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フリーソフトのヴァーチャル・パイプオルガン「GrandOrgue」入門

PCオルガンといえば、Hauptwerk が有名で、サードパーティーの音源も充実しているのですが、いかんせん高価であって、今や本体だけでもライトエディションで$249、アドバンスドエディションは$599もします。サブスクリプションのプランもありますけど、たまに弾くだけの素人愛好家には正直敷居が高い。

ときに、有志の開発しているフリーソフトの GrandOrgue というのものがあります。名前からして露骨に Hauptwerk を意識していますが(独:Hauptwerk、 仏:Grand Orgue、 英:Great Organ)、これは元々 Hauptwerk v1 のクローンとして誕生したもので、Hauptwerk v1 用のサンプルセット(オルガンのパイプの録音の集合体)をそのまま使用することが出来ます。一方、本家 Hauptwerk は v2 で大きく仕様が変更されて、v1 のサンプルセットはそのままでは使えません。逆も然り。GrandOrgue はレガシー音源の救済措置として見逃されている感じですかね。

当初は無料なのと動作が軽いことぐらいしか良いところがなかった GrandOrgue でしたが、その後独自の発展を遂げて、機能も充実し、独自仕様の専用サンプルセットなども製作公開されているようなので、久々に挑戦してみようかと思いました。正直、私も今の仕様については詳しくなく、機能を完全に把握しているわけではないので、これは勉強がてらの備忘録のようなものです。


細かいことは抜きに、とりあえずキーボードを弾けば音が出るようにするまでを解説してみます。

必要なものはPC(Windows, Mac, Linux)、そしてMIDIキーボード。 

なにはともあれ、PCにつながるMIDIキーボードが必要です。オルガンの場合、ピアノのように88鍵も要らず、49鍵あれば必要十分。それでも1万円ぐらいしてしまいますが。一般向けのポータブルキーボードなどでも、USB端子があってMIDIキーボードとして使えるものもあります。

まずは上の SourceForge のリンクから GrandOrgue をダウンロードしてください。Linux、Mac、Windows版がありますが、以下Windows版で説明します。現在最新は GrandOrgue-0.3.1.2330-156.3-win64 ですが、58.3MBしかないので、すぐにダウンロードが終わるでしょう。

(※2025/01/09 訂正:間違えました。grandorgue-3.15.4-1.windows.x86_64.exe が現在最新です。SourceForge の「Files」のところからダウンロードしてください。なお、さらに容量が減って 54.1 MB しかありません)

そしてインストールして起動すると、こんな風に付属のデモ用オルガンが早速読み込まれて表示されます。

これを演奏するには、まずオーディオ出力の設定から。

メニューの Audio/Midi から「Audio/Midi Setting」を選択し、「Audio Output」のタブを開いてください。そして Device がたぶんWindows標準の MME になっていると思いますが、できれば遅延の少ない WDM/KS か WASAPI に変更してください(標準では ASIO は対応していません)。それらが使えない場合は Direct Sound で我慢するしかないですが、それでも別に演奏できないということもないです。

(※2025/01/09 訂正:2024-12-20 リリースの v 3.15.4-1 ではオーディオ出力の設定も含めて File→Setting に集約されています。そしてASIOにも対応しています)

次にキーボードの認識。

メニューの「Audio/Midi」から、今度は「MIDI Objects」 を選択してください。するとこんなのが出てきます。

(※2025/01/09 訂正:最新版ではここではなく、画面上の鍵盤を右クリックしてください。MIDIの設定が出てきます)

これらデモ用オルガンの要素をMIDIで制御できるわけですが、とりあえず「First Manual」をダブルクリックします。そして Device に使うキーボードを割り振ってください。

次に「Detect complex MIDI setup」をクリックすると「最低音のキーを静かに押せ」と指示されますので従ってください。すると今度は「最高音のキーを静かに押せ」と言われますので、やはりそうしてください。

これで鍵盤音域とヴェロシティ感度が自動的にセットされます。でもオルガンにヴェロシティの必要性は基本的にないですし、無用のトラブルを避けるには Lowest velocity を「1」に書き換えてしまってもよいのではないかと。

さあ、これで準備は整いました。オルガンの画面に戻りましょう。

しかし、キーボードを弾いても画面の鍵盤がマークされるだけで、何も音が出ないと思います。問題ありません、それで正常です。オルガンはストップを引かないと音が出ません。

GrandOrgue の名の通りストップ名はフランス式です。左上にある「Montre 8'」をクリックしてください、それが一番基本のパイプになります。

それではキーボードを弾いてください。音が出ましたか? これで音が出ない場合、私にはなんとも…

このデフォルトのオルガン、驚異的な小サイズで、見た目も Windows 95 レベルですが、音はまあまあで、ストップも必要なものは大体揃っています。

とりあえずレジストレーションで遊んでみましょう。Montre 8' に Prestan 4' を重ねれば、もっとはっきりした音になります。右側はポジティフのストップなので鍵盤が別。「Ⅱ/Ⅰ」をONにすればカプラーで鍵盤が連動するので、一つのキーボードで右の Octavin 2' も鳴らせるようになります。さらに Plein jeu Ⅲ を乗せれば、いわゆるフルオルガンです。音に厚みが欲しい時は Bourdon 8' や Bourdon 16' を足せばよいでしょう。 

そういうのは以前に書いたものがありました。

問題はペダルで、MIDI用の足鍵盤は選択肢が少なく、値段も法外です。海外ではDIYする人も多いですが、いずれにせよ気軽に用意できるものではありません。

ペダル無しでは人気のJ.S.バッハなどはまるで演奏できないわけですが、別にバッハだけがオルガン音楽ではありません、手鍵盤だけで演奏できるオルガン曲は豊富に存在します。視野を広げてみる良い機会になるのではないでしょうか。

まずイタリア、スペイン、イギリスのオルガン曲は基本的にペダルを必要としません。スヴェーリンクも大丈夫。ドイツもフローベルガーやケルルあたりなら。フランスはルベーグ以降はペダルが必須になるので、ティトゥルーズ、ルイ・クープラン、ニヴェールあたりを。


しかし、付属のオルガンはあくまで動作確認用でしかなく、Hauptwerk / GrandOrgue の醍醐味は、何と言ってもオルガンのサンプルセット集めです。世界各地の様々なオルガンを弾いてみましょう。

また、仕組みとしては録音した音を鍵盤で呼び出すだけのものですから、オルガン以外にもチェンバロやカリヨン、はてはメロトロンのサンプルセットなどもあります。

GrandOrgue のホームページにも様々なサンプルセットへのリンクがあり(多くは無料)、より包括的な Hauptwerk サンプルセットリンク集としては PCorgan.com というサイトがあります。

今も公開されている v1 のサンプルセットも、いつまでウェブ上に残っているか知れたものではないので、とにかく今のうちに集めておいたほうがいいと思います。

サンプルセットのインストールは、ダウンロードして解凍したフォルダにある「.organ」という拡張子のファイルを、メニューのファイル→open で読み込めば良く、あとは付属のオルガンと同じように設定するだけです。

Hauptwerk v1 用のサンプルセットは大抵古いものなので、グラフィックも味気ないのですが(演奏しているときはどうせ楽譜しか見ませんけど)、新規に製作された GrandOrgue 専用のサンプルセットの中には見た目に凝ったものもあります。

例えば Lars Palo が無料で公開しているスウェーデンのカルヴトレスク教会のオルガンのサンプルセットの画面はこんなです。

キーボードを弾けば画面の鍵盤が動きますし、上に並んだストップも実際に機能します。もっともストップの説明の文字が小さすぎて全然読めないのですが。1839年に製造されてからほとんど手の入っていないというこのオルガンは、小さいながらも味わい深い音で、録音も優秀。

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