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バスケットを学ぼう!
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いいよいよ来年は国体・障スポYear!!
県協会公式LINE開設を機に、2023の成功、そしてその先に続く鹿児島のバスケットボールの未来に繋がるように、様々な企画を準備いたします。
第一弾はあのレジェンドコーチ長谷川健志氏に訊く「あなたにとって、忘れられない戦いとは?」。
是非、ご一読ください。 国体成年男子監督 宮迫 崇文
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第1回ゲスト 長谷川健志さん
ライター 政純一郎
Q.「忘れられないゲームは何ですか?」
A. 「2013 オールジャパン vs レバンガ北海道 戦」
原点は「格上とされる外国籍のいる相手に
日本人だけで勝ちたい!」
バスケットボールは実に奥深い。勝ち方に「正解」はなく、「番狂わせ」が起きにくいとされながらもその可能性はゼロではないから、指導者も選手も高い壁に挑もうとする。
今回の企画では、鹿児島教員クラブ、レノヴァ鹿児島、鹿児島レブナイズなどで長年ヘッドコーチ(HC)を経験し、自称「Bリーグで最も負けたHC」鮫島俊秀氏がバスケット界の様々なプロフェッショナルと対談する。いかにして勝つのか、いかにして人を育てていくのか…達人たちの様々な「極意」を記録する。
第1回のゲストは長年、青山学院大を率いて、男子日本代表HCも経験し、鹿児島の国体チームのスーパーアドバイザーでもある長谷川氏に話を聞いた。
鮫島 本日はよろしくお願いします。まずは「コーチ・長谷川」の長年の経験の中で忘れられない勝負がありますか?
長谷川 一番忘れられないのは2013年のオールジャパンで青山学院大がレバンガ北海道に完勝した試合です。日本人の大学生だけで、外国籍選手のいる旧JBL、NBLのチームを倒して一矢報いたいというのが長年の理想だったからです。
09年にはオールジャパンでレバンガと対戦し、大接戦を演じました。残り1分半まで勝っていたのですが、うちのビッグマンの荒尾岳が5ファールで退場し、最後は5点差で惜敗でした。
10年はトヨタを相手に最終的には15点差ぐらいつきましたが、前半4、5点差で食らいつきました。11年はまたレバンガと第3クオーターまで接戦し、最後の最後で10点離された。翌12年はアイシンと対戦。前半4点差をつけました。先にタイムアウトを取ったのはアイシンでした。桜木ジェイアールらがいた時代です。最後は20点差ぐらいつきましたが。
オールジャパンで4年間、良い試合をやってきて5年目であり、3回目のレバンガ戦だったので絶対に勝ちたいと高いモチベーションがありました。
あの時は比江島慎らがいた時代でインカレ2位でした。インカレの決勝戦以外は負けたことがなかった。インカレは東海大と対戦し、それまでどんな劣勢でも勝っていたからどこか我々の中にも緩みがあったと思います。エース比江島がやってきた4年間の集大成となるオールジャパンでした。勝ちたいという想いが強く、それが叶った試合でした。
鮫島 3つに分けて伺います。
我々もレブナイズのルーツ鹿児島教員クラブ時代に、当時の最高峰日本リーグ(JBL)のチームがやってきたときに、主観で申し訳ないですが一生懸命に見えなかったことがあります。「見るに値しない(と思った)。勝ちたい!」と仲間たちと誓い合ったのが、当時のJBLと戦うことができる唯一の夢舞台オールジャパンへの挑戦のきっかけでした。
まずは長谷川さんのモチベーションも「外国籍のいる格上とされるところに日本人だけの鍛え抜いたもので勝ちたい!」が一番ですか?
長谷川 その通りです!
鮫島 2点目、オールジャパンで格上チームに挑んでいた5年間は、戦術、戦略的なものは首尾一貫していたのですか?
長谷川 一貫していました。大事なのは外国籍選手がいるチームと同じことをやっても勝てない。彼らがやらないことをこっちがやらないかぎりは覆すことはできない。その代わり大差がついて負ける可能性もある。
バスケットの1人1人の力は相手の方が上。試合の中で強いところと弱いところがあれば、必ずターンオーバー(TO)が起こる。どこで起こるかといえばボールを持っている選手のところなんです。ボールマンが困らなければ、プレッシャーにならない。ボールが動くからプレッシャーをかけるチャンスが減ってくる。トランジションも、ハーフコートのオフェンスも、そういったものを1個1個、1年1年積み上げていったものが、レバンガ戦の勝利につながったと思います。
その成果でこちらのTOは減ってきた。あとはディフェンスで何を工夫するか、オフェンスでどういう点の取り方を工夫するか。レバンガに勝った試合も、こっちの3ポイントが決まったのはたったの2、3本。逆にペイントの勝負で勝っているんです。
外国人がいるから3ポイントというのは間違い。逆にブレイクを出されて、相手に楽させてしまう。相手が嫌なのはペイントでハードにアタックされて、疲れてしまうこと。そういうことの延長をやっていかないといけない。バスケットで40分間、3ポイントが入り続けることはないので。もちろん3ポイントも大切だけれど、そこに頼り過ぎない。
鮫島 3点目です。それだけ想いがあって、戦略・戦術があって、勝って、最後に一体感がある。そんなときはコーチ冥利に尽きるものでしょう。そこに至るまでの間に、コーチは選手たちに苦しみを与えなければならない。それをやり続けるモチベーションにはどのようなものがありますか?
しかし目的はもう一つある。
長谷川 バスケットの指導者として私が常々言っているのは、目標は「勝つ」ということ。これは大前提です。しかし目的はもう一つある。その目標のために、チームで努力をし、悩んで苦しんいく中で、協調性、忍耐力、積極性…人が生きていく上で大切なことをバスケットというチームスポーツを通じて、得るものがたくさんある。これは100%努力したものにしかかえってこない。それを感じてくれるチームを作れなかったら、それはコーチの責任です。それができた上ではじめて勝つことがあると私は考えています。
鮫島 だからこそ、そういうチームが人の心を動かすわけですね!現在の最高峰Bリーグでも、例え勝っても見ていて心に響かない、そんなことがよくありますが、そこに長谷川さんの揺るがないものがあるわけですね。
長谷川 どんなスポーツでも感動したり、応援したくなったりするのはそういうところだと思います。例えば2000円持っていて、映画を見に行くか、バスケットを見に行くか。「映画を見に行くよりもバスケットを見に行って良かった!」と言ってもらえる試合をしたい。確かに映画も、コンサートも面白いものだけれども、それに勝るとも劣らないものをバスケットの当事者がやらないと、スポーツは文化として定着していかないと思うんです。
鮫島 オンザコートの話に戻します。最近はピックからいろいろやることが、流行になっていますが、だからこそパッシング、ボールを動かすモーションオフェンスのスタイルが、強いところに勝つために必要な判断力を養うためにも、必要になると考えているのですがいかがでしょう?
長谷川 結局ピック&ロールは素晴らしいハンドラーと、スクリーナーがいない限りは、簡単にうまくいかないプレーです。スイッチしたら一発で終わりとなったら通用しない。悪いけれどもみんながみんなやって成功するとは限らないと考えています。中高生がピック&ロールを使ってうまくいくとしたら、守備の方に問題がある場合も多いのであって、簡単にうまくいくものではないということです。
鮫島 コーチ・長谷川を見ていると、江戸っ子気質で選手の心をつかむのがうまい指導と、ち密な分析を重ねて勝負に挑む、その両方が備わっていると感じます。今でも進化されていますが、どんな勉強をされているのでしょうか?
長谷川 一つはいろんなゲームの映像を見ています。日本の試合から海外の試合まで。自分が指揮している試合は必ず録画して後で見返しています。自分の試合を見ているとどういうことができて、どういうことができていないのかが分かります。
見ていて感じるのは、バスケットはまだまだ偶然性が高いということ。その偶然をいかに必然に変えていけるかが、次の練習のテーマになってくるのです。そうやって確実性をより高める作業を繰り返しています。
あと勝てるチームを育てていくためには、突出したものをどれだけ作れるかも大事です。100点満点で50点のものを数多く持っていても意味がない。武器というのは信じられるもの。それを持っていなければ勝負にならない。苦しい時に頼れる武器は悩んだり、苦しんだりした経験の積み重ねの中から磨かれてくるものだと考えています。
鮫島 コーチは選手よりも苦しみ、悩まなければならないというわけですね。
ところで今Bリーグがオンザコート2を採っていることで、外国籍選手への依存度が高くなり、知恵や工夫を磨くコーチ畑の人間が育っていない。外国籍選手への依存度、が高すぎる気がするのですが…
長谷川 その通りだと思います。あとBリーグに関しては試合数が多すぎます。試合の数が多すぎて、時間をかけてチームを作り上げる土壌がない。プロ野球のファームのような(トップチームの選手の)育成の仕組みがないところに問題があると感じています。
鮫島 なるほど。育成の仕組み、レブナイズの現オーナーもそういう理想を持っておられますが、確かに大事ですね。
長谷川 サッカーはJリーグができたことで、選手が育ち、海外のクラブに移籍して日本代表が強くなった。バスケットはそこをもっと目指してもいいと思います。Bリーグを出て海外に移籍しレベルアップしていく。今NBAにいる渡邊雄太にしても、八村塁にしても、むこうの大学を経てなので、Bリーグからの移籍はまだないのが現状です。
成功者に必要なのは野心だと私は考えます。世の中でも野心のない人が国の総理や大統領になることはない。お金がありすぎると人間の野心が減ってしまうのかもしれません。
鮫島 もう一つ付け加えれば「愛」と「野心」でしょうか。その地域に対する愛、あるいは所属チーム等に対する恩義と愛、あるいは原点のバスケ愛、そういったものと「ビッグになってやるぞ」という野心が相まって成長する。
長谷川 私が思うに組織はある意味、居心地が悪くないと発展していかない。家族は居心地が良い方がいい。組織は競争しなければならないのに居心地がよかったら、そこはぬるま湯です。プレッシャーや、競争や、嫌な人間や合わない人間がいる、そういったことも実は組織力を高めていくのに必要なことではないか。
鮫島 そこでマストなのは正常な競争が行われるために、正当な評価体系が必要ということですね。これはチーム作りでも同じだと思います。
ではチーム内で選手を評価するときの長谷川流はどんなものがありますか?
長谷川 ハードワークや、チームを第一に考える、チームのルールを守ることなどはベーシックで絶対的な部分です。あとバスケットボールは平均点の選手を5人集めても勝てない。それぞれに何か特徴を持っている選手がいて、それを使い分けることがコーチの仕事です。
教育的観点から、みんなを同じように育てようとする傾向が今まで強すぎたと感じます。もっと個性があっていい。時にセルフィッシュな選手が必要な場面も出てくる。必要ない時にそれが出てしまわないように止めるのがコーチです。
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コーチに必要なのは観察力
鮫島 今までの長谷川さんのコーチ人生の中で印象に残る選手、「天才肌」、「努力してはい上がってきた選手」、個人的に「最も印象に残っている選手」を挙げていただけますか?
長谷川 天才的といえば比江島慎。どこがどう天才なのか、それを言葉に出せないから、彼はすなわち天才なんだろうと。気の抜けたようなプレーをしているかと思ったら、時折周囲をアッとうならせるようなプレーをする。
鮫島 そういう選手にコーチはどう接するのですか?
長谷川コーチに必要なのは観察力だと思います。比江島がどういう時に悪くて、どういう時に良いのかをしっかり把握しておけば、悪くなった時に指摘ができる。だから天才にもコーチは必要。
鮫島 なるほど。では努力して伸びたと思える選手は?
長谷川 橋本竜馬ですね。彼はどこにでもいるような選手で、持っている能力はそこら辺にいる学生とさして変わらなかった。彼が持っていたのは「絶対うまくなってやる!」というハートでした。
とても生意気なヤツでしたが、逆に生意気なやつを教えられないコーチはダメだと思うんです。生意気なヤツほどリーダーになる。
鮫島 教え子でなくてもいいので印象に残っている選手は?
長谷川 やはり八村塁でしょうか。考えられないぐらい成長している。天才と努力と環境、全てがマッチしたらああいう選手ができるということでしょう。
政 以前、日本代表を率いられたときは、日本がFIBAからの制裁を受けるなど一番苦しい時期でした。それでも火中の栗を拾ったのは、野心、こういときだからこそやってやるという部分が大きかったのでしょうか?
長谷川 そうですね。失敗を恐れたら何もできないので。あと、努力をしている、人間が本気になって取り組んでいると、誰かが助けてくれるんですよ(笑)。そう思ってやっています。そうしないと、全部を一人で抱え込むのは無理な話です。
不思議なもので本気になって、努力しているといろんなことが起きます。ちょっとした電話での一言が自分の悩みを解決してくれたり、良い出会いがあったりする。素晴らしい本にたどり着いたり、ネットのニュース1つでも心動かすものに出会えたりする。
偶然のようでも、それはアンテナを広げているからであり、アンテナを広げていることが僕は本気でやっていることだと思うのです。人間力を高めるというのはそういうことだと思います。そういったことを、これからも若い人たちに大切にして欲しいと思っています。
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宮迫 お話を伺っていると、過去の試合など鮮明に覚えているのがすごいですね。
長谷川 昔から記憶力は良かったです(笑)。トランプの神経衰弱が得意でした。あと本気でないことは忘れるんです。女性でも本気で好きになった人のことは良く覚えているでしょう(笑)。一生忘れないし、電話番号だって覚えているはず! 何事も本気でやれば忘れない。
鮫島 最後にかつて日本代表を率いた長谷川さん。今後どんな道を進んでいかれますか? また代表を率いることがありますか?
長谷川 自分の置かれている立場でベストを尽くしたいと思います。代表のコーチはおそらく難しいでしょう。なぜなら私自身に経験がないから。世界選手権、ワールドカップのセミファイナルの舞台の緊張感がどんなで、どういうバスケットをするのか、想像の世界でしかないことを選手に伝えるのは難しいです。
これからのBリーグは指導者も海外を目指す人がいてもいい。挑戦し失敗してまた帰ってきてやり直す。日本は失敗を恐れる文化が未だにある。誰だって失敗する。失敗してもいいから何度でもチャレンジできる。そんな日本であって欲しいですね。
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【つかさの射的】
長谷川さんと初めて会って話を聞いたのは6年以上前、15年12月だった。現役の「日本代表監督」と直接話せることに興奮したのを思い出す。
NBLとbjの分裂状態などが問題され日本バスケット界はFIBAから国際大会出場停止の処分を受けていた苦難の時代に「火中の栗」を拾い、代表監督を引き受け、14年のアジア大会で20年ぶりの銅メダルを獲得し、15年のアジア選手権では18年ぶりとなるベスト4進出を果たした。
その源には「格上とされる外国籍選手がいるチームに日本人だけで勝ちたい」という揺るぎない情熱と信念、野心がある。それを叶えるために単なる熱血や精神論を振りかざすのではなく、「どうすればそれが叶うのか」徹底したリアリストの視点でその方法論を模索し続けている。
偶然性の高いバスケットだが、これまでの練習、試合の中で起こった「偶然」を必然に変えていく」ことを次の練習のテーマに掲げ「信じられる武器」を練り上げて次の勝負に挑む。志を高く「アンテナ」を張っていれば不思議といろんな出会いや縁があって、ものごとが前に進んでいく。最後に力を発揮するのは人の輪だ。その発想はバスケットに留まらず、あらゆるスポーツ、勝負の世界に通じるものであり、スポーツを超えた人生全般でも通用する真理といえる。
日本トップクラスの大学生や、代表の選手たちを指導してきたが、「人が生きていく上で大切なことをバスケットというチームスポーツを通じて伝えていきたい」という理念はブレない。県内で小中高校、いずれのカテゴリーにおいても指導者が心得ておきたい共通理念である。
少子化で子供の数は少なくなり、熱血の象徴だった拳を振り上げる鉄拳制裁指導はご法度。コロナ禍であらゆる活動に制約がかかり、息苦しさ、もどかしさがあり、何もしなくていい「言い訳」もできそうな世の中だが、だからこそ情熱を注ぎ「やってやる」志を掲げる長谷川さんの生き方に大いに刺激を受けた。(文責・政純一郎)