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歴史に埋もれていた人物を浮き彫りにすることは、すごく魅力的だ!

 安部龍太郎は、長谷川等伯を題材にした「等伯」を執筆するにあたって、五年前から準備に取り組んでいた。等伯の生まれ育った能登の七尾市を訪れ、資料を集め、また、彼が生きた痕跡を求め、主人公の思考の手がかりとなるものを集め歩いた。
 そんな中で安部は、等伯とは違う人々にも興味を抱き、一つのことに思い至ったという。
「男たちに取って戦乱に巻き込まれることは、覚悟の上での事。しかし、女や子どもにとっては、不運な出来事でしか無い。そんな状況の中でも、健気に生きていく彼女たち、彼らたちの姿を書きたい」
 と感じるようになったという。
「等伯取材の旅に出て知り得た事実から、一人の女性に興味を持った。その人物に至ったのは、時代の状況から類推して絞り込んで行った、その先に現れた」
   という。その人物とは七尾城の最後の畠山の城主、義隆の生母である。
 その城主から長谷川等伯は、庇護を受けたであろうことは想像できる。

 安倍は畠山義隆の生母について調べてみた。
「調べて行くと資料が全くない。名前すら分からない。これはある意味、作家にとっては自由に創作できる」
 と、安部は思ったそうである。
 そうは言っても、人物を作り上げるための手がかりが全くないということは、かなり苦しい作業になる。
 その苦労を差し引いても、時代に埋れた魅力的な人物を、なんとか浮き彫りにしたいという想いは、作家にとって至福の時間を与えてくれるに違いない。

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