武将の初陣は勝たなくてはいけない!
初めての平点前。私のお点前の途中で、
「茶道向きの手ですね」
と、アシスタンとのTさんに言われた。
うーん、『茶道向きの~』って、どういう意味だろうと考え込んでしまった。
さらに、先生に、
「蜻蛉さん、お客様はまだでしょ?」
「ええっ? やりましたけど…、ねぇっ」
と、アシスタントのTさんに同意を求めた。返事は曖昧だった。
「じゃあ、もう一つのお菓子のカステラを出してあげて」
ということで半強制的に、2度目のお客を務めることになった。
この日は、予想に反して初めての「炉の薄茶点前」の日だった。
「盆略点前」を終えてからの、この一か月間、自主練で一日最低でも1時間は「風炉の薄茶点前」の練習を重ねて来た。勘違いだったようだ。季節は「冬」。「風炉」ではなく「炉」の季節だということを、全く認識していなかった。
「蓋置の場所」が風炉の場合は左側。炉の場合は、右側。それくらいの違いで、あとはだいたい同じ。柄杓の動きも炉の方が簡略化されている。
お稽古が終わって挨拶の時のこと。
「蜻蛉さん、初陣は勝たなきゃダメ。そうして、立派な武将になってください」
先生は私が時代小説を書くために、茶道のお稽古を始めたことを知っている。だから、上記の様な励ましのお言葉をかけて来たのだろう。ありがたいことだ。で、とりあえず、これで帰れると思ったら、
「蜻蛉さん。もう少し、他の人のお点前を見て行くでしょ!」
「えっ……? 是非、拝見したいです。見て行きます」
と、半強制的に自主見学を求められた。
1度で済むはずの「お客」の稽古を2度まで、今日の先生は私に強制して来た。さらに時間を超過しての「お稽古の見学」。
もしかしたら、アシスタントのTさんの「茶道向きの手をしてますね」
の言葉に、先生が敏感に反応したのかも知れない、と勘ぐってしまった。
『蜻蛉さんは、茶道にのめり込んでいる?』
と、先生に試されたのか、見破られたのか………。1時間半足らずで終わるお稽古なのに、3時間は教室にいた。幸せな3時間だった。