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おない年の酒、その他
※この記事は投げ銭制です。全文読めます。
健診センターへ出向き、予定していた健診を受けてきた。
前職場にいた頃は、とにかく早く済ませて仕事に戻ろうという会社勤めのひとたちでごったがえしていた。だが今はこういう状況なので、厳密に予約時間が決められていた。そのためかセンター内は驚くほどすいていて、予定していた検査は滞ることなく進んだ。
検査が終わって、受付で採血、採尿の速報結果を受け取る。真っ先に見たのはやはり腎機能だった。クレアチニンの数値に、予想はしていたとはいえやはりうなだれる。もういいや、と封筒にしまいかけた時、ふと別の数値に眉をひそめた。γーGTPの数値も悪化していたのだ。今までこの数値が正常値からはみ出ることはなかったのに。
なんでだ。私には毎日酒を飲む習慣はなく、週末に缶ハイボールかペットボトルの安ワインを一杯半ほど飲むくらいなのに。もはやそれすらこのからだには負担になりつつあるのだろうか。それとも毎日ラムネ菓子のように手に受け、飲み下している薬に耐えきれなくなってきているのか。
いずれにせよ、次の主治医の定期診察までは禁酒しておこうか。こうして徐々にわずかな楽しみさえ削られていくのだな、と、封筒に用紙を突っ込んだ。
帰宅すると、ちょうど昼近くだった。だがそんなものを見てげんなりしたせいか、食欲などまるでない。お椀にインスタントの味噌汁を入れ、湯で溶いたものをひるめし代わりにした。テレビをつけると私の大嫌いな某元知事が出ていたので、慌ててリモコンの電源を落とした。五分で味噌汁を飲み干すと、たまっていた洗濯物を洗濯機に放り込む。
少し書き物をしていると、いつの間にか三時。いまだ腹は減らないが、さすがに経口補水液と白湯だけではまずいだろうと、台所を漁る。棚にカロリーメイトみたいな栄養機能食品が残っていた。だが賞味期限切れ。改めて棚に詰め込まれた品々を見ると、そんなのがいくつか出てきた。
だが多少の賞味期限切れのを食べて腹を壊したことは、幸い今までない。だからこのカロリーメイトもどきもためらいなく封を破った。
ぼりぼりと噛み砕きながら、なにげなくPC内のデータを整理していると、昔、某SNSにあげた日記が出てきた。タイトルは「おない年の酒」。くしくもしばらくやめようとしたばかりの酒の話だった。眺めながら、そういやこんな時期もあった、でもこれからおなじように飲むことはできるだろうか、などと、泡みたいな思いが浮かんでは消えた。
いかにも酒の味がわかるような、穴があったら入りたくなる箇所もあるが、せっかく見つけたので、以下に再録してみる。こんな時代もあったねと、振り返るのもたまにはいいだろう。賞味期限切れの食い物だって、別に食えないわけではないのだから。
※
今日は雑談。
おなじみにさせてもらってるバーで飲むのが、最近のちょっとしたぜいたくです。
Sというバーで、いつもの集まりの二次会の会場として前からおじゃましていました。以前からひとりで来てみたいな、と思っていて、はじめてたずねたのが去年の冬でした。それ以来、すっかりカウンターで飲むことにはまりました。
しっかりした技術で作られたサイドカーやギムレットが、こんなにもおいしいものだとはじめて気付かされました。オリジナルというサルバトーレと名づけられたカクテルは(確かブランデーベース)、甘み、苦み、酸味がからまりあい本当に深い味わいで、私の人生で飲んだお酒の中で一番おいしかったと断言できます。ウイスキーのロックのうまさもここで教わりました。
ここのマスターは独特の雰囲気があります。ちょっと見はこわもてだし、しゃべっても必要以上に愛想をふりまく人でもないです。それもあって来たいと思いつつひとりではいけなかったのです。でも少しずつなじんでくると、いろいろとお話をしてくれます。するめではないですが、かむほどに味わいの出てくる人です。なかなか言葉で説明しづらいですが。
ちょっと前も歴史小説をかなり読んでいることが話題になりました。今気になっているのは「天地人」らしく、大河ドラマはもちろんチェックし、関連本なんかも買っているようです。長谷堂合戦の地図を広げて、かなりテンション高くしゃべっていました。その間、自分用に作ったジントニックをがんがん飲んでました(五杯は飲んでた)。この時はちょうどバレンタインの時で、少し離れた席にいたなじみの女性客からチョコレートをもらってました。
ここのカウンターの一番上には「トマーティン19○○」(○○は西暦)というウイスキーがあります。思いがけず、私とおない年のウイスキーでした。
一杯3500円。この店で文句なしに一番高い酒です。行くたびに気になっていて、ついボトルに目がいっていました。お話によるともうウイスキーとしての常識をこえたおいしさだそうです。完全限定生産。東北では十数本しか割り当てがなかったそうです。私の住む県で置いてあるのはたぶんうちだけ、とのことでした。
注文されることなんてないんだろうなあ、と思っていると、ついに先日、注文されるところを目撃しました。
マスターの手がボトルに伸びたので、思わずおお、とうなってしまいました。当然というべきか、中身はほとんど減っていません。注文された方は五十代のご夫婦で、当然大感激。満足そうに笑みを交わし合いながらゆっくりと嗜み、帰っていきました。
カウンターに戻されるボトルを見ていると、「飲みたくなったでしょ?」とにたり。「いやあ、まだまだ修行がたりないですよ」そういうと、「関係ないですよ。どんな人でも驚く味ですから」とまたにたり。にたりとされてもなあ。ふところもまだまだ修行がたりんのですよ。
(2009年4月23日)
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