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幻・実話怪談 「壁魚」

 四之宮さんは人魚の魚拓を手に入れたと意気揚々と友人の川北さんに自慢話をした。
 人魚とはいっても、頭が魚で体が人の場合もあるし、足が魚で、上半身が人の場合もある。
 その魚拓はどちらでもない。
 魚の尻尾の先に無数の人間の手足のようなものが生えているという。
 そんな気味の悪いものを見せてくれるという。
 ただ、見せてくれるといった日に、四之宮さんは亡くなってしまった。
 直接の死因はわからないが、
肺に水が溜まっていたということだけはわかったそうだ。
 それからあの魚拓の行方について色々ご家族に訪ねたのだが、
そんなものは無いと言われてしまう。
 ないのなら仕方ない。
 忘れようと思ったが、四之宮さんの死から数年して、
 四之宮さんのご家族から連絡があり、
 魚拓らしきものが四之宮さんの壁に墨で転写された写真が送られてきた。
 太い大きな筆でめちゃくちゃに壁に撫で付けたようなシミが浮かんでいた。
そんなものが突然浮かび上がってきたらしい。 
 ただ、そのシミには鱗模様が浮かんでおり、
 
 筆で撫で付けたというよりは、
 魚が暴れて部屋の壁に墨のついた体を押し付けたような見た目である。
 四之宮さんの奥さんから、部屋が魚臭いときがあるという話も聞けた。 
 
 最後に、四之宮さんが川北さんに電話で、
 「つかまえた魚がまた壁に逃げた」
そう不可解な留守録が一本だけ残されていたという。

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