「元ネタを知ればもっと楽しめる」の矛盾
シナリオ作成者がシナリオを作成する時、GMがマスターをする時に、よく言うことがある。特に元ネタがあるようなシナリオでだ。
「元ネタを知らなくても楽しめる。元ネタがわかればもっと楽しめる」
このような考え方でシナリオを作るのは大いに良いことであるが、このフレーズを決して口走ってはいけない人たちはいる。
「一度遊んだからそのシナリオは遊べない」という人だ。
「一度遊んだからそのシナリオは遊べない」というのは、一度そのストーリーを知ってしまうと、そのストーリー展開などで驚きや感動を得られないからだ。
そこに関する細かい点は、ネタバレNGとネタバレOKの討論でも読んでほしい。
ゲーム、漫画、小説、アニメなどなどで、繰り返し見るというのは、その作品が面白い、見ていて楽しいなどの感情が沸き立つからである。初めて触れた時と同じ感動が得られないにしても、次に見た時に別の感情があるだろう。1回目に見たあと、その作品の他の人の感想、考察、元ネタを知ったなど自分の知識や心境の変化が行った後にもう一度見ると違う感想を得られるかもしれない。
では、「元ネタを知らなくても楽しめる。元ネタがわかればもっと楽しめる」の「元ネタがわかった後」のプレイはいつできるのだ。
「一度遊んだからそのシナリオは遊べない」とプレイヤーが言うのは良い。その人本人が自分でその拘束をしているからだ。しかしシナリオ作成者やGMがそれを言うのはどうなのか。一度遊んだプレイヤーに対して「元ネタが知らない状態で遊んでしまった君たちは、元ネタを知っている状態で遊ぶ資格は既にない」と言っているに等しい。
漫画化、ノベライズ化、ドラマCD化、アニメ化、映画化。メディアミックスをした際に、完全に原作と同じものであるものは、その作品の代用品なのだろうか。オーディオブックで文章を喋っているのと、朗読とで同じものなのだろうか。
それと同じでシナリオ書く、書かれたシナリオを読む、そのシナリオのGMをする、そのシナリオのプレイヤーをする、そのシナリオのリプレイを読む/見る。それは全て同じ楽しみ方だろうか、同じ行為なのだろうか。
この問題は色んなものが渾然一体となっている。
実解析P氏の「じつかいせきのTRPG雑記」の「プレイヤー体験のためのTRPGアンチパターン」にも周回プレイについての話がある。
https://minori-akizuki.github.io/trpg_notes/trpg_anti_pattern/
明確な成功/失敗以外のマルチエンド、シナリオ分岐
残念ながら流行りの一つであるが故に、これはもうそのものがアンチパターンであると言っていい。 GMあるいはシナリオ作者からすればその物語は何回も語られる物であるが、プレイヤーにしてみれば一度きりの物語である事が多い。(同じシナリオを複数回プレイする環境もあるが、仲間と機会に恵まれないと難しい。) そこで煩雑な分岐のあるシナリオを後からあーだったこうだったと語るのはあまりにも不毛な時間であり、シナリオ作者がプレイヤーを掌の上で転がしているだけに見える。というか、そうなのである。
勘違いしてはいけない。あなたは周回が前提のノベルゲームを作っているのではない。
RPGでもノベルゲームでも、ストーリーが分岐するようなものは、周回プレイをして全てのルートを辿りたくなる。どこかの統計で、ノベルゲームのルート全部見る人は稀みたいなのを読んだ気もするが、少なくともフローチャート全て埋めたくなる人はいる。
実解析P氏の「じつかいせきのTRPG雑記」の「プレイヤー体験のためのTRPGアンチパターン」への意見で、「どのエンディングだった」という会話が確かにある、といった話もあるがこれとは別問題である。あるプレイヤーがバッドエンド3で、他のあるプレイヤーがグッドエンド2であった場合にこの二人は「このシナリオのエンディングが~」と盛り上がることができる。しかし、この「元ネタがわかった後」というのはあるプレイヤー一人が「バッドエンドとグッドエンド」両方を経験したいと言うものだ。
つまりは周回プレイが行われるようなシナリオ構造であるほど、「一度遊んだからそのシナリオは遊べない」は言えないはずである。そして、周回プレイをするために、GMは更にプレイヤーに対して手を差し伸べなければならない。「一回シナリオを遊んだから参加しないで」というのはもってもほかな発言だ。「シナリオを遊んでいない人を優先する」ならまだしもだ。
念の為言っておくが、ここで問題視しているのは、「元ネタを知らなくても楽しめる。元ネタがわかればもっと楽しめる」というコンセプトでシナリオを作っていることではない。
「元ネタを知らなくても楽しめる。元ネタがわかればもっと楽しめる」と公言し、一度そのシナリオを遊んだ人はプレイヤーに入れず、そのシナリオの経験者のみで卓を回そうともしない行為だ。シナリオ作成者というよりGMの問題である。この点に関しては実解析Pとは意見が異なる。
マルチエンディング、シナリオ分岐があり、周回することが前提となっているシナリオであるならば、周回プレイが許容されなければならない。「TRPGが周回プレイを前提としていない」のではなく、「周回プレイを謳う」のであれば「周回プレイすることが前提」のプレイ環境を敷かなければならない。