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みくちゃんと<さくら>のおつかい

みくちゃんのお母さんは料理が得意です。
今日はちらし寿司の日。
でも、材料の買い出しから戻ったお母さんは何やら失敗した様子――、買い物袋から荷物を取り出している最中に、あっと声をあげました。

「しまった!<さくら>を買い忘れちゃった!」

その様子を見ていたみくちゃんに、
「……まぁ……、今回はなくてもいいよね。」とお母さんが言ってきます。

状況がよくわからないみくちゃんが、
「なぁに?何がなくてもいいの?」とお母さんに尋ねると
「ん~、ほら、上に載せるピンクの……」とお母さんは言い出すのです。

これはみくちゃんには大きなショックでした。

あのちょっと甘くて可愛らしいピンクのトッピングがないチラシ寿司なんて、とても受けいれられません。

「やだやだ、いるいる!」

言い張るみくちゃんに、もうお料理の準備に取りかからなければならないお母さんは困ってしまいました。
「そんなに欲しいなら、自分でちょっと買いにいってきたらどう?」と提案してみます。
近所のスーパーは歩いて10分足らずの場所――。
みくちゃんはピンクのトッピングのためならと、慣れない≪おつかい≫でもやる気満々でした。

「わかった、行ってくる!なんていうものを買うの?」
「だから<さくら>よ、<さくら>」。
その答えにみくちゃんはビックリ――。

それは単なる愛称で、そんな名前の食材があるなんてとても信じられません。

「嘘、そんなわけないでしょ。……本当は何ていうの?」と聞き返すと、今度はお母さんの方が驚いて、
「だから<さくら>よ。<さくら>っていうの。わからなかったらお店の人に<さくら>をくださいって言えばいいから」というのでした。

半信半疑のまま、弟のりく君といっしょにスーパーに向かうみくちゃんでしたが、まさか「<さくら>をください」なんてとても言えないと思っていたので、何としてでも自分の手で見つけ出す気でいました。
それなのに、スーパーでその<さくら>を見つけることができないのです。

***

店内で、明らかに何かを探している様子の小さな子ども二人――、これを気にかけた親切な店員さんが、みくちゃん達に優しく声をかけてきました。
「何を探しているの?」
でもその親切は、<さくら>などというものを探しているみくちゃんには恥ずかしいだけです。

それでもとりあえず、お母さんに教えられたとおり「<サクラ>はどこですか?」と言ってみました。
そしてその反応は、まさにみくちゃんが思っていたとおり――、店員さんは
「<さくら>?」
と、戸惑ったように聞き返してきたのです。

 やっぱり――!!

みくちゃんは恥ずかしさに赤面しそうでした。

 やっぱり<さくら>なんて言わないんだ!お母さんのバカバカ……!!

心の中で思いっきり半べそをかきながら、シュンと下を向き、小さな声で「お寿司の……」とつぶやくみくちゃん……。

でも、それを聞いた店員さんの反応は、今度はまったく違ったものでした。
「あぁ!<さくら>ね!」
と笑顔を浮かべ、「こっちよ」とみくちゃん達姉弟を案内してくれたのです。
その先にはみくちゃんの求める可愛いピンクのトッピングが……。

そしてみくちゃんが手にしたその商品には、しっかり「さくら」と書いてあったのでした。

目当ての<さくら>を手に入れて意気揚々と家に戻ったみくちゃん――。
自慢げに<さくら>をお母さんに差し出しながら、
「ねぇお母さん、これ<さくら>って言うんだよ。ほんとに<さくら>って言うんだよ」
と何度も繰り返します。

「そうよ、それは<さくら>よ」。

笑顔を浮かべながらみくちゃんに付き合うお母さんでしたが、どうしてみくちゃんがそんなに興奮して何度も何度もそれを言うのか、お母さんにはどうしてもわからないのでした。

おわり

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