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短編小説/悪役(ワルモノ)Episode2


       Episode:警察




「誰よりも人を思いやる気持ちを持っている警察官」とよく言われる。自慢じゃないが、どうやら信頼を得ているようだ。

"殺人鬼"を初めての犯行から追うようになった。

"殺人鬼"の姿を初めて見たときは、偶然誰かの叫び声が聞こえたので向かうと、それが殺人現場だった。"殺人鬼"が一瞬、こちらを見て逃走した。だが、こちらも欠かさず、拳銃を発砲し、それが左肩に当たった。後にも先にも、これが自分が目撃した最後だった。

自分が知らないところで、この目で見た被害者が亡くなるのがどうしても許せなかった。

だが、この捜査は打ち切りになった。つまり、未解決事件となったのだ。

必然的に一人で行動するようになった。この仕事にこだわり続けた。ただひたすらに。勿論、先輩には「諦めろ」と言われることは多々あった。ただ、他の捜査が疎かになることはなかったので無理に止められることはなかった。

こだわるには理由があった。気がかりになったのは殺人鬼の恐らくはじめての犯行。

ある会社の社長があるテロに荷担していることが明らかになり、今から訪ねるというところで通知が入った。死体となっており、まるで涙がつたるように目から顎にかけて切り口が開いていた。

初犯にしてはひどい犯行であり、覚悟が決まった手強い相手だとそのとき悟ったのだ。

捜査を進めていく内、人物像に色がついてきた頃だった。

殺人鬼に殺されてしまったあの社長。秘密が公にされてしまい、取引相手にその秘密を知った人の殺人を依頼したらしい。あくまでも事故として片付けられるようにされていたし、実際に事故として処理されてしまった。

復讐だと感じた。殺人鬼は復讐の目的で殺しを行った。だとしたらもう、目的は果たしているはずだったが、恐らく殺人鬼には別の何か考えがあるのではないか、止められる・自首させる可能性が微かにも残っているのではないかと思い、止める目的ではじめた捜査だったが、いつの間にか目的を見失い、執着するようになってしまった。

  ✻

警察官を辞め、犯罪者になった。具体的に拳銃を売ってそれと交換に殺人鬼の情報を集めていた。それが主な情報源だった。どんな手段を使っても見つける、そう考えていたとき、チャンスが訪れた。ターゲットになったという情報を得たのだ。

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