忙しいクリスマス
「ゆみ子、1番に電話。コスモス商事さんから」
「ごめん、後でかけ直すって伝えて」
5分後には新製品会議が始まる。ラップトップを抱えて階段を駆け上がるともう主だった面々が集まっていた。
「この印刷予定、少し遅らせられない?」
席に着いた途端マーケティングの佐々山君が原稿をヒラヒラさせる。来年度のカタログに新しく開発した広告の文言を入れたいとのこと。
「無理!」
すかさず一言で切って捨てる。
「印刷所への入稿は遅くとも23日までよ。その後年内校正、年明け初日に色校一発で印刷して発送よ。新製品の発表会に間に合わないんだからね」
「おい、始めるぞ」
部長の声ですごすごと席に戻る佐々山君。会議を聞きながら印刷スケジュールをなんとか調整してみる。
「年明け色校で原稿差し替え、最終稿確認して追加費用持ちでもいいなら」
メールを打つとすかさず「サンキュー」と返事が来た。
印刷物の進行状況を打診され「予定通り」と答えておく。慌ただしく会議を終えるともう2時を回っていた。
「ゆみ子さん、RX印刷さんがお待ちです」
「ありがとう。すぐ行くわ」
原稿をかき集め受付のブースで打ち合わせを始める。佐々山君担当の商品説明に変更の可能性を伝えたが文字変更だけなら追加費用なしで済みそうだ。ありがたい。
打ち合わせを終え席に戻れば「折り返し電話下さい」のポストイットが受話器を埋め尽くす。メールボックスの未読カウンターは恐ろしくて見る気にもなれない。
「どうしてうちの会社はこの時期(クリスマス)忙しいの?」
自動販売機の前で目ざとく佐々山君を見つけ、思わず愚痴ってしまう。
「しょうがない、そういう運命なんだから」
「誰のせいだと思ってるの」
「いや、スミマセン」
「わかればいいのよ」
少しは溜飲が下がり、戻ろうとするとおずおずと呼び止められた。
「あの~」
「何?」
「ゆみ子さん、24日の予定は?」
「仕事に決まってるでしょ」
「いや、その後は?」
「家に帰るわよ、何言ってんの」
「その~、仕事が終わった後飲みに行きませんか?」
あら、お誘いかしら?
驚いて佐々山君を見ると珍しくもじもじした様子。
「その日は夜まで会議が入ってるけど、そうね、21時以降ならいいわよ」
「はい、喜んで」
うれしそうな返事に思わず吹きだしそうになる。慌ててその場を離れたけど廊下に響くヒールの音が心なしか華やいでしまった。
<終わり>
才の祭応募小説。
お読みいただきありがとうございました💛