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オウギュメンティッド

「最近、音楽はどうですか?」
「バンドはボーカルと喧嘩して、解散です」
「解散ですか。じゃあ、メンバーは?」
「僕一人です」
「ドラムとかベースとか」
「一人なんで、せめてギターが上手くなれば、あとは打ち込みでなんとかなるかな、とスクールに通って」
「エレキギター?」
「そうです。通って3回目ですけど、まだ一度も、ギター弾いてません」
「座学ですか」
「ずっとコードの仕組みとか音階の種類とか」
「Cのオウギュメンティッドとか?」
「よく知ってますね。ギター、やってましたっけ」
「大学の教職課程で、ピアノが必須だったので。あと、ギターはちょっと弾けたから、ある程度わかるんだけど。ギターコードを押さえるのは無理! 難しい」
「コードの仕組みがわかってないと、次に進めないって言うんで、とりあえず頑張ってるんですが」
「基本がわかってないと、より高度なことが出来ないしね」
「そうなんです。だから、一年くらい頑張れば、一人で歌って弾いて、ジョン・メイヤーみたいにやりたいなと」
 車は青山通りから表参道の交差点を左折して、原宿駅方面へと向かった。大きなビルの車寄せに入り、彼を降ろした。
 音楽をやっていたようには、決して見えない中年カメラマン。これからは、外見とは違った“拡張した(オウギュメンティッド)”見え方がするのだろうと、後姿を見送りながら、
「いってらっしゃいませ」
 と、お辞儀した。
 翌日、4回目のギター教室。やはりギターは1回も弾かずに、その回も終わった。

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カゲロウノヨル
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