ライデン瓶について、後編3:フランクリンのベル
フィラデルフィア実験の成功をうけて、ベンジャミン・フランクリンは1752年の秋頃からフィラデルフィア・アカデミー(現ペンシルベニア大学)や、ペンシルベニア州議事堂(現独立記念館)などに避雷針を設置していきました。1960年の独立記念館の工事の際には、その接地導体がまだ残存していたのが発見されています。
避雷針は、純粋な理論追求や娯楽の域を超えて、電気科学の有用性を市井に示した最初のものと言えるでしょう。
これらに先立って、フランクリンは当然のことながら、まず自宅に避雷針を設置しているのですが、これに少々仕掛けを施しました。
それは現在「フランクリンのベル」と呼ばれているもので、彼の肖像画にも描かれています。
作りは簡単で、避雷針の経路を途中で分断し、両方に金属のベルを取り付け、間に非導電性の糸で金属球を吊るした振り子を設置したものです。
① 上空に雷雲が来ると、避雷針側のベルがマイナスに帯電して球を引きつける。
② 球が避雷針側のベルに接触すると共に、球はベルと同電位になるため反発し、プラス電位のアース側のベルに引きつけられる。
③ 球がアース側のベルに接触すると、球のマイナス電荷が奪われ、再び避雷針側のベルに引きつけられる。
このようにしてベルが鳴り続け、雷雲の接近を報せる仕組みです。
しかし面白そうだからといって、これを自宅に設置してみるのはお勧めできません。一般に雷の電流は 300,000,000 V、30,000 A にもなります。避雷針のアース線の途中にこの様な間隙を設けたりすれば、落雷時には放電によって大爆発が起こることが予想されます。
フランクリンのベルと同様の原理を用いたものに、オックスフォード大学クラレンドン研究所所蔵の「オックスフォード・エレクトリック・ベル」があります。こちらは雷ではなく電池で動くものですが、少なくとも1840年以来、無補給で稼働し続けており、現在も毎秒約2回の周期で鳴っています。
硫黄でコーティングされた2本の筒が電池なのですが、その詳細は不明です。しかしおそらくはヴェローナのジュゼッペ・ザンボーニ (1776-1846) が1812年に発明したザンボーニ電堆 (Zamboni pile) であろうと考えられています。
ザンボーニ電堆は電解液を用いない真の「乾電池」であり、市販の「銀紙」(片面に錫や銅-亜鉛合金の薄い層を形成した紙)に、二酸化マンガンを塗布したものを数千枚重ねて作られています。紙に含まれるわずかな湿気だけで反応を行うため、電極の劣化が殆ど起こらず極めて長寿命ですが、当然ながら非常に僅かな電流しか得られません。しかし1ユニットあたり約0.8Vの起電力があり、それを数千個直列にしているわけですから、電圧は数kVに達します。いわば「静電気電池」であると言えます。
ザンボーニのアイデアに基づいて、時計職人のカルロ・ストレイジグが1817年頃製作した「永久時計」は、ザンボーニ電堆によって振り子を作動させる、世界初の電気式時計です。残念ながら150年ほど稼働した後に動きを止めました。
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