オミナエシ・女郎花
秋の青い空に映える、小さな黄色い花が印象的な花。花言葉は「美人」とか「儚い恋」とか。
今度は、私が亭主役で「貴人手前の薄茶」を点てる段になった。お点前が進んで、問答になった。アシスタントの女性がお客の役である。
「お茶杓のご銘は?」
やはり私もご他部に漏れず、ここで詰まった。
「邯鄲(かんたん)にございます」
「うんっ」
アシスタントは、納得しない。
「流星に、ございます」
「うんっ」
まだ、ダメなようだ。それなら、と。
「女郎花(オミナエシ)」
「お棗がお花ですから、お花は。それにしても沢山、出てきますね」
「ならば、初嵐」
「台風シーズンですけど。それなら、野分け、とか」
初嵐でもいいじゃないか、と内心思いながら、
「野分」
つまらない名前になってしまった。
この女性アシスタントの方のお稽古は、始めてだった。気心がわからないために冗談もどこまで許されるのか、判断がつきかねる。おっしょさんとなら、気まずくなっても冗談で切り抜けることは可能なのだが。この女性の場合は、あまり気まずい印象を与えてしまうのは、しょっぱなとしてはまずいだろう、と判断。おとなしく、御沙汰に従った。
とりあえず、難なく「貴人点前の薄茶」のお稽古を、それとなく終えた。
「次回は、中置きになります」
「中置き?」
「風炉の位置が、寒くなってくると、どんどんお客様に近くなっていくのです。ですから、今は左ですが、次回は点前座の正面に風炉を置いたお点前になります」
「かしこまりました」
お稽古を終えた。おしょさんに「ご機嫌よう」と挨拶して茶室を出た。控えの間に入り、帰り支度をした。「次客争い」の姉弟子も帰り支度をしている。彼女から話しかけてきた。私の日常生活で、50絡みの女性と会話を交わす機会は、まったくない。女性カメラマンでさえ、四十歳未満である。あとは、運転手の控え室のお掃除をしてくれる鈴木さんは、七十歳。
その姉弟子が話しかけてきたが、内容はほとんど覚えていない。覚えているのは、帰り際に彼女が、
「お稽古着を着けたままですよ」
「ええっ。そうだった。ありがとうございます」
「シャツと同じお色の黒だから、お稽古着を着たまま表を歩かれても違和感がないですよね」
「そうそう。新しいファッションなんだ、なんて言い訳して」
「そうですよね(クスっ)」
他愛もない会話に、ほっこりしてしまう。
そういえば「恥ずかしい写真を見つけられた」、お父様が茶道大好きの女性カメラマンに変化が現れた。いい方向へ変化したように思えた。詳しくは、次回にということで。
日々は、こうして流れていく。
今朝、まだ人通りの少ない銀座の歌舞伎座前の交差点を渡りながら、ふと思った。やり残したことや、やっておきたいことはないだろうか……、と。
創作活動が円滑になるように、取材費をサポートしていただければ、幸いです。