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この世の誰にも参考にならないだろう小説の書き方

 こんにちは、影山アヤです。「ストーリーの作り方がわからないよ」という人が読むと面白いかもしれないし、現在進行系で小説を書く人は「こんなやつ居るんか」っておもしろいかも知れない。ちょっと本文の書き方が独特なので、そのへんが「誰にも参考にならない」要素です。

 今回を簡単に説明するとこういった感じです。
●禍福は糾える縄の如し(いいことと悪いことを繰り返そう)
●主人公の欲しいものを作れば動きが出る
●台詞で表現しすぎず、メタファーを使おう
●伏線は後入れでなんとかなる

 どういった小説を作るのか

 今回は一話完結(読み切り漫画程度の長さを想定)で話を進めます。登場人物も絞り、名前ありのキャラクターは五人以下にします。
 ジャンルは「キャラクター小説」。最近、ラノベでもなく一般書でもないキャラクター文庫が人気です。表紙に一人のキャラクターが佇んでいて、「ナントカさんの事件簿」とか「パン屋ナントカの推理」みたいに「シリーズ化を想定したキャラクターの輪郭がある」のが特徴です。定義はまだまだ曖昧ですが、「ストーリーよりもメッセージよりもキャラクターをしっかり描きたい」だと私は思います。
同人誌も、好きなキャラクターを活躍させたいという点ではこのジャンルですね。

 まず読みたいものを考えます。狸と狐が化かしあいするうちに両思いになるやつ読みたいな……など。クライマックスは狐の嫁入りだな……とか。
 基本的にクライマックスは決めておきます。思いつかない場合は「なんか上手い一言で終わらせよう」と考えてください。(後述)

 両思いになる、の反対を考えます。色々ありますよね。他の人とくっつくとか、復縁不可能なほど喧嘩するとか、死ぬとか。その中で好きなものを選びます。今回は、他の人を好きだったという事にしましょう。ひっくり返します。これが、クライマックス前の盛り上がりです。

 次「他の人が好きだった」という事が発覚する前に、その反対を考えます。「こいつ俺のこと好きなのか……」という気持ちですね。ひっくり返します。これがクライマックス前の盛り上がりの前です。

 これを繰り返すと、ネタがつきない限り無限の長さの小説になります。思い浮かびますよね、「最強になったかと思いきや強い敵が、ピンチかと思いきや勝利」の繰り返しのバトル漫画や「両思いになったと思いきやすれ違い、破局かと思ったら告白」を繰り返す恋愛漫画など。
 
 お好みの長さにしてください。個人的には、二回ぐらいあれば一本の小説として十分ではないでしょうか。無限に繰り返す場合も、全く同じ展開にならないようお気をつけて。

 さて、そろそろ最初を設定します。自由でいいのですが「どこでだれがどうして」と「これからどうする」というのは早めに出してあげてください。
 クールなキャラクターがなかなか動かない時は、仮の目的「マクガフィン」を使いましょう。「マクガフィン」は脚本で使われたりする用語らしいのですが、小説でも大いに使えます。それは優勝トロフィーであったり、スパイが探す機密情報であったり、勇者が旅に出る目的の、伝説の宝物であったりします。「マクガフィン」そのものはストーリーに深く関わらなくていい。なんだっていいのです。
 主人公が動くための理由、としてぶら下げるニンジン、それがマクガフィン。主人公がどうしても欲しいモノです。
 「狸と狐が化かしあいをする」から「狸と狐が、山の縄張り(マクガフィン)を奪い合って対立し、化かしあいをする」に進化します。ちょっとストーリーっぽくなったのではないでしょうか。
 
 ここまで来たら、ほとんどプロットは完成です。
「狸と狐が山の縄張りを奪い合って化かしあいをする。次第に心惹かれ合うが、狐は他に好きな人がいることがわかって微妙な関係に。しかし、既に狐の本命は狸だったと和解し、最後は狐の嫁入り」
 どうでしょうか。面白いかはともかく、立派に小説のあらすじですね。ここから、書きつつディティールやトリックをつめていきます。勝負のルールや、途中の心の動きなど。

プロットができたら

 すべてのことを口で説明しては、なんだか小説っぽくありませんね。特にクライマックスの「狐の本命は狸だった」は、ストレートに言ってもいいのですがぜひ行動で示したい。
 案1「他の好きな人と狸をぶつけて、狸を選ばせる」
 これもありでしょう。ハンサムな何かが出てきて、けれど今はもう狸のほうが好き! と言わせる……のは大変わかりやすい。ただ、描写コストがかかります。登場キャラクターが増えるので。
 案2「メタファーを使う」
 キャラクターが増やせないなら、小物を増やしましょう。例えば「主人公がショックを受けたシーンでお弁当箱を落としてしまう、ぐちゃぐちゃになったお弁当は精神状態の現れ」みたいなやつ。この場合は「他の好きな人を思わせる小物を出して、その扱いで心理状態を表す」ことになりそうです。
 好きな人から貰ったものを手放す。捨てる。あるいは、狸が上書きする。そうすると、今はもう狸一筋ということが伝わりますね。

 参考にできない書き方

 さて、ここまでは「オーソドックスなプロットの作り方」です。
 タイトルの「この世の誰にも参考にできない」は、ここからです。
 小説はどこから書くでしょうか。初めから? クライマックスから? 場面場面を書いてから入れ替えるなんて方もいますね。
 私の場合は、台詞から、です。

「なんじゃあ?」
「これはこれは、お初にお目にかかる。妾は湖の国の妖狐、シノと申す」
「遥々海の向こうから、わしの山に何をしに来た? さてはわしへ一目惚れかの」
「ほほ、冗談が過ぎる。狸殿……いえ、団四郎殿。この山を譲って頂きたい」
「断わる」
「おうおう、理由も聞かずに」
「わしが豆狸の頃から育った山じゃ。そう容易には手放せぬ」
「では、土地をかけて化け比べで勝負をするというのはいかがか? 妾が負ければ――土地、美女、権力、財宝、何でもお好みの物を差し上げよう」
「いらん。いらんが……断っても永遠にここへ居座る気だな、お前は」
「ええ。妾の野望、三国支配にはこの山がどうしても必要なゆえ……」
「仕方ない、ただし一回勝負じゃ。それが終わったら帰るんじゃぞ」

 こんな感じの物を作ります。頭から、最後まで。完成したらその隙間に地の文を入れていき、完成です。この方法、一度頭を使ってしまえばほとんど体力勝負で完成させられるので、私は好きですね。ただ、作家さんによっては「展開を変えたくなる」「流れを書いてしまうとモチベーションが下がる」などのデメリットを感じるようです。
 以前Twitterで文字書きの下書きの仕方を四種に分類した私のツイートが拡散された時も、多いのは「最初から」と「好きな場面から」でした。台詞からの人は少なめですね。もしマンネリ化していたり、スランプになっていたりしたらぜひ試してみてください。スラスラ書けたらお仲間。

どうしてもラストが思いつかなかったら

あきらめましょう。

 あきらめて、ちょっと上手いこと言って終わらせるエンドにしましょう。
 この狸と狐であったらラストは結婚式ですね。
 想像の余地のあるエンドであれば、「角隠しで隠れた狐の表情は、狸だけが知っている」みたいな感じとか、あるいはもっと情報を少なくし「二人の尾が揺れていた」とか、あるいは「静かな山々に、鈴の音が響く」みたいに情景で終わらせるとかもいいと思います。ただ、それではオチが弱いと思った時は、上手いこといいましょう。
 上手いこととは、「そういう意味だったのか!」となるやつです。「序盤で言っていたさようなら、が本当は過去の自分にさようなら、だったのね」などがオーソドックスでしょうか。
 これを作りましょう。まずラストシーンでエモいような可能性を秘めた台詞を言わせます。

「三国一の伴侶を手に入れたからのう」
「ふふ。おぬしを奪ったのは――妾のほう」

 こんな感じですね。まだエモくなくてもいいんです。次に序盤に戻り、どこかでこの台詞を想起させるようなやりとりを足します。

「必ず妾がこの地を手に入れて、三国一の大妖になってみせようぞ」
「いいや、奪うのは――わしのほうじゃ」

 どうでしょう。立派なオチになったのではないでしょうか。綺麗に鏡写しになりましたね。これだけで作品は締まります。困った時は、ぜひ使ってみてください。

 今回のまとめ
●禍福は糾える縄の如し(いいことと悪いことを繰り返そう)
●マクガフィン(主人公が欲しいもの)を作れば動きが出る
●台詞で表現しすぎず、メタファーを使おう
●伏線は後入れでなんとかなる

 小説を書き出す一歩目になったり、こんな人もいるんだなと楽しんでもらえたりしたら幸いです。
 ここまで読んでくださりありがとうございました! これで完成した小説も置いておきますね!

(一時間半/3,400字)
ぱくたそ(www.pakutaso.com)

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