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長編小説『処刑勇者は拷問好き王子を処刑する【人体破壊魔法】特化でサクサク、サクリファイス 第6話「交換条件」

 それから生き返って一週間ほどリフニア国を下見。オペラ座での復讐に至ったわけ。

 王子の出してきた交換条件など、何の役にも立たないはずだったんだけど、俺に悩ましい選択を迫ってきたんだ。

 王子を拷問して二晩と過ぎたときだ。エリク王子の色白の背中の肉を裂くのも飽きてきた。だから腹でも殴っておく。まぶたも腫れ上がってもう目は見えていないはずの王子が、俺を賢明に見つめてくる。

「ぼ、僕の命を諦めてくれたら……はぁ……はぁ……ほかにも生贄を、差し出す」

「ばーか。俺が処刑(サク)りたいのはお前だっての」

 ほら、あの懐かしい竹の鞭。まだ、俺の皮膚が黒ずんでするめみたいになってくっついてるじゃん。あのとき何度も肉がえぐれたのが、ここに残っている。殴った次はこれを使わえてもらう。

「い、いただろ仲間が。ひ、一人この国で雇った。ほ、ほかも呼ぼうと、思えば……」

 なるほど。俺の元仲間たちであり、裏切者の居場所をエリク王子は知っていると。マルセル以外にも俺の仲間はあっという間に手のひらを返して去って行った。勇者の仲間としての能力を誇示してみせ、各国の要人の護衛などに雇われたと聞く。潔す(いさぎよす)ぎるだろ。

 エリク王子は血反吐の混じった咳をする。自分の膝に無様にかかっているぞ。潔癖症でも自分で洗いに行けなくて大変だな。

「まぁ、悪くないか」

 二晩の拷問、よく耐えた方じゃないか? だって、吊るした時点で失禁していたし。拷問前に掃除しろって、きれいにしてくれって泣きつかれてびびったぐらいだ。

「早く解放しろ」

「解放ってのは気に入らないな。お前がまるで俺より地位が高いみたいな物言いだし。なぁ、その言い方、治らないのかよ?」

 俺の指はメスだから、どこをどうなぞっても、血が出る。もう血の出る場所なんてないぐらいに王子の胸元は骨まで露出して真っ赤だ。首筋にそっと手を伸ばす。

「っぅう」

 まだやってないのに、やっぱり期待させてくれる声を出すよな。そういうところ、俺たちって似ているのかもな。なぁエリク王子。

「最後にもう一度。聞かせてくれよ。喉の奥から叫ぶ悲鳴」

 ふっくらとした輪郭の頬。ああ、王子様と言うだけあってなかなかの顔立ち。すでにある頬の傷の上から深く指でなぞる。より深く刻む。エリク王子の悲鳴は赤子の鳴き声そっくりで悲惨だな。

 誰も助けになんて来ない。側近モルガンでさえ魔王を討伐した勇者をどう始末していいか途方に暮れているんだろう。エリクの父親であるオーバン国王は今、不在。リフニア国の国家戦力の一つである戦闘魔術師たちと、軍事国家セスルラ国のドラゴン飼育場を視察しに行っている。

 涙が傷口を伝って沁みるらしく、エリク王子は固く目をつぶる。なぁエリク、俺を見ろよ。俺の歪んだ笑顔をよく見とけよ。エリクの半目を無理やり左手でこじ開ける。出血した目。ああ、俺を睨めよ。憎めよ。

「そこまでだ勇者!」

 聞き覚えのある女の声が俺の背後から俺を射抜いた。幾多の戦闘を経験した厳格な声。

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