短編小説/悪役(ワルモノ)
Episode:本当は…
殺人の依頼が入った。正義を語っている元警官の犯罪者の殺しの依頼だった。
情報を見るなり驚いた。左肩を撃ち抜いたあの警官だった。
私情を仕事に持ち込まず、正義を施行するという私のポリシーに従い快く受け入れた。
3日後。まるでねらっているのがわかっているように、毎晩、ひと気のない港に決まって訪れた。それがわかった後日、殺しの準備に入った。
準備が整い、奴が来る前に隠れた。暗殺するつもりはなかったが、堂々と立っているのは何か違うと、気まぐれに隠れていた。
いつもの時間より遅めに訪れた奴が本当に奴なのかか確かめてから彼の前にたった。そして俺はこう言った。
「お前とは少し話がしたかった」
目があったときにはすでにこちらを見ていた。つまり、自分より先に気がついていた可能性がある。はめられた可能性も考え、慎重に行動する。
「こっちもだ」
睨み合い、どちらも隙のない10秒を無言で過ごすと、両者とも、今は殺せない(できない)と判断し、話を続けた。
「なぜお前は、私にそこまで俺に執着する?悪いが、俺はお前になんの感情もわかない」
「……。わからない。いや、忘れてしまったの方が正解か」
「話にならない。質問を変える。なぜ、警察をやめてまで、俺を追いかける」
「君が"悪人"…だからだよ」
ここで殺人鬼は気付いた。自分も"悪役"なのだと。
心に決め、殺そうと考えていた頃、後ろからサイレンが鳴り響いた。
「お前、俺を誘ったな」
「君が選んだまでだよ」
抵抗するな、大声が港に響く。俺を大きく囲い、一人の警察官がこう言った。
「3時48分。連続殺人事件の容疑者として君を逮捕する」
思わず笑ってしまった。初め、怯えるほどの執着心を見せ、見事俺の心を揺さぶられた。だが、それは怯えていた訳でなく、もうしかしたら心が踊ったのかもしれないな。彼に面と向かって会えることを。
手錠を乱暴に附けて、俺をパトカーに乗せた。
妙にうるさい外に腹が立ち、睨み付けるとまるで嬉しそうにフラッシュが続いた。