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野村萬斎/釣狐

さる2024年10月12日 観世会館においてひらかれた「釣狐x野村萬斎」に行ってまいりました。

番組は
舞囃子(金剛流)安宅 金剛龍謹
樋の酒 太郎冠者 野村万作
釣狐 白蔵主/狐 野村萬斎 猟師 野村太一郎 後見 野村万作・野村裕基

    ☆
「安宅」というお話は、「安宅の関での義経一行エピソード」という創作エピソードで、のちの文学に影響を与えただけでなく、歌舞伎や演劇で今でもよく用いられるものです。
一行が安宅の関を越えようとした際、関をつかさどっていた富樫にあやしまれ、弁慶が「お前のせいで!お前のせいで!」と義経をどつきまわし、事情を察した富樫が「まあええから通りよし」と通過させるもの。

金剛流若宗家は低めのよく通るお声で、存在感とともにwebスラングでいうところの「カコヨ」でおられます。大変「カコヨ」でございます。
2024年釣狐x萬斎の初めを飾る舞囃子として重厚感のあるものでございました。

                ☆
「樋の酒」 のんべぇの太郎冠者・次郎冠者が亭主の留守になんとかして酒をいただこうと工夫をするお話。野村万作氏がなんとも愛嬌のある太郎冠者を演じます。隙あらば飲む、見咎められてもちょいと飲む、その酒への執着心をあらわす仕草がなんともかわいらしくて、見所からクスクスと笑いが漏れます。野村万作氏や山本東次郎先生といった超重鎮クラスの狂言師ってなんてかわいらしいのだろう、と思います。あくまでも舞台上での話で、実際はおおらかさと厳しさが伴っている方でしょうけれど。
この場合のかわいらしいは、愛嬌があって魅力的、目が離せないといったもの。狂言師が表現すべき本質でもあるかもしれません。

                ☆
「釣狐」 仲間をみんな釣られ(狩られ)てしまった白狐が、なんとか猟師を騙し、狐を釣るのをやめさせようとします。が、猟師はなんとも怪しいと罠をしかけ、やがて狐と猟師の知恵と力のくらべものになり…というお話。
最初の萬斎さんによる狐の鳴き声から異世界へ誘われます。ここではないどこか、時空を超えて大昔のどこかの村、林、山、森、へ観客を導きます。なぜなら人の声ではないから。化けることのできる、白狐の声。ちょっと怖い。
そして太一郎さんが妙にイケメン。いい男であるのはもちろんなんですが、それとこれとは違うなんかすごいイケメンに見えました。理知的な猟師を表現されていたのかと思います。

後半、狐と猟師のたたかいになるのですが、それがもう完全に人でないなにかと(狐ですけど)人間との一騎打ちです。萬斎さん、たまにすごく怖いのですが今回も見事にたった一匹残った狐の恨みと本性(油揚げだいすき)があいまった生き物を演じておられました。
彼の作品に触れれば触れるほど「萬斎先生はほんとうにすごい」と能面の先生が繰り返しておられた言葉が実感されます。
「狂言やるよ~はじまるよ~」とウッキウキで登場されることもあれば、今回のように力ずくで異世界に引き込んできたり。

還暦秒読みなのに、前日は伏見稲荷のてっぺんまでお参りにでかけたり、釣狐では飛び込み前転なさってたり、夜は大阪の薪能に出ておられたり、その体力どこからきますねん…と思いましたが、お父様の万作氏も90才で釣狐で前転されてたからな、と野村家のポテンシャルいかほど、と遠い目になってしまいます。

みなさまのますますのご活躍を。

裕基君のシュバババッもなんかよかったな…

おまけ
そうそう! 配布されたパンフレットによると、当日使用された狐の面は室町期のものを見市泰男先生が手を入れられたものだそう。見市先生、すごいな……もっと近くで見たかったな。10センチほどの距離で見たかったな!!

2024年 釣狐x萬斎 会場配布冊子表紙



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