「動的平衡」 福岡伸一
「動的平衡」 福岡伸一 小学館新書(2017/06)
「生命はなぜそこに宿るのか」
本書は、2009年に刊行された「動的平衡」の新書版で、その後の急速に
進展した生命科学研究の最前線の状況を加筆したものです。
「動的平衡」とは、合成と分解など相矛盾する逆反応が絶えず繰り返さ
れることによって、秩序が維持され、更新されている状況を指す生物学用
語です。
すなわち、「生命は変わらないために変わり続けている」ということ。
37兆個もの細胞から成り立つ人間の生命が、このダイナミックなしくみ
をベースに成り立っている。
「人間は考える「管」である」
「私たちが見ている「事実」は脳によって「加工済み」」
「歳をとると、一年が早く過ぎるのは、時間の経過に、生体時計の回転
速度が追いついていけないから」・・・
身近なテーマから「生命とは何か」という本質的な命題を論じていく、
知的好奇心が揺り動かされる書です。
■目次■
0.生命現象とは何か
1.脳のかけられた「バイアス」
-人はなぜ「錯誤」するか
2.汝とは「汝の食べた物」である
-「消化」とは情報の解体
3.ダイエットの科学
-分子生物学が示す「太らない食べ方」
4.その食品を食べますか?
-部分しか見ない者たちへの危険
5.生命は時計仕掛けか?
-ES細胞の不思議
6.ヒトと病原体の戦い
-いたちごっこは終わらない
7.ミトコンドリア・ミステリー
-母系だけで継承されるエネルギー産出の源
8.生命は分子の「淀み」
-シェーンハイマーは何を示唆したか
9.動的平衡を可視化する
-「ベリクソンの弧」モデルの提起
■ポイント■
◆「記憶とは何か」
・「記憶物質スコトフォビン」は無かった
・「記憶物質」は、存在しようがない。あるのは、絶え間なく動いている状態の、ある一瞬を見れば全体として緩い秩序を持つ分子の「淀み」
そこには、因果関係があるのではなく、平衡状態があるに過ぎない。
・「想起」した瞬間に作り出された何ものか(「過去」とは「現在」のこと)
刺激はその回路の活動電位の波となって伝わり、順番に神経細胞に明かりをともす(脳内伝達物質)
◆「脳は、ランダムなものの中に強引に関係性を見る」
・「環境」との相互作用の結果として「脳の合理性」が生まれる最初から目指されたものではなく、選びとられたもの
「環境」と「タイミング」
・「脳」の個別性:個的な一回性の営み
・「バイアス」:「規制」→「生きやすさ」
「可塑性」 :「自由」→「成長」
◆「時間どろぼうの正体」
・「歳をとると一年が早く過ぎるのは、実際の時間の経過に、自分の生命の回転速度「体内時計」がついていけない」
◆「私たちは、私たちを規定する生物学的制約から自由になるために学ぶ」
・「進化は私たちにバイアスをかけ、一定の規制を敷いた。しかし同時に可塑性すなわち自由への扉も開いてくれている」
・「直感が把握しづらい現象へイマジネーションを届かせるために学ぶ」
◆「食物は情報を内包している」
・「生命体は口に入れた食べ物をいったん粉々に分解することによって、そこに内包されていた他者の情報を解体する。これが消化である」
・「人間は考える管である」
◆「サステイナブル(持続可能性)とは、常に動的な状態」
・「生命活動とはアミノ酸の並べ替え」
・「消化酵素もタンパク質。私たちは食べ物とともに私たち自身も食べている」
◆「ダイエットの科学」
・「自然界はシグモイド・カーブ」:非線形
基礎代謝内の量をチビチビ食べたら太らない
・「膵臓のランゲルハンス島が、インシュリンの司令塔」
飢餓こそ人類700万年の歴史
・「タンパク質は貯蔵できない」
タンパク質の流れ「動的平衡」こそ「生きている」こと
◆「食品添加物」は、「動的平衡」の負荷となる
・「青い薔薇」の教訓:単一の「青の遺伝子」などない
◆「全体」は「部分」の総和ではない
・「生命の仕組み」と「機械のメカニズム」の違いは「時間」
不可逆的な時間の折りたたみの中に生命は成立する
・「部分」は多数タイミングよく集まって初めて一つの機能を発揮する
「+α」=「エネルギー+情報」→「効果」→「次のステージ」
◆「それぞれの細胞は将来、何になるか知っているわけではなく、
また知らないままにあらかじめ運命づけられているわけでもない」
・にもかかわらず、各細胞はそれぞれ徐々に専門化の道を歩み始める話し合いによって分化が進む(発現)
・「他律的」に進み、形作っていく
◆「ES細胞」は、空気が読めない、しかし、増えることをやめない細胞
「iPS細胞」は、ES細胞を人工的に作出したもの
「ガン細胞」と「ES細胞」は似通っている
◆「ノックアウトマウス:えびす丸一号」:GP2部品が欠けたマウス
・一部品が無くても、バックアップ機能が働き、バイパスを開く生命
生命の持つ、柔らかさ、可変性、全体としてバランスを保つ機能
◆「一回性」で「不可逆的」な働き:「動的平衡」
・「タイミング」と「パーツ」は、時間に沿って組織化される
◆「ミトコンドリア」:エネルギーの生産
・「共生」(パラサイト)
・「ミトコンドリア・イブ」:母系の先祖
◆「機械論」から「生命論」へ
・「カルティジアン(デカルト主義)」の弊害
・「生命」は開放系:「環境」との「大循環」の輪の中
生命現象とは構造ではなく「効果」であり、生命は「流れ」であり、身体はその「流れの淀み」であり、生命は環境の一部、環境そのもの。
・「局所的な加速」(効率化)は、動的平衡に負荷をかけて「流れ」を乱す
・「適材適所」:部分部分はそれぞれが置かれている動的平衡の中でのみ、その意味と機能をもち、機能単位と見える部分にも、境界線はない
◆「エントロピー増大の法則」に先回りして、自ら壊し、再構築すること
・「生きている」とは、エントロピー増大の法則と折り合いをつけること
・「アンチ・アンチ・エイジング」:自らの身体を自らの動的平衡に委ねる
◆「ベリクソンの弧」:「動的平衡」モデル
・「坂を登りながら、全長を短くしていく」
「分解」が先:作る以上に壊すことが必要(オートファジー)
「有限性」→「時間」の発生
・「閉じた円」は落下していく
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