「よいことと嬉しいことのみを考えておれば、そうなります」と母、お江与の方様
徳川秀忠の五女、和子姫の入内の日が近づいて来ていた。京の御所では和子姫のための女御御殿の建設が始まっていた。その御殿の建設を任されたのは小堀遠州政一である。小堀は幕府の作事奉行であり、将軍秀忠の茶道指南役でもある。
小堀が設えた御殿の図面を和子姫と母のお江与の方様がご覧になっていた。
「小堀遠州守の設えたゆえ、立派な御殿が出来る事でしょう。私は出来たところを見ることは叶いませぬが」
とお江与の方様が和子姫に言った。
「何をそのような悲しい事を……」
そう言うと和子姫は、あらぬ方向に視線を移した。
今上天皇へ嫁ぐ日が近いのだが、入内してしまうと二度と母と娘で会うことができなくなる。その事は二人とも覚悟はしていたものの、現実となる日が近づいているかと思うと惜別の念が募る。和子姫は十二歳である。
※ 「俵屋宗達」のひとつのシーンが、頭に浮かんだので書き留めてみた。このシーンが、どんな風に組み込まれていくのか自分でもまだ、よくわかっていない。全体のイメージを明確にしていくためにも、思いついたイメージを書き留めておこうと思う。
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