世界の二大知性が戦争について、書簡を交わした事実
第二次世界大戦前夜のこと。国際連盟の依頼を受けたアルバート・アインシュタインが、ジグムント・フロイトへ書簡を送った。
一九三一年七月三〇日 ポツダム近郊の町から、書簡が送られた。
フロイト様
あなたに手紙を差し上げ、現代の文明の大切な問題について議論できることを大変嬉しく思います。国際連盟(パリの知的協力国際委員会)から提案があり、誰でも好きな方を選び、今の文明で最も大切な問いと思える事柄について意見を交換できることになりました。このようなまたとない機会に恵まれ、嬉しい限りです。
「人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのか?」ーーこれが私の選んだテーマです。
(後略)
アルバート・アインシュタイン
この問いかけに対して、呼びかけられたジグムント・フロイトは、なんと答えたかの。多くの人が興味を持ち、また是非とも知りたいと思っている事だと思う。
一九三二年九月 ウィーンにて
アインシュタイン様
(前略)
では、すべての人間が平和主義者になるまで、あとどれくらいの時間がかかるのでしょうか? この問いに明確な答えを与えることはできません。けれども、文化の発展が生み出した心のあり方と、将来の戦争がもたらすとてつもない惨禍への不安--この二つのものが近い将来戦争をなくす方向に人間を動かして行くと、期待できるのではないでしょうか。これは夢想的な希望ではないと思います。どのような道を経て、あるいはどのような回り道を経て、戦争が消えて行くのか。それを推測することはできません。しかし、今の私たちにもこう言うことは許されていると思うのです。
文化の発展を促せば、戦争の終焉へ向けて歩み出すことができる!
(後略)
ジグムント・フロイト
2人の書簡のやり取りからは、簡単に人類から戦争をなくす事はできそうない、と感じる。
戦争を引き起こす「闘争心」は、本能である「生きる本能」と深く結びついているからだ。二つの本能は、「生きる力」の裏と表なのである。
そのことを前提としてフロイトは、アインシュタインに、「戦争を起こさないための手がかり」を、一つだけ提示している。
「文化の発展を促せば、戦争の終焉へ向けて歩み出すことができる!」
言い換えれば、『高い知性しか、人類にとって戦争の抑止力になり得るものはない』と言う事だろう。
しかし、それは戦争が始まる前ならありうるかもしれない。今、世界は現実に、二つの悲しい戦争を抱えている。これらはすでに大きな悲しみと憎しみに満ち溢れている。この感情を無くして、高い知性によって戦争をすぐにやめられるのか、と言われると決して簡単な事では無い、と理解できる。
偉大な人類の知性は、戦争を根絶やしにすることは不可能に近いことを、示唆している。
人類の進化には、どんな意味があったのだろうか。「人類の進化」と言う言葉に含まれている「嘘」を強く感じざるを得ない。
ここに来て、画家だった義父が口癖にしていたフランスの画家ポール•ゴーギャンの作品と言葉を思い出す。
「我々は何処から来たのか、我々は何者か、我々は何処に行くのか?」