マガジンのカバー画像

いのちの削ぎ落とし

46
短編、掌編小説など。
運営しているクリエイター

2019年6月の記事一覧

小説「細い光」

小説「細い光」

 土曜の朝、私は体の痛みに目をさました。

 左半身が布団に沈みこみ、頬にふれると枕の縫い目がついていた。昨夜床についた時も同じ姿勢だった。どうやら一晩中寝返りも打たずに眠っていたようだ。ここ数日、同じような寝覚めをむかえていた。こちらを向いていなければならないと、無意識に思っているのだろうか。

 目の前には、美晴の寝顔があった。

 あおむけになり、軽くこちらに首を曲げて眠っていた。額に汗がう

もっとみる

小説「なにもない日」

 あれ、これって……。

 玄関先の掃除を終えてほうきを物置にかたづけていると、シートがかけられたそれがみえた。
 シートをめくると、車いすがのぞいた。
 私は外にひっぱりだし、広げようとした。しかしさびついていてなかなか広がらない。体重をかけてシート部分を押し込んだ。お年寄りが乗る自転車のような甲高い音がして、ようやく車いすは広がった。
「なにしてんの」
 後ろからあくびまじりの声がした。妹がや

もっとみる