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ライデン瓶について、後編3:フランクリンのベル

フィラデルフィア実験の成功をうけて、ベンジャミン・フランクリンは1752年の秋頃からフィラデルフィア・アカデミー(現ペンシルベニア大学)や、ペンシルベニア州議事堂(現独立記念館)などに避雷針を設置していきました。1960年の独立記念館の工事の際には、その接地導体がまだ残存していたのが発見されています。

避雷針は、純粋な理論追求や娯楽の域を超えて、電気科学の有用性を市井に示した最初のものと言えるでしょう。

神の人類への思し召しにより、ついに雷や稲妻による災いから住居やその他の建物を守る手段が発見された。 その方法とは次のようなものである: 細い鉄の棒(釘屋が用いる鉄棒でよい)を用意し、一端を湿った地中3~4フィートに、もう一端は建物の最も高い部分から6~8フィート上にあるようにする。棒の上端には、普通の編み針ほどの先を尖らせた約1フィートの真鍮の針金を取り付ける。もし家や納屋が長い場合は、両端に棒と針を付け、屋根に沿って針金で繋いでも良い。このようにした家は雷によって被害を受けない。雷は針に引き寄せられ、金属を通って地面に落ちるので、何も傷つけることがない。また船もマストの先端に尖った棒を備えつけ、棒の下から針金を伸ばし、シュラウドの一つを周って水面に落とせば、雷で傷つくことはない。

Poor Richard's Almanack, 1753.

これらに先立って、フランクリンは当然のことながら、まず自宅に避雷針を設置しているのですが、これに少々仕掛けを施しました。

それは現在「フランクリンのベル」と呼ばれているもので、彼の肖像画にも描かれています。

Portrait of Benjamin Franklin, (Mason Chamberlain, 1762).
Franklin's Bells (replica), Benjamin Franklin collection in the Franklin Institute, Philadelphia, Pennsylvania, USA.

作りは簡単で、避雷針の経路を途中で分断し、両方に金属のベルを取り付け、間に非導電性の糸で金属球を吊るした振り子を設置したものです。

① 上空に雷雲が来ると、避雷針側のベルがマイナスに帯電して球を引きつける。
② 球が避雷針側のベルに接触すると共に、球はベルと同電位になるため反発し、プラス電位のアース側のベルに引きつけられる。
③ 球がアース側のベルに接触すると、球のマイナス電荷が奪われ、再び避雷針側のベルに引きつけられる。

このようにしてベルが鳴り続け、雷雲の接近を報せる仕組みです。

しかし面白そうだからといって、これを自宅に設置してみるのはお勧めできません。一般に雷の電流は 300,000,000 V、30,000 A にもなります。避雷針のアース線の途中にこの様な間隙を設けたりすれば、落雷時には放電によって大爆発が起こることが予想されます。

フランクリンのベルと同様の原理を用いたものに、オックスフォード大学クラレンドン研究所所蔵の「オックスフォード・エレクトリック・ベル」があります。こちらは雷ではなく電池で動くものですが、少なくとも1840年以来、無補給で稼働し続けており、現在も毎秒約2回の周期で鳴っています。

硫黄でコーティングされた2本の筒が電池なのですが、その詳細は不明です。しかしおそらくはヴェローナのジュゼッペ・ザンボーニ (1776-1846) が1812年に発明したザンボーニ電堆 (Zamboni pile) であろうと考えられています。

http://physik.uibk.ac.at/museum/en/details/electr/zambsaeule1.html

ザンボーニ電堆は電解液を用いない真の「乾電池」であり、市販の「銀紙」(片面に錫や銅-亜鉛合金の薄い層を形成した紙)に、二酸化マンガンを塗布したものを数千枚重ねて作られています。紙に含まれるわずかな湿気だけで反応を行うため、電極の劣化が殆ど起こらず極めて長寿命ですが、当然ながら非常に僅かな電流しか得られません。しかし1ユニットあたり約0.8Vの起電力があり、それを数千個直列にしているわけですから、電圧は数kVに達します。いわば「静電気電池」であると言えます。

ザンボーニのアイデアに基づいて、時計職人のカルロ・ストレイジグが1817年頃製作した「永久時計」は、ザンボーニ電堆によって振り子を作動させる、世界初の電気式時計です。残念ながら150年ほど稼働した後に動きを止めました。

https://www.museocivicomodena.it/it/media/raccolte-e-mostre/raccolte-di-arte-e-artigianto/07-strumenti-scientifici

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