらに新説が見つかってしまった……やいやい)

次回まとめます。
ええ、まとめますとも。

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