なぜ掻けば掻くほど、もっと引っ掻いてしまうのか
今回は、なぜかゆい時に引っ掻き行動が止まらなくなるのか、その脳での神経伝達のメカニズムを明らかにした研究を紹介します。
このメカニズムが明らかになることにより、かゆいときに皮膚を引っ掻き過ぎて傷つけてしまうことを防げる可能性を秘めています。
掻けば掻くほど止まらなくなる
痒みを感じた時に、その部位を引っ掻いてしまうと思いますが、掻けば掻くほど止まらなくなるという経験を誰もがしたことがあると思います。
そしてつい掻き過ぎて、いつの間にか血が出てしまうほど掻いてしまうような経験がある方も多いのではないでしょうか。
特にアトピーなどの皮膚炎を患っている方は、このような引っ掻き行動が止まらないために、皮膚を自分で傷つけてしまうことが問題となっています。
なぜ私たちは掻けば掻くほどに、さらに同じところを引っ掻いてしまうのでしょうか。
この、引っ掻き行動が増幅してしまうメカニズムが分かれば、引っ掻きすぎて皮膚を傷つけてしまうことを抑制することにつながります。
脳の報酬系を支配する神経回路が、引っ掻き行動を増幅している
脳のなかでも、中脳の腹側被蓋野と呼ばれる領域が、報酬や目標志向型の行動に中心的な役割を担っていることがわかっています。
今回ご紹介する研究では、この腹側被蓋野の報酬に関わる神経回路が、かゆいときの引っ掻き行動の増幅にも関わっていることを明らかにしています。(↓論文)
脳の腹側被蓋野のGABAニューロンが、かゆみを感知して引っ掻き行動を誘発している
まず、ヒスタミンなどの痒み物質をマウスに注射してかゆみを起こさせた時の、腹側被蓋野の神経活動を光遺伝学と呼ばれる手法を用いて観察しています。
すると、GABAニューロンと呼ばれるタイプの神経の活動が、かゆみ刺激をするとすぐに増加することが示されています。
またこのGABAニューロンだけを、光遺伝学の手法を用いて特異的に抑制すると、かゆみ刺激したときの引っ掻き行動が抑制されることが示されています。
逆にGABAニューロンを刺激すると、かゆみ刺激したときの引っ掻き行動が増えることが示されています。
よって、この腹側被蓋野のGABAニューロンは、かゆみ刺激があった時に、引っ掻き行動を誘発するトリガーとなる神経であることが示唆されます。
腹側被蓋野のドーパミンニューロンが、引っ掻き行動を増幅させている
かゆみ刺激した時に、GABAニューロンの活動から少し遅れて、ドーパミンニューロンと呼ばれるタイプの神経の活動が増加することが明らかにされています。
このドーパミンニューロンは報酬系(同じ行動を繰り返すことを刺激する神経回路)の増幅に関与していることが知られており、引っ掻き行動もこの報酬系が活性化することで増幅していることが示唆されます。
実際、マウスのかゆみ物質を注射する部位にカーラーをつけて、その部位を物理的に引っ掻けなくすると、ドーパミンニューロンの活動が起こらなくなることが示されています。
これは、引っ掻くことでドーパミンニューロンが活性化されていることを意味しています。
またドーパミンニューロンの活動を光遺伝学の手法を用いて特異的に抑制すると、かゆみ刺激したときの引っ掻き行動が抑制されることが示されています。
よって、このドーパミンニューロンは、引っ掻くほどにその活動が活性化されて、引っ掻き行動をどんどん増幅していく役割を担っていることが示唆されます。
かゆみ → GABAニューロン → 引っ掻き行動 → ドーパミンニューロン → 引っ掻き行動の増幅
引っ掻き行動は、↑に記載した脳の報酬系の神経回路が活性化することで、増幅していくことが今回の研究より明らかになっています。
なので、かゆみが起こったときにこの神経回路を抑制することができれば、過剰な引っ掻き行動による皮膚へのダメージを防ぐことにつながります。
今回の研究で明らかになった、脳での ”かゆみ→引っ掻き行動” の中枢神経回路をターゲットにした薬剤が、近い将来開発されてくるといいですね。
今後も分かりやすい、簡潔な記事を心がけていきます🙇🏻♂️